1月も終わりに近づいてきた。
2月の最後。3月の数日まで期末がある。
テストが終わったばかりなのに、嫌だなぁと思った。

「雨、止まないね」

「そうね。今日は公園行けないわね」

食堂で昼食を食べながら話していた。
今日の氷雨の昼食は、きつねうどんだ。

「頭の方は大丈夫?」

「ええ。まぁ、いつも通りだけど、気分は上がらないわね」

「そう」

氷雨はうどん、ズズズと吸った。
お腹がいっぱいになり、教室に戻る前に少しのんびりしてから食堂を出た。




その日は公園によらず、家に帰った。
気分が上がらない。上がる気配もない。頭が痛い。ガンガンする。近くで銅鑼を鳴らされている気分だ。イライラする。
全部が嫌になる。イライラする。頭は痛い。死にたい。消えたい。鼈甲飴は止まらない。床にカランカランと音がなる。その音が鬱陶しい。うるさい。耳を塞いでも、わずかな床に落ちる感覚が体に響く。なんて、鬱陶しいんだろう。
鼈甲飴を落とすたびに、変な病気を持った自分が気持ち悪く思える。
惨めになって、死にたくなる。
自分はダメだなと。死んでしまうことに納得をせざるおえないあの子がいるのに。
でも、死にたいと思う。死にもできないくせに。と自分を憎んでも、意味がない。
イライラする。本当にイライラする。鼈甲飴が邪魔だ。部屋の一部が鼈甲飴で満たされる。
もう、いやだ。死んでしまいたい。
母親の声が聞こえる。うるさい。今忙しいんだよ。聞こえてないのかと、母は大声で呼ぶ。
うるさい!ほんとに!私は、今!忙しいんだよ!カランカランとなる鼈甲飴は本当に目障りだ。
なんの罪もない母親にイライラしたことに、自分を責める。
なんてダメな人間なんだろう。消えてしまいたい。本当に、むかつく。むかつく。むかつく。むかつく。死んでしまえ。
鼈甲飴が目から止まらない。本当にどうしよう。


氷雨


そう思うと体は冷たい雨の中にあった。
急いで走った。息がきれる。顎が痛い。氷雨。あなたに会いたい。
マンションに着くと、番号を入れた。

『はい』

「氷雨・・・、氷雨」

『瑠璃?』

氷雨はなにを言わずに鍵を開けてくれた。
エレベーターに乗って、8階へ急いだ。
エレベーターに乗っている間。脳は冷静になった。あれ?私なにしているんだろう。氷雨に会って迷惑じゃないのか。連絡も入れなかった。頭がズキズキと痛い。私はダメだな。ここは最後の砦だったのに。

そう考えていると、ポーン。と音がなって8階へ着いた。
冷たい体をひきづって、右端へ行った。

「瑠璃」

「・・・」

「入って」

私はなにも言わずに黙って入った。
頭はズキズキと痛み、他になにも考えれなくなった。

「風邪ひくから、・・・タオルで拭いて、そこの着替えに着替えて」

氷雨は私を洗面所に連れていき、お風呂に入るように言った。
湯が張ってあるお風呂は暖かかった。頭痛もそこそこ痛くなくなった。
落ち着いているのに、心はポッカリと穴が開いたようだった。体育座りをして膝の上に顔を乗せた。チャポと動くたびにお湯が動く音がした。

氷雨に用意された服に着替え、リビングに行った。

「部屋、いく?もう少しでお母さんが帰ってくる」

と言った。
氷雨の部屋に移動し、部屋に入った。
シンプルな部屋は、白と青と焦げ茶のみで統一されていた。

「座って」

氷雨は私をベッドにもたれるように座らせた。

「髪の毛、乾かすよ」

氷雨はそういうと、ドライヤーを私の髪にあてた。
ゴーという音が部屋に響いた。

「乾いたよ」

氷雨はドライヤーのコードを結び、机の上に置いた。
部屋にあるローテーブルには暖かいカフェオレがあった。

「飲みなよ」

氷雨の言葉に私は人形のように、スッと手を動かしコップを持った。
やはり、氷雨のコーヒーは美味しい。

「大丈夫?」

「・・・」

私はカフェオレを机の上に置いた。
なにも言いたくなかった。なにを言えばいいのかわからなかったから。
なにも考えれない。考えたくない。そう思う私は黙ってうつむいていた。

「瑠璃・・・。こっちおいで」

氷雨は私をベッドの上に呼んだ。
ベットの上にのり座った。氷雨は

「頭は、大丈夫?」

と聞いてきた。私は、黙ってうなづいた。

「そう・・・」

しばらく沈黙が続いた。
なんだか、情けなくて涙が出そうになった。鼻をすすった音が静かな部屋に響いた。
その音を聞いた、氷雨は

「大丈夫。大丈夫だよ。瑠璃。泣いていいんだよ」

と抱きしめてくれた。
暖かい体の私は、氷雨の冷たさに驚いたが嫌ではなかった。

「大丈夫。大丈夫。今、気分が下がっているだけ。瑠璃は悪くない。なにも、悪くない」

氷雨の言葉は私の心の穴に優しく入っていった。
そのうち私は声を出して泣き出し、氷雨に抱きついた。
どうしようもない不安感に、私はいつも殺されそうだった。首をジクジクと絞められるように、身体を何度も刺されるように、痛いと叫んでもやめてはくれなかった。
鼈甲飴は私の大好きな白銀に転がっていった。

氷雨。氷雨。

と嗚咽交じりで呼ぶ私に、氷雨は優しく

「ここにいるよ。大丈夫」

と言ってくれた。
氷雨の優しさに私は、赤ん坊のように泣き叫んだ。




瑠璃が泣き疲れてから氷雨はベットに瑠璃を寝かせた。
氷雨はリビングに瑠璃の飲んでいたカフェオレを持ち戻った。瑠璃は泣いていて気づいてなかったが、泣き声を不思議に思い氷雨の部屋を訪れていた。氷雨が、母親に大丈夫と言い。母親は部屋のドアを閉めリビングに向かった。

「瑠璃ちゃん?」

「うん。軽い鬱なんだって」

と母親に瑠璃の鬱のことのみを教えた。
氷雨の母親は、そう。大変ね。とだけ言い、瑠璃の家に電話を入れた。

氷雨は自分がお風呂に入り、ご飯を食べた。
寝る時間になり氷雨は部屋に行き、瑠璃の隣に並んだ。瑠璃の手を握り、大丈夫。というように優しく握りなおした。
氷雨の冷たい手に瑠璃は無意識に、ううん。と動いたが眠ったままだった。掛け布団の上にあった鼈甲飴は瓶の中に詰めた。

瓶に詰めた鼈甲飴は月の光に反射してキラキラとしていた。

 

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