移動教室。寒い廊下を歩いていると

「瑠璃」

呼び止められて、声をした方を向いた。

「霧氷。どうかしたの?」

「ええ。あのね、この前の青い薔薇のことで」

と霧氷が言った瞬間、焦った。
言いふらすような子じゃないのはわかっていたが、人間、そういうのにはどうしても敏感になる。

「え、ええ。あの花びらのことね」

とどもりながら言った。

「私、調べたんだけど。あれ、病名があるみたいよ」

と霧氷が言った。
病名?ヘンテコな病気に?名前なんてあるの?鼈甲飴のには、ないのに。

「嘔吐中枢花被性疾患って言って。通称、花吐き病っていうんだって」

と霧氷が言った。

「はな・・はき、びょう」

私はかたごとになりながら言った。

「好きだと思うと花を吐くことらしいよ。完治するには両思いになること。そしたら、白銀の百合を吐くらしいよ。それに、吐いた花に触れたら感染するんだって」

と霧氷の説明を聞いて、絶望した。
私の想いは届かない。届けられない。なんて、惨めなんだろう。

「それでね、瑠璃」

「なに?」

「もしかして、あなた。氷雨のこと」

そう言いかけた瞬間、私は顔の血が引いていくような気がした。


「いいのよ。別に。誰にも言わないし、言えないもの」

と霧氷は優しく笑った。

「可笑しいでしょう?女子を好きになるだなんて」

と自傷気味に言った。
霧氷は優しく微笑み

「そんなことないわ。恋をすることを止めることはできないもの」

可哀想に。と言った。

「虚しいわ。私。それに、あの子はいつか死んでしまうもの。それも寂しいわ」

なんて、不毛な恋をしてしまったんだろう。
私は私を呪った。会いたいと思うたびに、好きになる。でも、その反面辛くなる。
恋というのは本当に辛いものなんだと思った。

「瑠璃。大丈夫?」

霧氷は心配そうに聞いてきた。私は、大丈夫。と弱々しくうなづいた。

「そう。辛いわね」

霧氷も優しい。
欲しい言葉をくれる。なにも言わないで欲しい。そう思っていても、本当に何も言われなかったら、イライラするし、寂しくなる。霧氷は姉のように、優しい言葉をくれる。ホッとする。
どうしたらいいのか本当にわからない。不安が押し寄せてくる。

「大丈夫よ。瑠璃」

と霧氷は言った。

「別に悪いことをしているんじゃないもの。大丈夫よ」

霧氷は本当に、欲しい言葉をくれる。
姉のような霧氷になんだか、甘えたくなった。そう感じたとき、チャイムが鳴った。

「そう。そうね。ありがと、霧氷」

「そんな、お礼を言われるほどのことじゃないわ。友達だもの」

友達の恋は応援するものよ。と言った。
私は、ありがとう。ともう一度言って、教室へ向かった。

 

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