泣き腫らしたせいか、いつもより瞼が重い。
顔を洗うときに冷たい水で何度も冷やしたものの、やはり昨日は眠れなかったこともあり、いつもと違う自分を見て、ため息をつく。


(接吻…されてしまった…)


無意識に、指先が唇へと向かう。
あの時の勇の表情が、忘れられなかった。
接吻後の満足そうな顔。
そしてその後の、困惑の眼差し。
あんなに優しい表情を見たのは、初めてだと思う。

勇が接吻をした理由はわからない。
ただ、いい加減な気持ちでされたくなかった。


(接吻って、好きな人とするものでしょ…?)



勇が使用人である自分をそういう目で見るなんてことが、あるわけない。


(もしかして、衝動的にただなんとなくシたかったから…とか?…)


気紛れな勇のことだ。
そういう気分でしたのかもしれない。が…
そこまで考えて、ありえない、と頭をブンブン横に振る。


(私は使用人なのよ…?)


普段から、軍人の嗜みだと言って
色町へよく行くようだったし
キレイな女性たちをたくさん見てきて相手にしている勇にとって接吻など、そんなに重要ではないのかもしれない。
でも、それでも。
はるにとってはとても大切なことだから、悲しくなった。


しかし、悩んでいてもしょうがない。
自分は勇の専属使用人になったのだ。
今朝も当然、勇のお世話が待ってる。
相手は、宮ノ杜の人間だ。
昨日のことは、何かの間違いであったということで忘れてしまった方がいい。




「さぁ。今日も笑顔で仕事、仕事」


自室で一人、声に出して自分を励ますとはるは勇を起こすため勇の部屋へと向かった。



















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