運命論者は愛を問う@


私の名前は豪炎寺ミノル。素敵な恋に恋する乙女な十三歳の女の子。将来の夢はいつか素敵な恋をして、世界で一番素敵な人と結ばれること!
理想の恋愛カップルは、かつて大恋愛の末に結婚したという私の一族の中でも、代々有名なひいお祖父様たち。何でも、お互いがお互いを生涯かけて真っ直ぐに愛し抜いたという運命極まりないほどに相思相愛の夫婦だったらしい。

「だからその計画、私も一枚噛ませてもらうわよカノン!!」
「だと思ったから内緒にしてたのに!!」

円堂カノンはひいお祖母様の双子のお兄様である円堂守さんのひ孫。つまりは私の遠い親戚でもある。血はほとんど繋がってないに等しいけれど、私たちはまるで姉弟のように育ってきた。
そして円堂守といえば、この時代のサッカー界において知らない人間はいないほどに有名なサッカー選手なのだ。勿論、私のひいお祖父様たちだって日本を代表する選手だったらしい。若かりし頃のひいお祖父様の写真はどれも凛々しくてとても素敵だ。

「カノン、貴方は円堂守さんを助けたい。私は若かりし頃のひいお祖母様たちにお会いしたい。Win-Winの関係でしょう?それに私の力だって本当は借りたいのではなくて?」
「確かに!喉から手が出るほどに借りたいけど!!見るからに私欲がすごいから!!」

黙らっしゃい黙らっしゃい。良いから貴方は大人しく私を過去に運べばそれで良いのよ。そして私は過去のひいお祖母様たちの甘酸っぱい恋模様を見に行くの!ひいお祖母様たちの大恋愛の様子は、昔ひいお祖父様におねだりしたら簡単に教えてくださったから何が起きたかは知っているわ。あとは見に行けば良いだけの話!

「来たわ!!」
「連れてきちゃったよ…」

え?頭を抱えているカノンが見える?ノンノン問題ナッシング!悩みたいなら好きなだけ悩むとよろしいわ!男は苦難を乗り越えてナンボだと昔ひいお祖父様も仰っていましたし!ひいお祖母様にどつかれてましたけど!!物怖じしないひいお祖母様も素敵。

「はわ…ひいお祖母様なんて可愛らしい…!」
「わ、本当だ…」
「ひいお祖父様でないのにあまり見つめないで目ん玉抉り取るわよ」
「ひえ」

あっあっあっ、それにしても麗しきひいお祖母様とその隣に並んで歩く私服姿のひいお祖父様の破壊力。私はいったい何度死んで蘇生を繰り返せば良いのでしょう。教えてキラード博士。

「こうしき、こうしきからのきょうきゅうが」
「日本語喋ってよミノルちゃん…」
「推しカプ運命の出会い編に興奮しないオタクがいるの…?」
「だからミノルちゃん残念な美少女って言われるんだよ」

私はありのままの私を愛してくれる方と結ばれる予定なんだから、約束された美少女である私の顔ばかりによってくる羽虫に興味は元から無いのよ。
そしてたしかこの後、帝国学園と戦いボロボロになる守さんに思わず涙ぐむひいお祖母様の絶望を救いあげるようにひいお祖父様が助っ人に参上したと聞いているわ。だから。

「お兄ちゃん…」
「夕香…どうして…!?」

ひいお祖父様の近くに、その妹である夕香さんの姿を模したホログラムが展開されている。しまったわ、軍部が目をつけているのは守さんだけだと思っていたから、まさかひいお祖父様にまで被害が行くだなんて…!!

「しまった…!先手を打たれたか…!!」
「ひいお祖父様…!」

夕香さんを大事にされていたというひいお祖父様の心を傷つけるような罠を選ぶだなんて、おのれ軍上層部。そこまでして私の怒りを買いたいようね。お望みどおりメッタメタのギッタギタにしてやろうかしら。

「お兄ちゃん…行っちゃダメ…。お兄ちゃん、忘れたの…?私があんな目に遭ったのは、サッカーのせいよ…?それでも、私の嫌いなサッカーを、お兄ちゃんはやるの…?」

カノン、カノン止めないで。あの偽物ホログラムを消すという使命が私にはあるのよ。ひいお祖父様のサッカーを何よりも愛しておられたという夕香さんがそんなこと言うわけないでしょう。解釈違い乙というやつなのだわ。
そして、ほら、案の定ひいお祖父様は怒りに満ちた目をしていらっしゃる。当たり前よ、私の素敵で聡明で素晴らしいひいお祖父様が、そんなホログラム如きに騙されるものですか!

「お前は誰だ」
「私は夕香よ…?何言ってるの…!?」
「夕香は誰よりも、俺がサッカーをやっていることを誇りに思ってくれていた」
「っ!!」
「夕香は、サッカーを嫌ってはいない!!」

嗚呼かっこ良すぎますひいお祖父様。夫婦共々シスコンブラコンを極めていたとは耳に挟んではおりますが、そこまで真っ直ぐに夕香さんを信じてしまわれるその心にこのひ孫、感激で胸が震えそうです…!

「あれは伝説のファイアトルネード…!本物だ…!!」
「ひい゙お゙じい゙さま゙」
「泣いてる」

うちわを、ペンライトを振らなければ。過去に課金できる装置は無いのですか。あぁほら、ひいお祖母様も感激で涙をこぼしていらっしゃるわ。ほら、あ、あ、ほら、あ、あぁぁぁぁぁぁ!!!!ひいお祖母様が!ひいお祖父様に!!感謝を述べられた!!!これが昔ひいお祖母様の語ってくださった、ひいお祖父様のことをヒーローだと思われた所以!なるほどこれは惚れないわけがないわね!!

「ミノルちゃん、大丈夫…?」
「しぬ…」
「供給過多のオタク反応だ…」

無事にひいお祖父様がサッカー部と関わるきっかけを死守できた私たちは、とりあえず一度アジトに戻ったものの、私の余韻がすごい。語彙力皆無ってまさにこのこと。だってこの後でしょう?めくるめくひいお祖母様方のラブストーリーが展開されるのは。つまりそのきっかけを死守できたってことはオタクにとっての救済。私がメシア。

「赤飯炊きましょ!!」
「今日はカレーって言ったでしょ」

女子力に関しては女の子の私よりも一枚上手なカノンが憎いわ。私が彼よりも料理上手だったならば、夕飯の決定権はすべて私に委ねられていたものを。ちなみにひいお祖母様方は夫婦揃って料理上手。代々の子供と、そのお嫁さんたちはお二人からお料理を教わるの。私も現在はお祖母様とお母様に教わっている最中。ひいお祖母様はときどきお菓子の作り方を教えてくださるのよ。

「でもカノンが料理上手なのは意外だわ」
「うちはね…ひい祖父ちゃんは元からだけど、ひい祖母ちゃんも…料理が…ね…」

カノンのひいお祖母様はメシマズで有名。けれどそれを一言も貶すことなく全て胃に収めていたという円堂守さんも男前よね。さすがはひいお祖母様曰く、数々のフラグを打ち立てた男。私のお祖父様みたいだわ。





地雷を真上から踏まれて私の心が世紀末。ひいお祖母様が皆から愛される素晴らしき女性だったということを利用して、危害を加えようとする愚か者の存在に殺意がすごい。いえいえぶっちゃけひいお祖母様へ危害を加えかけた愚か者には殺すだけでは足りないほどの報復をしてやりたいのだけれど。まぁつまり端的に言えばひいお祖母様の命を脅かす真似をしくさりやがったのよ、あんちくしょうたちは。

「そんなに痛い目をみたいのかしら!?」
「もう見させてるよね?それどころか念入りにもう一度痛めつけ直したよね??」

ひいお祖母様へ事故を装ったトラックをぶつけ、生死の狭間を彷徨わせることによってチーム内に動揺を生ませる作戦を決行しやがった軍の上層部の方々は控えめに息を止めてくださればよろしい。ひいお祖母様を道路に押しやろうとする輩に向け私がドロップキックをお見舞いして、おまけに倒れた輩の鳩尾に一発叩きこまなければひいお祖母様の命は、今頃…!
いえ、考えていることは分かりますけど?ひいお祖母様は愛されることを約束された美少女であるからして、重体になんぞなんてなってしまえばチーム内に動揺が走ること間違いなし。けれどそれは私の地雷の上でタップダンス。もしやあなた方、死にたがりの阿呆ですの?

「これがひいお祖父様のお耳に入ったら、全盛期の如くファイアトルネードを叩き込まれて四肢爆散間違いなしだったわ!!」
「身内を犯罪者にしないで」

とりあえずボッコボコにしてから、キラード博士に頼んで未来の警察に届けてもらってから、ひいお祖母様の警護を続ける。ひいお祖母様がお家に帰られるまでは、アリ一匹さえもひいお祖母様には触れさせないわよ。

「ねぇねぇ君!よければ俺たちと遊ばない?」
「そこに良い店があるんだよ」

だというのに!!私の崇高な使命を阻む輩が多すぎる!!虫除け要員になり得るカノンがキラード博士からの連絡で居ないのもまた大きいのよ。たとえ私が十人中十人を振り向かせる美少女であるからって、顔だけで釣られる輩に用は無いの。それなのに、目の前の輩はいくら冷たく振る舞っても止めない!退かない!諦めない!!そんな粘り強さをここで発揮しないでくださるかしら!?
だんだん苛ついてきて、いっそ蹴散らしてしまいそうかしらなんて拳をそっと握り締めていた、そのときだった。

「あの、その子嫌がってるじゃないですか」
「はゎ」

私と輩の目の前に立ちはだかったのは、紛れもなく若かりし頃のひいお祖母様。その出で立ちはまるで、姫のピンチを救う王子様が如き勇敢さ。ひいお祖父様では無いけれど、うっかり恋に落ちてしまいそうなほどのカッコ良さに内心震えていればしかし、そんなひいお祖母様の可憐さに目をつけた輩が楽しそうに口笛を吹く。その口、縫い止めるわよ。

「君も可愛いじゃん!ちょうど俺らと数同じだし、一緒に遊びにさぁ…」
「解釈違いなのよ!!!!!」

輩がひいお祖母様の肩を抱こうとしたのを見て私は大激怒。一気に噴火した怒りのままに、目の前の輩の手を力一杯叩き落とし、そのままひいお祖母様を連れて逃走した。その肩を、抱いて良いのは、身内を除けばひいお祖父様ただ一人だと記憶に刻んで永眠なさって。そしてそのまま二度と目覚めなくてよろしい。
そしていきなり手を引いて逃走した私に、ひいお祖母様は怒ることなく、その優しく慈愛溢れた微笑みで感謝の言葉を口にしてくださった。

「結局助けてもらっちゃったね。ありがとう」
「そんな、お礼なんて…!」

むしろこうしてひいお祖母様とお話できてとってもハッピー。さては幸運の女神は私に微笑んだのね。一生の悔いなし。いえやっぱりひいお祖母様方の運命を見届けるまでは死ねない。オタクって業が深いのね。
本当はもっとお話したかったし、何なら握手とサインとハグとチェキが欲しかったのだけれど、さすがに遠くから「はよ離れろ」アピールしているカノンに怒られそうなのでやめておいたわ。名前も名乗らないのは失礼だけれど、あまりお話して過去の人間の記憶に残るのは不味いらしいから、泣く泣くひいお祖母様とお別れした。

「アイドルのファンサじゃないんだから…」
「私にとってはアイドルと同義…いえ、アイドルよりも敬虔で崇高たる存在よ、ひいお祖母様は」

もちろんひいお祖父様もですけれど!!…しかしあの軍の輩と言い、不埒な軟派共と言い。ひいお祖母様には忍び寄る魔の手が多すぎる。このままでは、ひいお祖父様とのラブストーリーが始まる前にひいお祖母様へ被害が行く可能性があるわ。そうなったら、首を吊っても死に切れない。…ならば守るしか他に選択は無くてよ!!

「こうなったら私はこれからひいお祖母様とひいお祖父様の警護につくわ!カノン!カメラとビデオを寄越しなさい!!」
「盗撮する気だよね。その気しかないよね」

ひいお祖母様たちの愛のメモリアル激写大作戦とお呼びなさい!!若かりし頃のひいお祖母様とひいお祖父様の仲睦まじげな様子の写真を私は未来に送り届ける義務がある!!どうしてって?ふんっ、考えの無いお馬鹿さんはこれだから!!
推しカプを笑顔にするためならオタクはどんな困難だって厭わないものなのよ!!!!!

「過去に連れてきたことを死ぬほど後悔してる」
「安心なさいカノン!貴方のしたことはどう見てもファインプレーよ!」
「それなら実感持たせてよ」

これからは密着して全力で推しカプの撮え…じゃなくて護衛に挑ませてもらうわ!!覚悟なさいよ軍のやつら!!二人の進むべき道を邪魔しようもんならその頭でゴールネットを揺らしてさしあげるわ!!!