2月にはいった。
雪はまだ、降らない。
「寒くなってきたね」
霧氷はそういうと自販機で買ったホットの紅茶を飲んだ。
「そうね」
と私は言った。
あの冷たい雨の日。私は氷雨の家に泊まった。氷雨のご両親は仕事があると言って先に出かけた。迷惑をかけた。とあれから手土産と一緒に氷雨の家に行った。
氷雨はなんともないような顔をして、私を起こした。
朝ごはんを一緒に食べて、一緒に登校した。
なんとなく恋人っぽいな。と思った。それは、きっと迷惑をかけたという罪悪感に見舞われてうつむいていた私の手を氷雨が握ってくれていたからだと思う。
「雪、降らないかなぁ」
「雪が降ったら、色々と大変よ」
「学校が、休みなるかもよ」
「そうね。でも、2人に会えないのはなんかさみしいわね」
と私は言った。
そこで、ふと。氷雨に会えない。と思った。
霧氷にも会えないのに、氷雨に会えないと悲しいのはなぜだろう。
あれから、1週間。私は氷雨のことを考えた。考えれば考えるほど、胸がいっぱいになった。
「風が、強い」
霧氷はモコモコしたグレーのマフラーに顔を埋めた。
私も、寒い。と目を強く閉じた。氷雨は髪の毛をなにくわぬ顔で手直ししていた。
「寒い」
「そう?」
「寒いわ。冬だもの」
寒さを感じない氷雨に私は言った。
真っ青な低い空には太陽が付いていた。
太陽に照らされて氷雨の髪は光に照らされた雨のように光った。
紫陽花色の瞳は空を、ボーと見ていた。
「瑠璃って、寒がり?」
「いや、そんなことないわよ。夏になれば誰よりも汗はかくし、夏バテするわ」
「そうなんだ」
氷雨は、暑さがわからないからなぁ。と言った。
「寒い。風も強いし、帰るね」
霧氷はそう言った。
じゃあ、私も。と立ち上がった。
氷雨がバックを持って入り口に向かう。私はマフラーを結び直した。
私の横を通る時、白銀の髪がさらりと揺れた。紫陽花色の瞳は輝き、あの優しい声で、待ってるね。と言った。
私は、氷雨を見て、ああ。私はこの人に恋をした。と確信した。
同性愛など関係のない話だと思っていたが、まさか自分になるだなんてと思った。
氷雨の無表情の顔に紫陽花色の瞳はとても美しく見えた。
ああ、あなたが好きよ。とても、好き。
そう思った瞬間。
「う・・・うう、・・」
と気持ち悪くなった。
トイレもなく、フェンスの近くへ行き端っこの方で胃から流れてきたものを吐き出した。
え
胃から吐き出しものは、食べ物でも胃液でもなかった。
青
ひたすら、青い
その地面に落ちたのは、青い薔薇の花びらだった。
(なに、これ)
私は頭が真っ白になった。
理解ができない。口から花びらが出てくるなんて、なんなのよ、これは。また、おかしな、病気にかかったの?やめてよ、冗談じゃない
「大丈夫?」
そこに来たのは、霧氷だった。氷雨は霧氷の後ろにいた。
やめて、今は来ないで、この花びらを見ないで
「瑠璃?これは」
霧氷の呼びかけに私は、やめて。見ないで。と小さい声で叫ぶように言った。
霧氷は数秒黙ってから、氷雨に
「氷雨。水を買ってきてもらってもいい?」
と言い、氷雨は水を買いに行った。
「大丈夫?」
霧氷の声に
「う、うん」
となんとなく返事をした。
「これは、どうしたの?」
「知らない。口から出てきた」
「そう。なにか身に覚えはない?」
「ないわ。食べてないし」
と言い終わった後、ふと思った。
氷雨を好きだと自覚してから、私はこの薔薇を吐いた。
あの子は、青い薔薇が好きだと言っていた。
「氷雨・・・」
と私は呟いた。
霧氷は黙っていた。私は、ごめん。と言い屈んでいた体制から立ち上がった。
「氷雨?」
「え、いや。なんでもない」
「そう」
霧氷はそういうと、これは隠しときましょう。と革靴で花びらをはらった。
氷雨は帰ってくると
「大丈夫?」
と水をくれた。
氷雨を見たらなんだか照れて
「ありがとう」
と少し目線を外しながら言った。
それから、少しして家路に着いた。
「瑠璃。大丈夫?」
「ええ。ありがとね」
といつも通りに会話をした。
氷雨と別れて、1人で黄昏の空の下を歩いていた。氷雨。氷雨。思うたびに、好きだなぁと思った。
「う」
あの吐き気。
気持ち悪い。どこか吐かないと。気持ち悪い。
「うえ」
電信柱の近くで、私は吐き出した。
また口から出てきた、青い薔薇の花びら。
なんなんだ。これは。あの子を想うたびにでてくる。
花を吐くのはとても辛い。ノドは焼けるようにジリジリと痛むし、目尻は熱くなる。鼈甲飴が出ない。うぇ。と吐くたびに青い薔薇の花びらが出でくる。黒いコンクリートは青い薔薇がよく冴えた。
はぁはぁと、息を吐き口元を拭った。
青い薔薇を触ってみたら濡れている感じもない。乾いた青い薔薇の花びら。
この溢れた花びらをみて、綺麗だと思った私は、どうしようもない、馬鹿だと思った。
top
← →
Backindex