次の日。雪は積もっていた。
空は晴れ。太陽に反射した雪がとても綺麗だった。
「寒いね」
「うん」
氷雨は寒さがわからないからといつも通りの格好をしていた。
「あ、ごめん」
「なにが?」
「寒さとかわからないのに」
「気にしてないよ」
と無表情で言った。
「今日は、なにを食べるの?」
「どうしようかな。・・・カレーかな」
と氷雨は食券販売機でカレーのボタンを押した。
「美味しい?」
「うん」
お弁当を広げた私は、氷雨のカレーの香りにお腹が鳴った。
「こんにちわ」
「あら、霧氷」
トレーを持った霧氷が微笑みながら立っていた。
「いつも、購買で買っていたのに」
と氷雨が言うと
「寒いから、温かいものを食べようと思って」
と返した。
「ここ、いい?」
と霧氷が聞いた
「もちろんよ」
と私は言った。
「霧氷は、うどん?」
「ええ。美味しそうでしょう」
「そういえば、霧氷。できてたね」
「ふふふ、そうね、友達が増えたわ」
霧氷は、ご馳走様。と食べ終わり、またね。と言って何処かへ行った。
「霧氷、忙しいのかしら」
「どうかな」
私はお弁当箱を片付けながら、言った。
「じゃあ、帰り。公園?」
行くのかどうか聞いた。
「うん。行くよ」
と氷雨が返してきた。
「そう。じゃあ、また、帰りにね」
「ん」
隣の教室へ入っていった。
教室では、クラスメイト達が騒いでいた。
「あ、瑠璃ちゃん。見てみて、雪降ってきたよ」
とクラスメイトが教えてくれた。
「あ、ほんとだ」
「また、寒くなるね」
「そうね」
と会話をした。
雪がふわふわと空を舞っていた。
帰りの挨拶が終わり、冷たい廊下で待っていると
「お待たせ」
と氷雨が来た。
もう、外の雪はやんでいた。
「氷雨は、雪を触っても冷たいとか思わないの?」
「どうだろう、今も寒くもないしね」
と氷雨は言った。
「ほいっ」
私は雪を固めて氷雨に当てた。氷雨は驚い顔をした。
「雪合戦」
と私は笑った。
公園に着くと、私たちはベンチに荷物を置いて雪合戦を始めた。
「ほいっ」
私が投げると、無表情で無言で投げてくる。
べつに怒っているわけじゃないし、本気にしているわけでもない。
楽しんでいるオーラが出ていた。
「冷たい!」
私は体に当たって、そう叫んだ。
氷雨は手袋もせずに投げていた。私の手袋には雪が塊でついていた。
「雪合戦?」
声がした方を向いた。
「あら、霧氷。今日は自転車じゃないのね」
私は雪合戦をしていたからか、声が弾んでいた。
「ええ。だって、雪ですもの」
林の中から出てきた霧氷は言った。
「楽しそうね」
「楽しいわ」
「霧氷」
2人で話していると氷雨が霧氷を呼んだ。
「な」
に。と言おうとしたのか、霧氷のセーラー服の襟に雪玉が当たった。
「ナイス、ピッチ!」
と私が笑えば
「えい」
と霧氷が私に当てた。
「冷た!ちょっ、ちょっと!なんで、私なのよ」
と笑いながら言った。
気がつけば足元の白い絨毯は、革靴の跡と数量の砂で模様ができていた。
久しぶりにこんなに笑った。とても、楽しかった。みんなで、カフェオレを飲みながら余韻に浸ってた。
「楽しかったわね」
「うん」
「氷雨は、強いわ。だって素手で雪玉を投げるんだもの」
「私ならではの、特権」
「なによそれ。ずるいわ」
と笑えば
「残念」
と氷雨が言った。
「でも、久しぶりにはしゃいだわ」
と私は空を見た。西日に照らされ雪はオレンジ色になっていた。明日には解けるのだろうか。そう氷雨に言おうと、氷雨を見たら
「うん、楽しかった」
あ、やばい
氷雨が無表情ではない。
氷雨が微笑んだ。霧氷は前に笑うときもあるわよ。と言っていた。でも、見たことはない。とも言っていた。
紫陽花色の瞳は柔らかく、猫目は優しい輪郭になって、赤紫色の唇がフンワリと三日月になっていた。柔らかい雰囲気の彼女をみて、青い薔薇が出そうになった。
なんて、綺麗なんだろう。
もっと、笑って。氷雨。微笑んで。
やばい。吐きそう。これ以上になく吐きそうだった。
私は、口は開かずに。そうね。と笑った。まだ、少し残っているペットボトルを持って公園を出た。
急ぎ足で歩いて、あのボロい家の隅で吐いた。
青い薔薇の花びらが今まで以上に出てくる。
止まらない。止まらない。喉が焼ける。声が出なくなる。目から涙が出てくる。久しぶりの涙。ああ、涙って透明だったな。と頭は冷静だった。
うえ。となんども吐いた。青い薔薇の花びらは白い雪のうえに舞い落ちた。とても綺麗だと思う。やはり、嫌いになれない。
あの子の微笑みは、本当にやばかった。
泣きそうになった。あの笑みは頭から離れることはないだろう。
本当に綺麗だった。
世界のどれよりも、朝に見た白い雪も、大好きな夕焼けも、黄昏も、敵わない。
吐き終わり、ばれないように雪で覆い隠した。
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