冬休み。

宿題がそこそこ出て、寒い体育館では校長が長々と話をした。

「冬休みだよ」

霧氷は楽しそうに言った。

「何しようかしら」

と私が言えば

「冬は鍋よね」

と霧氷が言った。

「あれ?この前の食べたって言わなかったかしら?」

と私が意地悪に言えば

「そうだったかしらね」

と霧氷は笑った。

「鍋は、何鍋が好きなの?」

「私は、そうね。色んなのを買うのよ。その前はキムチ鍋をしたわね」

「美味しそう」

私の言葉に霧氷は、美味しかったよ。と言った。

「氷雨は?鍋するの?」

霧氷の質問に、氷雨は

「するよ」

とブランコに揺られながら言った。

「何鍋?」

「色々。最近は、すき焼きした」

氷雨の言葉に、霧氷が

「まあ!美味しそう!」

と赤い目を輝かした。

「すき焼きって、鍋なの?」

と私が聞くと

「じゃないの?」

と氷雨が返してきた。

「鍋・・なんじゃない?」

霧氷は眉を八の字にして言った。

「冬ねぇ・・・。好きよ。私」

私の言葉に、隣のブランコで揺れていた氷雨が

「どうして?」

と聞いてきた。

「夏は暑いじゃない?何しても暑いもの。でも、冬って防寒具とか遊んでいたら暖かくなるじゃない?」

と私が言うと

「なるほど」

と氷雨が言った。

「それに、冬ってなんか寂しくなるのよ。空も寂しい色をするでしょう?」

私はブランコから立ち、柵を越えて、フェンス向かった。

「夏は、昼が長いから夕陽をあまり見れないもの。でも、冬は夜が早いから、早くに綺麗な空が見える」

私はそう言うと色が落ち傷だらけのブタの置物の上に乗った。
小さい子用に作られたそれは足を持ち上げれば簡単に上に乗れた。

「なるほどね。確かに、綺麗だもんね」

霧氷は滑り台の上から街と空を見た。
ここに始めてきた時は、まだ紅葉した葉っぱが沢山あったのに、今ではもう、裸になってしまった。
それでも、あの林は裸にならずに枯れそうな葉が沢山あった。

「そういえば、冬休みになってもここで集まるの?」

私はなんとなく質問してみると

「いや?別に。決まってないけど、来たかったらくる的な」

と霧氷が言った。

「そうなの?」

私はフェンスの方からブランコの方へ体を動かした。

「うん」

と氷雨が言った。

「来たかったら来ていいんだよ。公園だしね」

と霧氷が言った。

「そう」

私はそう言うと横を向いた。
フェンスの向こうの空には夕陽が沈んでいっていた。西日が強いこの公園はオレンジ色に染められやすい。

あ、やばい。

そう思った時には遅かった。
気分が下がった。どうしよう。不安が波になって押し寄せてくる。やばい。どうして。どうして、今来たの?楽しいと感じているはずなのに、イライラする。どうしよう。どうしよう。今2人は、楽しくおしゃべりしている。この下がった気分を上げないと。雰囲気を壊さないようにしないと。どうしよう。そう思うほど、不安は大きくなっている。
鼈甲飴が出そうになった。
やばい。

「寒くなってきたから、帰るね」

2人の話が落ち着いた時に言った。

「うん。じゃあ、私も帰ろうかな」

霧氷はそう言うと、入り口に停めてある自転車へ向かった。
氷雨はカバンを肩にかけて、私の方を向いた。

「瑠璃・・・」

急に私の名前を呼んだ。

「なに?」

と私が言えば

「あめ」

と言った。あめ?雨なんて降っていないと空を見た。そんなことよりも早く帰りたいのだ。そう思い一歩踏み出したら、

ジャリ

何かを踏んだ音がした。

あ、飴

目からは小さな鼈甲飴がポロポロと流れている。どうしよう。どうしよう。怖い。不安になってくる。止まらない鼈甲飴にイライラして、もっと泣いた。
2人がこっちを見ている。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。不安が津波で私の体に体当たりした。

「瑠璃」

え?と顔を上げた。
ひんやりとした、冬の雪のような空気がした。
白銀が見える。

「・・ひ・・氷雨・・?」

嗚咽混じりで私が言った。
氷雨は私を抱きしめて、

「大丈夫。大丈夫だよ」

と言った。
なんだか、もっと泣きたくなった。そう感じたら鼈甲飴がもっと流れた。カラリと落ちた鼈甲飴は白銀上をコロリと流れた。

「大丈夫だよ」

氷雨の声に、私は氷雨を抱きしめ返した。

「・・ひ・・ひっく・・う・・ひ・・ん・くっ・・く・・」

声を抑えようと、唇を噛んだ。それでも嗚咽は止まらないし、鼻をすする音は大きく聞こえた。
氷雨は優しく強く抱きしめてくれた。

何が辛い。でも、何が辛いのかわからない。それが一番辛かった。対処の仕方がない。
寒さか泣いたからか、鼻がツンと痛かった。

 

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