雪が降った次の日。青く晴れた空に地面は真っ白。クリーム色の髪は冷たい風に吹かれて空を舞った。

公園のフェンス近く。少し雪を書き分ければ瑠璃が残した青い薔薇の花びらが現れる。
その花びらをすくって雪とともに持ちあげた。その雪の中に琥珀色に光る鼈甲飴が1つあった。それを霧氷は口に含んだ。甘く砂糖を焦がした味は苦かった。
持ち上げた雪に混ざった青い花びらに息をかけるとフワリと青い空を仰いで行った。
残った雪を手から落とすと持ってきてた青い薔薇の花束をフェンスに置いた。
もう、ここには来ないだろう。そしてもう二度と2人には会えない。その2つのことが明確にわかっていたことだった。
花束から青い薔薇を一本抜いた。棘は花屋さんが切り取ったのだろう。するりとした碧い茎に青い青い薔薇にキスをした。
フェンスをつかんだら、カシャンと音がした。
夕焼けが青い空を食べていく。そこにある雲は灰色だった。半分見える夕陽が何かの目のようで少し怖かった。
霧氷は、その夕焼けをみて死にたくなった。
あの紫陽花色の瞳を持った白銀の冷たい雨は雨が雪になるように冷えていった。
瑠璃色に染まっていく黒い瞳の鼈甲飴の涙は本当に惨めだった。自分があってきた人で誰よりも惨めだった。そして誰よりも美しかった。

自分は死ねない。死んではいけない。

そして1人になった。

青い薔薇を茎からとって、茎を捨てた。
口の中の鼈甲飴がカランと鳴った。ひゅうと冷たい風が吹いた。目をつぶり少し力を入れ過ぎて青い薔薇がクシャリと小さくなった。風が止むと霧氷は握りつぶした青い薔薇をみて手を広げた。
数枚、薔薇から離れて落ちてしまった。落ちた数枚の花びらを見て、ああ。この子たちはもう花にはなれないのだなと思った。
夕陽が地平線にカットされていく。黄昏時。雪はオレンジ色になっていく。
青い薔薇をみて、霧氷は

「これじゃあ、私が惨めじゃないか」

とつぶやいた。




青い薔薇を瑠璃が落ちた場所へ投げた。
もう、お別れだ。もう、ここには来れない。もう3人にはなれない。
入り口へ近づくたびに口の中の鼈甲飴がカランと鳴った。どんどん小さくなっていく鼈甲飴。この飴が消えたらもう、本当にお別れだ。本当に1人になる。
ガリ。と小さくなった飴を噛んで公園を出た。
銀色の自転車に乗って家路につく。
流れる生温いものは飴にはならなかった。ただのしょっぱい水だった。
自転車に乗りながら仰いだ空は青黒く、星が見えた。
霧氷は叫んだ。
叫んで、叫んで、叫んだ。





青い薔薇は祝福をくれた。薔薇の花束。薔薇の数は13本。1つ抜けて12本になった。一本の薔薇の花束。
赤い薔薇はいらない。鮮烈な青をくれ。なにもかも飲み込む、あの青をくれ。
この場所には来ない。青は春を待てなかった。春を捨てた。春は暖かいから、暖かさはいらない。頭が冴える冷たさをくれ。
涙が凍る冷たさをくれ。





私たちはもう、会えない。
それでも、確かに、私たちがいたのだ。


落ちた青い薔薇は風に吹かれてコロンと転がった。



The blue rose
shouted
"You are pathetic".





生きていたのだ。

 

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