また、来年。ここで、会いましょう。

「一年に一回しか、会えないらしい」

織姫と彦星。仕事もせずに会いすぎて一年に一回のみにされたとか。

「アホすぎ」

「ロマンチックのカケラもないな」

午後七時の交差点が見える学校の窓の外を見ながらいちばん星を探す。

「でも、晴れてよかったじゃん」

「そうだけど」

別に天文部でもなんでもない私たちは教室でくつろいでいた。
カキーンとかワーワー聞こえる声がどんどん小さくなっていく。オレンジ色が薄くなって、パイナップルキュラソーを垂らした。上の方は濃い色が広がっていた。

「あ、いちばん星」

宵の明星を見つけて少しテンションが上がる。

「ほんとだ」

私の目線を追っていちばん星を見つけた彼女はテキトーに返してきた。

「晴れてよかったねぇ」

織姫たちは会えたかな。会えるだろうな。

「来年ねえ」

来年には隣にいなくなるだろう友人。
みんないなくなる。クラスの子も。去年の同じだった仲良い子も。先生だって変わる。みんないなくなる。
この教室だって、後輩のものになって。この制服も。ぐちぐち言いながら集まってた体育館も。

藍色から青色、パイナップルキュラソーに変わっていく空の下を自転車を漕ぎながら見上げる。
田んぼが続くこの道をわざわざ通ることもなくなるんだろうな。きっと、来年からは普通に道路があって、電車に乗ってどっかいくんだろうな。
わざわざ田んぼが続くただの道なんて走らない。でも、私たちはいつも走ってた。彼女の自転車に乗って。二人乗りは禁止されてるからこういうところでしかしてない。
真紅のネクタイが風で揺れる。彼女は来年のために電動を買ってもらった。だから、二人乗りしてもスイスイ走る。去年まではよいしょよいしょと漕いでいたりしてたのに。
青春と名前をつけるには、楽をしすぎているがそれでも、来年のために。と付けられてはもう、次がないように思える。

「来年も、会えるのかなぁ」

スクールバッグをリュックのように背負えるのは帰りのみだ。お弁当があるから。
ロッカーに教科書を突っ込んで、空になったお弁当箱と筆箱と全然片付けてないクレアファイル。
自転車の網状になっているところに腰を下ろして、空いてる隙間に手をかけた。腕を伸ばして背中をそれば空が見えた。夕暮れ時が近くなる。

「来年も会えるでしょ。遊ぼうよ普通に」

自転車を漕いでいる彼女の顔は見えない。スカートをふんわりさせながら2人で自転車に乗る。
天の川は見えない。でも、いちばん星は見えるし、月も見える。
来年は何してるんだろう。誰と自転車乗ってるんだろう。若さの象徴を脱ぎ捨てた私たちはどんな大人になるんだろうか。

「会えるかな」

「だから、ラインしろって」

「いや、織姫たち」

「あー」

晴れてるから会えるだろと言う友人に私は、織姫たちのことなんてどうでもよくなってた。

「夏が終わる」

「始まったばかりだろ」

「終わるんだよ。夏休みなんて、学校ないじゃん」

「は?」

「学校がある夏が終わるんだ。もう、そしたらあと、数ヶ月しかないんだよ。卒業ってあっという間だね」

「そうだね」

わりとあっけなかったように思える。3年間なんて、日にちにしたら、時間にしたらめちゃめちゃ長いけど。そんなのわりとすぐに終わる。
駆け抜けたようなそんな、青臭いものじゃなかった。自転車でのんびりとスイスイと駆け抜けてしまったようなそんな、安っぽい青春。それでも、楽しかった。くだらない話をして、テキトーに授業を受けて、寝坊して、お弁当早弁して、おやつたべて。スカートの丈怒られて。でも、そんなのもうないんだなと思う。

「さみしいね」

そういうと、彼女は

「さみしいね」

と言った。

「来年も、また、会おうね」

「来年じゃなくても会おうよ」

彼女の言葉に私は笑った。顔は見えないけど、彼女も笑ってる気がする。
空っぽのお弁当箱に、パンパンのクリアファイルと少し汚くなってきた筆箱。軽い化粧道具に日焼け止め。ケータイの充電器とコード。イヤホン。全く無駄なものの方が多い。それでも、軽いカバンには沢山のものが詰まってた。

「また、ここの道。自転車で走ろうよ」

「えぇ。暑いじゃん」

「いや、電動だし。あと、朝とかじゃなくてさ。夜とか」

ならいいけど。と言う友人。空には相変わらず星が輝いてて、月が光ってた。
青春ってなんだろうとか、青春してえなとかいろいろ言ってたけど。全然そんなことなかったと。青春だったと言えるころがくるんだろうな。
織姫と彦星が会えるのが一瞬であるように。私たちのこの時も一瞬なんだろうな。
さみしいな。さみしいけど、きっと素敵だったと振りかえれるんだろうと思う。私たちはそんな青春を歩んできた。
電動自転車でスイスイ行っちゃうような青春を私たちは駆け抜けていた。駆け抜けていたんだな。青空はもう今はないけど。この黄昏を制服で迎えるのはなんとも青春らしいと思うし、制服なんて何をどうしても青春にみえるだろうな。

「会おうね、来年も」

自転車を漕ぎながら言う友人に私は、

「うん。いつでも会おうよ」

自転車から車になって、楽をして進むような。青春を感じる前に何もかも終わってしまうようなさみしい人生があるかもしれない。でも、大人ってそんなもんだと思う。乾いた大人は青春なんて眩しいものだと言う。でも、いつか自分もそうなるんだろうな。でも、今を走ってて、駆け抜けてるからきっと、これは綺麗な青春なんだろうな。

「バラバラになるんだな」

「さよならはいつだって、さみしいよ」

ポエムってんな。と茶化せば笑った彼女につられて笑う。
また、君に会えるなら、きっといつだって安っぽい青臭さを思い出せるんだと思うんだ。

「楽しいね」

空には星が輝いてて、きっとあそこらへんで2人は会ってる。よかったねと笑った。
黄昏が始まり始めた空を見上げた。夏の風が葵の香りを運んできた。ぬるくて懐かしい風を浴びて鈴虫が鳴く。君が自転車を漕ぐ。ショートヘアーがなびく。スカートが少し折れてて、少し猫背の背中を見るものあと何回かなと考える。シャツの襟足から、真紅のネクタイの紐が見える。君の声を聞きながら空を仰ぐ。夏の匂いは私を包んだ。少し息を吐く。星が光る。

私はもう、寂しくなんてなかった。