誰もいない無人駅。
ここがどこの駅かもわからない。駅の看板は傷だらけでなにが書いてあるか見えなくなっていた。
はて、私はこんなところになにしに来たんだろうか?
この駅は家の近くの駅ではない。というより、私は電車に乗っていない。疑問だらけの私は立ち竦めていると

「こんにちは」

若い男の人が立っていた。

「こんにちは」

なんとなく挨拶をしてみたがこの人が誰かもわからない。

「あの、ここはなに駅ですか?」

「ここは駅だよ」

「いや、駅の名前を聞いているんですが…」

「名前なんてないよ。自分でつけるんだ」

「はあ」

なんとも不思議な人だ。
黒いスーツに白いシャツの若め男性は楽しそうにしながらこちらを向いていた。

「あの、私。気がついたらここにいたんですけど」

楽しそうに笑う

「それで、戻り方というか、その、ここはどこですかね?どこら辺の駅でしょう」

男性は楽しそうに歌うように言った

「どこら辺って、此処は君が一番よく知っている駅だよ」

そういうから余計にわからなくなった。
この人は私を知っているのだろうか?私は知らないのに。この人はなにをそんなに楽しそうにしているのだろう。ネクタイもせずにシャツはズボンから出して第二ボタンまでしかとめていなくて、スーツの前も開けていて。なんだろうなこの人は。

「そういや、この駅。寂しいね」

そう男性に言われた。
確かに寂しい。私たち以外に誰もいないし、それに此処が森の奥なのか知らないけど霧が深い。周りは見晴らしがいいとは言えない。色で例えるなら灰色。白と黒で成り立っている。

「思い出って、色で例えると何色になる?」

突然そのようなことを言われた。

「思い出ですか?うーん。その時その時で違ってきますが」

「そうかい?思い出は灰色なんだよ」

「灰色」

「そう灰色。だって、どの色もついてどの色もつかない。無色透明だとツカナイときになくなってしまうからね」

「はあ」

「ところで、この思い出は何色だい?」

そう言って男性は地面を指差した。
地面の思い出?そんなものないんだけど。地面だから土って感じがする。茶色かな?

「地面じゃなくて、駅の話ね」

この男性は読心力でもあるのだろうか?なんでわかった。
それよりも、駅の思い出だ。
駅?特にない。そりゃ、通学に電車は使うけどそういうことか?

「肌色、ですかね」

「肌色?また、なんでだい?」

「いつも、朝混んでいるので人の肌が多いなと」

「なるほどね。じゃあ、この思い出は?」

そう言って男性は少し歩いてホームの黄色い線を超えもう一つあるコンクリートのブロック部分に立ち線路を見ながらそう言った。

「線路にですか?」

「そう」

「でも、線路に思い出なんて」

「いやぁ、線路には思い出があるよ」

「はあ」

「だって、ほら」

男性がそう言い右側を指した。
そこから、電車の音が流れる。

ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタガタガタガタ

アナウンスもなく電車が来る。

「ほら、おいで」

そう男性が私を呼んだ。黄色い線から出てはいけないと思ったので黄色い線の内側にいたら、外側の男性が手を伸ばして言った

「おいで」

だが、手は取れなかった。
私はその電車が来るのを待っていた。

ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン

キキーッ

この駅には止まらないらしくそのまま通り過ぎようとしている。
この電車に見覚えがあった。私の使っている駅を通り過ぎる電車だ。

「思い出だろう?」

「電車がですか?」

「うーん。それもあるけど、この電車には特に何かあるだろう?」

あったっけ?


「死にたい」

「殺してあげようか」

ハテナもつけずにそう発した友人はニコニコ笑ったままだった。

「ねぇ。此処に思い出何かある?」

私は革靴で地面を鳴らした。

「駅のこと?」

「そう」

「うーん。そうだな。真っ赤な思い出なら」

「赤?」

「うん。ほら、あの木。秋は綺麗な紅葉がなるでしょう?」

春の今あの木が紅葉だなんて覚えていない。

「じゃあ。これは」

私は黄色い線の外側に出て、線路を指した。
そういえば誰もいない。いつもは沢山。嫌になるほどいるのに。

「線路?うーん。無いなぁ」

「そっか。そうだよねえ」


「いやいや。あるよ」

「なにがあるんですか?」

「真っ赤な思い出かな?」

スーツを着た男性が言った。
この人はあの男性と違ってネクタイもして綺麗に着こなしている。

「あの、どのような?」

「覚えてないのかな?灰色が覆って水が振っていた日だよ」

「雨ってこと?」

「そう」

「だから、灰色」

最近は梅雨の時期に入っていつもジトジトしている。

「灰色がどうして赤になるの?」

「そりゃ、電車のせいだよ」

「電車がですか?」

「うん。電車」


「電車って、狼みたいだよね」

「狼?」

「うん。狼。私、動物の中で一番好き」

「狼が?」

「そう。狼が」

友人はそう言いながらニコニコしていた。

「死にたいなぁ」

「それ、私のセリフじゃなかった?」

友人はニコニコしながら言った。

「狼ね。随分と大きくて長く冷たい鉄だ」

「ふふ」

そういえば、

「真っ赤になったね」

「うん」

あれから秋が来て紅葉が綺麗な赤になった。

「綺麗だね」

「そうだね」


「いや。綺麗な赤は、本当は汚いんだよ」

男性がベンチの背もたれに腰掛け、座るとところに足を置いて背を屈め腕を足に置いていた。

「汚い?」

「そう。汚い」

そう言いながら笑った。
呼吸が白くなってきた。寒い。なにかいろいろ寒い。

「灰色の思い出に、色はついたかい?」

「まだですけど。みんなが赤って」

「そう。じゃあ。赤だ」

そう男性は寒そうな格好のまま寒さなんて感じてない笑みを見せた。

「あ」

向こうから電車がきた。急いで黄色い線の内側に行った。

ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン

その時、


「え」

友人は電車が来る直前に黄色い線から出た。

「ちょ」

寒い。雪が降っている。寒い。指が動かない。寒い。腕が。寒い。友人が。寒い。飛び込んで。寒い。肌色が喚いて。寒い。狼が通り過ぎる。寒い。寒い。ガタンゴトン。腕を伸ばす。寒い。寒い。空を切った。寒い。寒い。黄色い線から。ガタンゴトン。寒い。寒い。出てはならない。寒い。寒い。突っかかった。寒い。寒い。ガタンゴトン。足を踏み込んだ。寒い。寒い。腕を戻さないと。寒い。寒い。寒い。叫び声が。寒い。寒い。寒い。後ろに倒れる。寒い。寒い。寒い。黄色い線の中へ倒れた。寒い。寒い。寒い。肌色が騒ぐ。寒い。寒い。寒い。腕の感触が。寒い。寒い。寒い。無い。寒い。寒い。寒い。灰色が。寒い。寒い。寒い。誰もいない。寒い。寒い。寒い。男性が。寒い。寒い。寒い。笑っている。寒い。寒い。寒い。楽しそうに。寒い。寒い。寒い。嗤っている。寒い。寒い。寒い。寒い。ガタンゴトン。ガタンゴトン。



「ほら、赤くなった」



キキーッ!


狼に噛みちぎられた。




「えー。間も無く。終点。ーー。ーーです。降りる際お忘れ物がないようお気をつけ下さい。間も無く。終天です。ご利用ありがとうございました。」

 

戻る index