六月(愚者のパレード)


佐久間次郎にとって円堂薫とは、性別の垣根を超えた大親友である。
出会いは雷門中との練習試合という最悪極まりないタイミングではあったのだけれども、それを思い返すたびに佐久間は「あれは若かりし頃の過ちだった」と顔を顰めて言い放つ。薫からしても、たとえかつては好感度が下の下の下であったとしても親友となった今では「過去のことだから」と気にしてはいないらしく、二人して休みさえあれば水族館なりカフェでお茶なりと楽しい付き合いを続けていた。

「お前に羞恥心は無いのか」
「佐久間くんは親友でしょ」

佐久間と出かける際、彼女は躊躇無くカップル割を使用する。「おはよう」と気軽に挨拶をするかのように「カップル限定のラブラブメガ盛りパフェをください」と口にする。実際にさっきした。
かくいう佐久間もそれに文句を言うこと無く店の前で黙って手を組みやすいように構えるなど、だいぶ彼女のペースに染まりつつある。最初は「カップル!?は!?」と赤面していたのが嘘のようだった。

「佐久間くんだって私のこと異性だとは思ってないくせに」
「女扱いはするだろ」
「でも恋愛対象外でしょ」

せやな。佐久間はもっともだと頷いた。恐らく、自分が目の前の親友をそういう意味で好きになることは一生無い。戯れのように腕を組み、手を繋ぎ、カップルだと嘯くことだって容易くとも、そこだけは根本的に変わらない自分らの友情はとても強固だ。

「…というか、成神の奴がお前に会わせろってしつこいんだが」
「えっ、全然良いのに」

良くない、というのが佐久間の本音であるが、彼はそれを口には出さない。そんなお年頃。親友に後輩がベタベタしていて思わないことが無いわけではないのだ。簡単に言うと親友を取られるのがとっても嫌。彼女と一番仲が良いのは俺。
しかしそんな彼の葛藤を、恋愛沙汰以外では聡い彼女はいとも簡単に読み取ってしまっていた。

「さぁくまくん」
「…なんだ」
「今度ね、新しく雑貨屋さんがオープンするんだって。行かない?二人で」
「…いく」

二人が急激に距離を縮めた理由は、ペンギン好きという共通の好みがあったことである。「ペンギン好きに悪いもの無し」という彼ら独自のモットーの元、彼らはペンギン平和条約を締結した。そしてそんな条約を締結した今では、立派な親友で立派なペンギンファン。

「やった、可愛いシールあったら半分こしようね」

…そう言って花が綻ぶように笑う彼女に想いを寄せる男は、そう少なくは無い。エースストライカーも、風を切って走るあの男も、自分の友人である天才司令塔ですら、彼女の無垢な人間性に惹かれてしまっていた。
時折、そんな彼らから物言いたげな、たまに殺意さえ混じるような羨望と嫉妬の眼差しを受けることがあるものの、どう考えてもお門違いなのでこちらにそれを向けるのは止めて欲しい。俺は無実だ。

「…お前いつか刺されそうだよな、頑張れよ」
「急にどうして」

…最悪、彼女に危険が迫るならば身を挺して守ってやらなくも無い。
何せ自分らは、性別の垣根を超えてしまった最強無敵の大親友らしいので。




(後日、あの元自称神様の野郎も親友だと紹介された瞬間、彼の頭の中では開戦のゴングが盛大にカチ鳴らされた)