死にたいと呟き青い空を睨んだ。

秋の空は雲もなくカラッと晴れた青だった。私はその青を睨み誰もいない帰宅路を歩いた。
この道を使う人はあまりいない。みんなの家は基本的に南にあるからだ。でも、西門を使う人は本当に少ない。学年が違えど顔を覚えれるほどだ。理由は簡単。駅がないから。だから徒歩通学の生徒だけが西門を使う。

「・・・」

ふと人の気配がして後ろを見てみたら、綺麗な女の子がいた。知らない子だ。こっちの方面じゃない。初めての子だ。

「・・・」

黙っているからさっきの独り言ても聞かれたかな。と恥ずかしくなった。別に何も言ってませんよ。という風で前を向いて歩き始めた。

「ねえ。死にたいの?」

その言葉に後ろを向いて、え?と小さく呟いた。

「死にたいの?」

もう一度その子は言った。透き通る声。ヒュウっと風が吹いた。ロングのストレートな綺麗な髪の毛がふわっと空を舞った。太陽に反射して白い綺麗な髪がキラキラと白銀に見える。青みがかかった紫の瞳は真っ直ぐと私を見ていた。

「どうだろう。ただ、今。死にたいと思っただけだよ」

「そう、私は思ったことないな」

「そう、強いのね」

「貴女は弱いの?」

「そうね。多分、弱いわ。だって死にたいと思っているんですもの。でも、きっと今だけね」

「今だけ?」

「ええ。なんかね。気分の上下が激しいの」

「鬱病?」

「さあ?どうかしら。先生は病気と言うけど私は病気じゃないと思っているの。ただの気分屋よ」

「そう」

「それに、病気はあるもの」

「病気持ち?」

「まぁね。変な病気だけど」

「どんな?」

「言わないわよ。恥ずかしいもの」

「私も病気、持ってるよ」

「そう。でも、普通のありきたりというか聞いたことがある病気でしょう?」

私がそう言うと彼女は無表情のまま

「身体が、徐々に氷のように冷たくなる病気」

と言った。

「何?その病気。冷え性?」

「そんな甘くない」

そう言うと彼女は私に近づいてきた。そして私の前に手を出した。
私の無言で出した手を自分の手で引いて握った。
握られた瞬間。驚いた。なんて冷たい手なんだろう。その手は冷え性よりも冷たい。氷のような手だった。

「私はそのうち凍ってしまう。布団に入っても冷たい。でも私は私の身体が当たり前だから冷たいと思わない。凍るって言うのは言い過ぎだけど。正しく言うなら体温がなくなる感じ」

そう言いながら私の手を握って自分の頬に持って行き私に頬を触らさせた。そのまま耳。耳の後ろ。顎。首。首に来たあたりで指先で軽く押すように触れさせていた私の手を離して今度は手首を握った。そのまま私の手を首に持って行き。触れさせた。
その姿はまるで、私に首を絞められているのか。それとも私に首を絞めさせているのか。冷たい冷たい青白い綺麗な肌の細い首を触れて、なんだかこのまま絞めてしまいたくなった。青紫の紫陽花色した瞳は真っ直ぐに私を見ていた。そのパッチリとした瞳には私の顔が写っていた。

「ね」

そう言うと、私の手を離した。

「冷たいのね、とても」

「まぁね」

「私のね、病気も可笑しいのよ」

彼女の冷たさを知って、なんだかこの変な病気は自分だけではないのだと安心した。

「気分障害なのかしら。そういった時に不安になるのよ。気分が上がれば上がるほど、落ちた時の反動が怖くなる。何もかも嫌になって、泣きそうになるの。私は病気ではないと強がるんだけど、結局落ちてしまうと泣いてしまうの。きっと自分はもうダメなんだと。死にたいと。その泣く時にだけ、涙が鼈甲飴になるの。甘い甘いでもどこか苦くてしょっぱい飴。落ちるたびに、カランと音がなるの。ねえ?変でしょう?」

そう私が言えば、彼女は冷たい手で私の顔を触った。その冷たさに驚いて少し跳ねてしまった。

「そんなことないよ。鼈甲飴。好きだよ。鼈甲飴の色はとても綺麗な色だから。君の瞳は綺麗な黒だから。落ちる涙はきっと綺麗なんだろうね」

と無表情で冷たい声で言った。
その言葉になんだか泣きそうになって、ぐっと我慢した。

「もし、気分障害で泣きそうになったら私の所へおいで。慰めてあげるよ」

と言った。
私はその冷たい手に自分の手を置いて

「うん」

と言った。
その拍子に涙が少しだけ流れた。きっと今のも気分障害なんだろう。鼈甲飴が滑り落ちてアスファルトにカツンと割れた。
彼女は私の涙を見て、無表情だったけど瞳が少しだけ揺れたから驚いたと思う。それでも彼女は無表情で私の涙を食べた。

「しょっぱいね。でも、嫌いじゃないよ」

と言った。
私は涙が止まらなくて、アスファルトに金色をした塊が弾け飛ぶ音を聞いていた。

「君の涙は、まるで、星のようだね」

と無表情のまま微笑んだ。

 

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