1. はじまりは突然に
いつも通りの朝、のはずだった。


ふと気がつくと、私の部屋のベッドとは違うシーツに横たわっていた。なんだこれ、いつもと違う、ともぞもぞと身体を動かすと、隣になにかあるのを感じた。ふさふさで温かい、ペットのような何か。そのふさふさをぎゅっと抱き締めると仄かに愛犬家の友達の匂いがした。私はその温かさで再び目を閉じ、意識を手離してしまうのであった。




「ふあ〜………」
「……あの、」
「…んん〜?」
「ど……どなたですか?ここ、男子寮ですよ…」

「…………………
 …………………は?」

よく寝た〜、と伸びをしていると、聞き慣れない声が。男子寮?どういうこと? 私昨晩記憶が飛ぶほど酔っ払っていた?アイスに入っていた0.3%のアルコールで?そんな馬鹿な。
声の聞こえた方を振り向くと、目の前にはTシャツにスウェットという格好の灰色のワンちゃんが。さっきの声の主はどこ?とキョロキョロ辺りを見回すと、困ったような顔の灰色ワンちゃんが口を開いた。立派な牙が喋る度に見え隠れする。

「えーと……大丈夫?もしかして…ここまできた記憶ない?」

え、嘘!!

犬が、犬が…

「喋ってる?!!」
「え、あ、ハイ…… 流石に喋れますよ、子供じゃないんだから……」
「………あー、ハイハイ、分かった夢だこれ」
「あの、僕の話、聞いてます?」

自分の頬をつねる。痛い。どういうことだ。目の前のこれは現実なんだろうか?

「あ、もしかして着ぐるみ?マンウィズ的な」
「はい?………いだっ!! ちょっと!何するんですか!」
「…ええ…… どうなってんの……」

頭を引っ張ってみても取れない。着ぐるみでも無さそうだ。目の前のワンちゃんを一通り弄くりまわしていると、いつの間にか数匹のワンちゃんに囲まれていた。

「またレゴシが一人で騒いでると思ったら…… 誰だよその女の子!」
「まさかレゴシが連れ込んだのか?」
「そ……そんなわけないだろ! 目が覚めたら俺のベッドで寝てたんだよ!」

いや、本当にこれどういう状況なんだろう。男子寮と言っていたから、多分学校なんだろうけど… 果たしてここはどこなんだろう。目の前で言い合うワンちゃんを眺めながら、頭を働かせる。なんかこの状況、友達に借りた漫画に似ている気がする。つまり…

「異世界トリップ…?」

いや、まさかね。トラックに轢かれもしてないし、運悪く開いていたマンホール穴に落ちたわけでもない、過労で倒れたわけでもないただの高校生の私が、しかもいつものように寝ていただけでそんなことが起きるだろうか?

「異世界…ってSF作品であるやつ?」
「まっさか〜! お伽ばなしだよそんなの」
「もしかして君って天然?」

ワンちゃん達は私が呟いた途端に言い合いを止め、お互いの顔を見合わせた後、どっと笑った。いや、私にとっては笑い事じゃないのよ。異世界トリップ、根拠はないんだけど、なんとなく私は確信していたのだった。


「ねえ、ここはどこ?」
「…え、本当に?君、本当に異世界トリップしてきたわけ?」
「とりあえず自分の意思でここに辿り着いたわけではないのは確かね」
「ふーん……なんか厄介な事になってるんだね。ここはチェリートン学園。中高一貫の学校だよ」
「レゴシってなんていうか…この状況を受け入れるの早くない?」
「やっぱ変わってるよな〜レゴシは」
「……」


うーん、場所は分かったけどそれ以外の情報が欲しい。この世界がどういうところなのか、なんとかして知りたいけど……

ん、待てよ。中高一貫の学校……?

「学校ってことは、歴史とか政治の授業ってあったりする?」
「そりゃあまあ……」

来た!これだ!授業に出れば、きっとこの世界の事が分かるかもしれない!それに、図書館とかもあるだろうし、情報を集めやすいかも…

「ねえ、……えーと、レゴ?くん、だっけ?」
「そういえばきちんと自己紹介してませんでしたね…。俺は"レゴシ"です」
「レゴシくん、ね。オーケーオーケー」
「君から見て一番左にいるのがミグノ、隣がコロ。で、俺の肩に乗ってるのがボス、俺の右隣がジャック、その隣がダラム」
「「「「「よろしくね〜」」」」」
「皆よろしく〜」

レゴシくんの紹介で、皆の名前を知ることができた。皆顔つきも耳の形も違うけど、なんて犬種なんだろう。ボスくんなんて、すごく小さい。

「で、君の名前は?」
「あ、自己紹介遅れてごめんなさい!私は名前!です!」
「名前さん!よろしくね〜」

ジャックくんは笑顔で手をヒラヒラとさせた。人懐っこい犬種みたいだ。



「そうだ、話は変わるんだけど、この学校に入学とか編入するためにはどうすればいいか知らない?」
「それなら学園のホームページに載ってるんじゃない?」
「ほ、ホームページ!」

やった! ホームページ!ってことはインターネットがあるってことだ!異世界モノでよく見る中世ヨーロッパ風の、娯楽がなーんもない場所ではない! 一人で感動していると、ジャックくんがスマホらしきもので学園のホームページを見せてくれた。

「…編入するには試験受けて合格する必要があるみたいだね」
「試験かー…」
「次の編入試験の願書の受付は明後日までみたいだね。試験は願書締切日から10日後か〜」
「……はい?」

これはやばいぞ。早急に準備しなくては。





「ごめん、本当に皆には迷惑かけるんだけど!2週間!付き合ってもらえませんか!!」

「「「…………ええ?!!!!」」」



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