今日で一年が終わる。
今年は色々あった。氷雨や霧氷に出会った。色々と奇跡だった。
「もう少しで、年が明けるね」
「そうね。まだ、14時だけど」
私は氷雨の家に来ていた。
今日で宿題が終わる。氷雨にはわからない数式や化学式を教えてもらった。氷雨は記憶力もよく、国語の問題点はあっという間に解決した。
「私、餅嫌いなのよね」
休憩中につけているテレビからお雑煮などお正月に食べるものの特集をやっていた。
「そう」
「うん。なんかね。ネバネバというか、ネチョネチョというか」
氷雨は、ふーん。とコーヒーを飲んだ。
「氷雨は、食べるのこと好きよね」
私の唐突の質問に、氷雨は
「そう?嫌いじゃないけど」
と返した。
「細いのに、どこにそんなに入るの?」
「どこって、胃でしょ」
「そういうことじゃないわよ」
氷雨の答えに私は、クスリと笑った。
「そういえば、今年は雪が降るらしいわね」
「らしいね」
「この地方はあまり雪が降らないものね」
「そうだね」
寒いだろうなぁ。と氷雨は呟きコーヒーをお代わりした。
「雪の前に、雨が降るかもよ」
「雨?」
氷雨の言葉に、私は、そんな決まりあったかしら。と気候を思い出していた。
「いや、降るかわからないけど。雨雲が凍って雪雲になるって言うじゃん?」
「なるほど」
「雨は好きだよ。私の名前だしね。冬だし」
「私は嫌いよ。傘に当たる音や跳ね返る音は好きだけど。頭が痛くなるんですもの」
「痛くなるの?」
「ええ。なんかね。偏頭痛というか、ストレス性というか」
氷雨は、ふーん。とうなづき
「頭痛くなる時って、気分は下がってるの?」
と聞いてきた。
「下がりまくりよ。もう、イライラするし、上がらないわ」
「ふーん。じゃあ、頭痛くなったらうちに来ればいい」
氷雨はチョコを口に入れながら言った。
「いいの?」
「うん。まだ、そういうので一度も来たことないけど」
「ここは、最後の砦にしているの。そう簡単にきたら治るに治らないわ」
「そっか」
氷雨はコーヒーを飲んだ。
「そういえば、来年は受験だけど」
氷雨の言葉に、胃が重たくなった。
将来のことは、必ずしも考えなくてはならない。生きていたくない私は、将来のことをあまり考えたくない。
「なんか、決めてるの?」
「いいえ。全く」
「そう」
「氷雨は?」
「私?決めてないよ。だって、その前に死ぬから」
氷雨の言葉に、頭の中が真っ白になった。
「え?」
「きっと、死ぬ。だから、考えてない」
「でも、先のことを考えていたら寿命が延びるとか言うじゃない」
「伸びないよ。これは、決定事項だから。伸びるどうこうの話じゃない」
氷雨は淡々と言った。
私は、頭は真っ白だし、何も考えられなかった。
氷雨が死ぬ。
それだけが、妙に生々しくて心臓が捻れた。行かないでと叫びたくなった。
「やってみたいとか、生きていたらどんな職に就きたいとかあるの?」
私の質問に、氷雨は
「考えたことなかった。そうだなぁ。花屋かなぁ」
「花屋?」
「うん。やるだけならね。花、好きだから」
私は、ふーん。と相槌を打った。
「じゃあ、あとちょっとだし、残りの宿題やっちゃおうか」
氷雨の言葉に、うん。と賛同し、宿題を始めた。
「終わった」
「お疲れ様」
「ありがとね。氷雨」
「いいよ。別に、復習にもなったし」
そういうと氷雨はキッチンの方へ行った。
「お母さん。今日は何時くらいに帰ってくるの?」
「さあ?もう少ししたらじゃない?ラインになんか来てない?」
そう言われ、氷雨の青い薔薇が咲いているスマホのホーム画面を開いた。
「今から、帰るって」
「そう。いつ頃きてた?」
「えーと。約10分くらい前」
「そう。じゃあ、あと20分っていうところかな」
氷雨はそう言うとコーヒーのお代わりが入ったポットを持ってきた。
「じゃあ、あとちょっとしたら帰ろうかな」
私がそう言うと、わかった。と氷雨は言った。
「じゃあ」
「うん」
私は帰る準備をして、ソファーを立った。
「ありがとね」
「ん」
リビングを出て、廊下を2人で歩いた。
「じゃあ」
靴を履いて、マフラーを巻き、氷雨に挨拶した。
「来年もよろしく」
「ん。こちらこそ」
そう言い手を振りドアを閉めた。
帰り道、結構夜遅くまでいた。
空には星が輝いていた。あと、約1時間半くらいで紅白が始まる。今年は好きなバンドが出るのだ。
始まる前に、お風呂に入って、髪の毛乾かしてと色々としなければいけない。早足で帰ろうと、イヤホンを耳にはめて、好きなバンドの好きな曲を流した。
『きっと死ぬ』
氷雨のその言葉は、私の胸の奥の奥に棘のようにチラチラと刺さった。
あの子が死ぬ。なんだかとても悲しくなった。霧氷が死んでもきっと悲しむだろう。しかし、なぜか氷雨の死は目尻が熱くなった。
ああ、そうか。私は今情緒不安定なのか。
気分を上げないと。紅白が見れない。
鼈甲飴も出てないし、きっと霧氷よりも先に出会って長くいるせいだろう。
そう答えをつけると、私はさっさと帰った。
胸の痛みは知らない。
あの紫陽花色の瞳を見ると、目を背けたくなるのはきっと、あまりにも、綺麗な、瞳だから、だと、私は、そう、思うことにした。
top
← →
Backindex