霧氷は自転車通学だと言っていた。
あの公園を見つけたのは高校になってからで、学校にいるときになんとなく見つけたのだと言っていた。
氷雨に霧氷と知り合ったきっかけを聞いてみたら、昨年同じクラスだったのだと言っていた。氷雨の病気も知っている。と言っていた。
「霧氷ちゃん。なんかお姉さん。って感じな子だったね」
「・・うん」
氷雨は少し考えてから言った。
「?どうしたの?」
「いや、お姉さんかぁって」
「?」
「そんな風に思ったことなかったから」
「そう」
氷雨の家は意外に自分の家と近かった。
住宅街の3つ目のブロックに住む私と、そのちょっと手前にある高層マンションに住んでいると言ってた。
「だから、もし。土日や夜。気分が下がったら、私の家に来るといいよ。オートロック式だから番号と階。教えとくよ」
と氷雨はラインに番号と階を教えてくれた。
「それと、泣きそうになくても会いたかったら来たらいい。基本的に家にいるから」
と言ってくれた。
12階建ての8階に住んでいて、右端から2番目だと教えてくれた。
氷雨のご両親は共働きで帰ってくるのが遅いと言っていた。しかし、娘の奇病が不安で必ず定時には会社を出るようにしているらしい。
私の両親も普通の両親だ。
きっと私が死ねば悲しむだろう。心配性の母に軽い鬱だなんて言えない。心配はしないで欲しい。黙って甘えさせて欲しい。でも、親からしたら、心配はするし、理由を知りたくてしょうがないと思う。
自分の部屋は落ち着かない。1人でいるのが怖い。だから、母のいるリビングにいつもいる。
でも、たまに1人が良くなる。だから引きこもる。引きこもっている時に気分は下がる。もう、上がらないんじゃないかって。死にたいって、頭が痛くなる。手首を切る勇気もない。でも、死にたい。消えたい。
私の気分障害はいきなり訪れる。
学校だって、家路だって、リビングにいる時でも、いつでも起きる。私の意志とは無関係に、ふっと風が通り過ぎるように気分が下がる。イライラして、母がいるから抑えようとして、情けなくなって、泣きそうになる。泣きそうになった時に、ハッとして部屋へ行く。リビングを出る時は普通を装って歩く。廊下へ出た瞬間、急いで部屋へ行く。
入ってドアを閉めて、安心して、カランと床に鼈甲飴が落ちる。ドアを背もたれにして、ポロリポロリと目から甘い鼈甲飴が出てくる。
床に飴が落ちる。声を漏らさないように唇を噛み締める。鼻をすする音と少し漏れた声に床に落ちる鼈甲飴の音。3つの音で私の部屋は音を得る。
さめざめと泣いて、少し落ち着く。眼は腫れない。きっと涙じゃないから。少し落ち着くまでドアにもたれる。目の前にあるベットの向こうの窓の外をボウッと見る。
そのうち落ち着いてきて、飴を拾う。この飴は食べない。食べたくない。
飴を手のひらに集めて、窓の外に捨てる。それで、一段落する。
外へ落ちていく鼈甲飴を見て、また、惨めになる。あの飴は私の嫌いな私だ。
さようなら。と窓を閉めた。
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