ポタリポタリと雨が当たる。
ありきたりの表現はきっとなにかの偉人による言葉なんだと思う。
私たちは今ある本を読んで感動して、それを映画に、ドラマにする。もっとも身近で、なんとも雑な場所のものになってしまった。成り下がってしまった。
昔は、本というのは綺麗で、違う世界を見せてくれていたのに。今では難しく感じ。そして、なによりもクラスで読んでいれば、暗い子。とランク付けされてしまう。
学校帰り。先生は不審者に注意しなさいと言いHRを閉めた。短いスカート。揺れるリボンタイ。白いシャツをはためかせながら自転車を漕ぐ。雨がカッパに反射している。夕方、時刻は十六時四十七分。家にまっすぐに帰るのがなんだか嫌になっ
て、いつもの帰り道を通り過ぎてそのまま自転車を走らせた。自転車は、人の努力そのものだと思う。息を切らしながら漕げば速くなる。でも、私にはそんな器用なことはできなかった。できなかったのだ。
人気もないような静かな道を走った。息が切れて、ハアハア。と大きく犬のような
息がでる。ハンドルを強く握ると、一気に脚に力をいれてペダルを漕いだ。カッパはもう意味がないくらいにスカートの裾も、髪の毛も、顔も、足も、靴下も、ローファーも、ずぶ濡れになってしまった。唯一助かってそうなのはカッパの下に肩かけてある、サッコッシュ。筆箱とイヤホン。スマホ。充電器。ペットボトル。に入ってる四分の一しか飲んでいないさっき買ったお茶。財布。キーケース。学校に何
しに行ってるんだと親に言われたこの荷物は私にとっては必需品だった。これさえあればよかったのだ。人というのは、いつか欲を我慢することを覚える。覚えてしまうから。いけないことをいけないと。悪いことをたくさんしてしまうのだ。
ふと、頭に浮かんだソレ。私は奥歯を噛んで頭を振って全力で漕いだ。雨の中、前もろくに見ずにガムシャラにソレが消えるようにと、漕いで、漕いで、漕いで漕いで漕いで漕いで漕いで漕いで漕いで。
がシャンっ。と音を立てて自転車のタイヤが滑ってしまった。大きな鉄格子の蓋がしてある溝の上で言うならば、スリップしてしまい転倒した。膝が、手のひらが、ジンジンと傷んだ。今日の雨は、大雨らしい。命だった前髪はいつからか、死んでしまった。前髪の束から流れる雫をなんとなく眺めていれば、自分は何をしているのだと思った。 子供の頃は良かった。全てがキラキラしていて、本の世界は美しく、憧れの世界だった。でも、私はもそれができない。できなくなってしまったのだ。成長は自分の意思を無視して進む。私は、膝と手のひらの痛さから、立ち上がることをなんとなく躊躇した。
このままいなくなって仕舞えば、あの人はなにを思うのだろうか。思ってもくれないだろうな。きっともう、私のことなどどうでもいいのだ。都合のいいように扱いやっがって。でも、それを辞めれるほど私は大人ではなかった。欲しいものがあと、半歩。あれば届くのに。それは私に動かせないように時間を止めた。だから私は、どこにも行けなくなった。行こうとすれば、それは私の前に現れるのだ。でも、それを望んだのは私でもあるんだろうな。何やってるんだろう。こんなやつ、いてもいなくても変わらないなら、消えて仕舞えばいいのに。
私は昔から、なくなってからその大切さを知るような器用な人間ではなかった。いつもみんなとタイミングがズレて知るのだ。でも、あの人はきっとふつうの人間だからわかるんだろうな。いいな。私もそうなりたかった。
夕方が終わり、夜が来る。きっと時刻は十九時十分ちょいくらい。雨が透明すぎて
みえなくなった。
夏の、本来なら晴れていればいい日を雨に仕上げてくれた天のあの二人は、今でも私の遠い記憶の中で輝いている。星は、死んだ人の想いだと。教えてくれたあの星型の飴をあの人に教えたらなんていうのだろう。きっと、いや、わからない。わからないよ。
今日は晴れてて欲しかった。あの会う二人を私は願ってみたかったのだ。もう、私にはそんなスピリチュアルな頼み方しか、祈りしか、なかったのだ。なくなってしまったのだ。自転車を起こして来た道を帰る。死んだ前髪のおかげで。濡れた顔のおかげで。怪我した傷のおかげで。この涙はなんの涙なのか、私は自分に言い訳ができる気がした。
湿った空気。蒸し暑い気温。また、あの季節がやってきた。私は、まだ成長に置いていかれる。