あの時、あの場所。その時、その場所。Uは私を引き留めた。
Uを知らない。Uのことを知らない。何も知らない。
『それを知ったうえで告白するのかだと思う』
Cは知っていた。
『本当にその子はすごいと思う』
Uの気持ちを知っていた。
Cは馬鹿じゃない。馬鹿は私だ。何も知らない。この無知な私。私はなんて罪深いんだろう。
Uはなんで私が好きだったんだろう。あの時、Uは私に何を言ったんだろう。
無知な私は通常会話だと流したのだろう。だって、覚えてないから。
Cは分かるだろうか。同じ者として。Mは分かるだろうか。Dは。クラスメイトは。Uは何を伝えようとしたのか。
窓の外の山は黒くなってきた。空はどんどんオレンジ色になってきた。椅子から立って窓の方へ行こうとした時。
『あのね。・・・私。とても不思議な気持ちになるの。・・なんだか、泣きそうになるの、。。。将来が不安になるとかじゃなくて、感動・・でもなくて。ただ、幸せな気分になるの。・・ねぇ。そうなったことない?・・私は中学からよ。・・ねぇ、私。幸せなの。・・・ねぇ。恋・・したこと、ある?・・私、、はね・・』
ああ、思い出した。
そうだ。そうだった。Uとは中学が一緒で、一年と二年の時同じクラスだった。よく話をしてて、中三ではクラスが別だったから、疎遠になってて。高校が一緒だって知って・・
あの時、私はなんて返しただろうか。Uの表情を覚えている。
Cと同じ。眉を八の字にして、困ったように笑って・・・Uは最後。私になんと言ったのだろうか。
空は黄昏になってきた。あと数分で本当の黄昏時になるだろう。
窓へ寄ろうとした。一机分の距離。窓の手すり。困った顔。ポニーテールの毛先。振り向く君。
『今、恋してるんだ。今、ここで。この場所で』
ああ、なんてことだ。私は本当に馬鹿で無知だ。なんて愚かだ。
Uは私に恋をしてた。理由は知らない。普通じゃないことを認めた瞬間の恐怖を知ってもなお、彼女は私に伝えた。怖かっただろう。遠回しに私へ告白してきた。きっと足はガタガタ震えてたんだろう。手には汗が流れてたんだろう。Uは恐怖とともに私に伝えてきた。私はなんて返したのだろう。
はっとして意識が戻った。目の前には私がいた。
『そう。恋してるんだ』
淡泊に、淡々とそう言った。
なんてことだ。私は立ち尽くした。手が震えた。後悔が心臓を抉った。抉った場所から血なんてものは出ず、ナイフとなった後悔が刺さったままだった。
『うん。そう・・恋してるの』
Uは顔を窓へ向けた。
私の言葉は魔法だった。人を殺す魔法だった。何の感情もこもってない。相槌のような口調で私は言った。Uの気持ちも知らずに。
ねぇ。U。ごめんね。私、馬鹿だから、無知だから、恋なんてものを知らないの。ごめんね。ねぇ、U。
私の言葉は声にならずに小さな棘となって心に刺さった。それでも、声に出して聞きたいことや言いたい言葉があった。
ひとつ、聞きたいことが。あるの。
Uはいない。いなくなった。私の言葉で死んだ。
どうして、私を好きになったの?
私は震えた情けない声で言った。私は膝から落ちて両手で口を覆った。その質問は教室に響くことなく消えた。
黄昏時。誰そ彼。
そこで泣いたのは誰か。
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