帰りの挨拶が終わり、隣の教室へ行こうとして廊下に出たら
「あ」
氷雨は壁にもたれながらスマもをいじっていた。
「待っててくれたの?」
「うん」
「ありがとう」
私がお礼を言ったら、ん。と短く返事をして玄関口の方へ歩いて行った。
「あ。あのさ」
私は思い出したように言った。
「?」
「ライン。交換しない?」
「いいよ」
「ありがとう」
氷雨はスマホを出した。
「そのケース。オシャレだね」
「そう?」
黒い背景に青い薔薇が3輪咲いていた、
「青い薔薇。好きなの?」
「うん。好き」
私の質問に氷雨は、抑揚のない声で返事をした。
「青い薔薇。綺麗だよね。なんかミステリアスだけど」
「だから、好き」
ブー。とバイブ音がして友達の所に氷雨のアイコンが届いた。
「とりあえず、スタンプ送っとくね」
「ん」
スタンプを選んで、送信ボタンを押した。
西門には向かわずに大回りをしてお昼時間の時に来たところへ行った。
林の中には段ができていて、きっと2人がいつも踏んでいたからそこだけが硬くなったのだろう。
冬の時間は短い。所々見える空はオレンジが混ざってた。
「ふう」
慣れない林の中を歩いたせいで、口からため息が出た。
氷雨は息を出さず髪を手で直していた。
「あ、きたきた」
聞いたことのない声がした。
優しく芯があってふんわりとした印象の声。
「初めましてだよね?」
「はい」
「同い年だよ」
「あ・・うん」
ボブに近い長さの髪で、その先っぽは天然パーマでフワッと軽く巻いてあった。優しいクリーム色の髪は夕陽が透けて、ふんわりとしたオレンジになっていた。
夕陽の緋さよりも赤い瞳はストロベリーを感じさせた。しかし、瞳孔が黒いせいで血のようにも見えた。
優しい垂れ目に、口元のホクロが大人な感じがして、同い年には見えなかった。
「私は、霧氷。よろしくね」
「うん。私は・・」
「瑠璃ちゃんだよね?氷雨から聞いたよ。珍しいなって思ったんだ。氷雨が友達を作るだなんてって」
「え、でも。霧氷ちゃんは氷雨の友達じゃないの?」
「いやぁ。どうだろう。知り合いって感じかな?」
霧氷は、ふふふと上品に笑った。
「そうなんだ」
私たちが話している間に、氷雨はベンチに荷物を置いてスマホを弄ってた。
「いつもここでなにしてるの?」
私の質問に霧氷は
「別に。氷雨は無口だからね。のんびりしてるよ」
と微笑みながら言った。
「基本的に霧氷が喋ってる」
氷雨はスマホをしまいながら言った。
「氷雨は聞かれないと話さないからね。相槌は打ってくれるけど」
「ああ・・・」
霧氷の言葉に、そういえばそうだったな。と相槌を打った。
「そういえば」
霧氷は思い出したように、私の方を向いた。
「瑠璃ちゃんは、鼈甲飴の涙を出すんだよね?」
霧氷の言葉に図星を突かれたような、嘘を見抜かれたような気分になった。
「う、うん。まあね」
「その飴って、食べれるの?」
「うん。たぶんだけど」
「美味しいの?」
「うーん。普通」
「へぇ。食べてみたいな」
霧氷は微笑みながら言った。
「お腹壊すよ」
と冗談っぽく言ったら
「私は壊さなかった」
と氷雨がボソリと言った。
「あれ?食べたの?」
霧氷の質問に氷雨はうなづいた。
「どんな味?」
「瑠璃の味」
氷雨は真顔で答えた。
「なにそれ」
と私が笑い混じりで言ったら
「それは、ぜひとも食べてみたいな」
と霧氷が言った。
「じゃあ、そろそろ帰るかな」
霧氷はそう言うとベンチに置いてあるリュックを持ち上げ肩にかけた。
「じゃあ、私たちも。氷雨。一緒に帰ろう」
「ん」
私の誘いに氷雨は短く返事をして黒い革のスクールバックを肩にかけた。
今度は林の中ではなく、入り口から帰った。
空は夕陽色になっていて、そこに浮かぶ雲が黒く、灰色になっていた。
「ねえ」
「ん?」
私の声に氷雨は少し目をこちらへ向けた。
「夕陽焼けを見ると、死にたくなるの」
そう言うと氷雨は
「そう。分からないこともないけど」
それで?みたいな顔をしてきた氷雨に
「なんでもないよ」
と言った。
top
← →
Backindex