霧氷は校舎裏でしゃがみこんでいる女子生徒に話をかけた
「また、なんかあったの?」
優しく優しく、話しかけた。
母のような、姉のような雰囲気でふんわりと話しかけた。
「お母さんがね・・わ・・私を・・見てくれないの・・なんで、お母さんは私のことを・・」
嗚咽混じりで彼女は言った。
霧氷は泣いている女子生徒に、近づきそっと頭に手を乗せ
「そう。可哀想に」
と言った。
その言葉で女子はもっと泣いた。
霧氷にしがみつき、悲しんだ。お母さんが。お母さんが。と何度も母親のことを叫んだ。
霧氷は優しくその女子生徒を抱きしめ、大丈夫よ。と言った。
そして、泣き止むまで抱きしめ。チャイムが鳴る5分前を腕時計でばれない様に確認し
「大丈夫よ。お母さんもきっとわかっているわ。でも、きっとお母さんは不器用なのよ。だからあなたをうまく褒めてあげられない」
と言えば
「・・そう?」
と鼻をすすり女子生徒が言った。
「ええ。きっとそうよ。だから、大丈夫よ」
と言った。
しかし、女子生徒は
「でも、お母さんは私のことを見えくれないのよ。きっと、やっぱり嫌いなのよ」
と泣き出した。
霧氷は怒りもせずに、微笑み。
「嫌いなわけないわ。だって親ですもの」
と頭を撫でながら言った。
女子生徒は、ほんと?と言った。
「ええ、そうよ。だから」
大丈夫
そう言えば、女子生徒は
「そう、よね。お母さんですもの。ほんとうに嫌うわけがないわ」
と自分に言い聞かせるように言った。
そして、泣き顔のままクラスには行けないと言った。
「困ったわね。私は授業に出なくちゃいけないもの。保健室にでも行く?」
と困ったように言うと、顔を縦に動かした。
「じゃあ、保健室まで一緒に行きましょう」
と立ち上がり手を差し出した。
女子生徒はその手を掴み、握った。
霧氷は可哀想な人が好きだ。
霧氷は普通の家に育った。中学生の時、教育虐待の子が沢山いた。
反抗期と思春期が混ざった時期。子供は親の言葉に逆らうにも逆らえない時期。
霧氷は色んなの子の相談に乗った。
普通に聴けば、誰もが通る道だし別に大したことのない話だった。
しかし、そのなんでもないことを深刻に考えてしまう子もいた。
中には、叩かれる。と言った子も出てきた。痣にはならないから虐待にもならない。
少し言葉を間違えてしまえば、自殺してしまう。そんな子もいた。
大丈夫。
魔法の言葉を言えば、その子達は霧氷に抱きつき泣いた。
可哀想に。
霧氷は怒ることはない。
そういう可哀想な子を見て、霧氷は愛しさを感じる。
この人達には私しかいない。べつに優越感に浸りたいわけでもないし、助けたいわけでもない。
ただ、可哀想に。と思いたい。それだけで動いている。
可哀想な人を見ると、心が満たされる。自分は普通だと。大丈夫なんだと。可哀想にと。ただそう思う。
高校生になって、一年生の時。氷雨にあった。
そのうち死んでしまう。と言った彼女は可哀想だと思った。しかし、それだけだった。彼女はどこをどう見ても今までの可哀想まで行かなかった。
氷雨を見て、この子は覚悟を決めている。と思った。
今までの子達は覚悟や気持ちがフラフラしていた。だからこそ、可哀想だった。可哀想になれた。
氷雨は可哀想じゃない。可哀想と思うことがなんだかいけないことのように思えた。
霧氷は今、とても興奮している。
それは、瑠璃だ。あの惨めな子。可哀想な子。鬱。と氷雨から聞いたときは、在り来たりだが可哀想な子。だと思った。しかし、その子は鼈甲飴の涙が出るという。なんてことだ。鼈甲飴の涙。なんてどうでもいい。それを流す彼女が見たい。
2人は今、楽しそうに会話をしている。
この公園に来て、初めて瑠璃が泣いているところを見た。
なんて、綺麗なんだろうととても、興奮した。
目から出る鼈甲飴はまるで、星のように思えた。ポロポロと鼈甲飴を流す瑠璃は、とても可哀想だった。
氷雨に抱きしめられている彼女は、とても儚かった。
その時、霧氷はふと。なぜ自分が可哀想な人が好きなのか今、わかった。
儚いから。だ
教育虐待だと嘆く、悲劇のヒロインやヒーローぶる子は見ていて滑稽で、面白かった。
本当に教育虐待や虐待の子は言ってこない。そして誰も触れない。だからこそ自分は触れた。怖らがせずに頼られるように、接する。
自分はわざと鬱の子と接した。鬱はいい。自分しか思っていない。自分がどうあるかだけを気にしている。
あの鼈甲飴を流す姿はまさに、自分が思い描いた姿だった。
氷雨の病気を知った時よりも身体が震えた。
あの抱きしめ合っている2人は、とても可哀想だ。白銀の彼女も鼈甲飴の彼女も可哀想だ。
そして、霧氷にもっと体が震えることが起きた。
それは、瑠璃の吐いた青い薔薇だ。
なんだ、これは。と体が震えた。ただ、また鬱の病気かと思って調べたら、なんと。恋の病だった。それを教えた。絶望を感じた彼女をみて、なんとも言えない感覚に浸った。
黒い鼈甲飴を流す瞳が恋をする瞳に変わった。
あの日、雪が積もった日。雪合戦の日。
突然、公園から出て行った彼女を不審に思い、氷雨にはゴミを捨て行ったと嘘をついて、瑠璃を探した。
案の定、彼女は吐いていた。
雪に手をつき胸を押さえ吐き続ける彼女を見て、本当にこの子は可哀想だと思った。
届くことのない思いを抱いてしまった瑠璃は可哀想だと思う。
透明の液体を目から溢れんばかりに流す姿は、本当に尊かった。儚かった。
抱きしめてしまいたかった。もう、いいよ。楽になっていいよ。大丈夫だよ。と言いたかった。
公園から出て、並んで帰る2人を見た。
大好きな2人。可哀想な2人。儚い2人。
ああ。大好きだ。本当に、儚い。なんて、なんて。と霧氷は赤い瞳をとろけさせ、頬を桃色に染め、優しい眉を寄せて快楽に耐えるような表情をした。とても危うく色気があった。
可哀想に。
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