不老と不滅





不死身の身体だという彼の存在にとても興味を持った。

いつも通り箒に跨り夜空を浮遊してた私にとってなんら変わりない日常。今回はどんな人と出会うのだろうか、魔物?人間?悪の化身かしら。淡い期待を胸にそわそわしてたところ下から違和感を感じた。敵だと思われる物体と薄暗い森の中で戦っている、違和感のそれ、は仮面を被った少年を助けながら、熊に変身をし、彼の盾となり「にげろ」と叫ぶ。仮面の少年は走り去り姿を消した後、木を模した敵は違和感のそれ、銀髪の少年が変身した熊の胸を突き刺し殺した。しばらくして辺りが静かになり血みどろになった木の熊だけがゆっくりと森林から頭を覗かせる姿に私は呆然とし唾を飲み込む。変身した体を乗っ取られた?銀髪の少年から感じられた違和感はまだあたりに漂っている。死んだと思われるが恐らく何か別のものになっているのか。
すると仮面を被った少年が駆けて戻ってくると炎を口元から勢いよく吹き出し敵を燃やす。手法はよく見えなかったが魔法ではなく松明と何かを使ったのであろう。この世界には魔力やそういった類のものは感じ取れない。灰となった敵の残骸から出てきたものは私が違和感を感じていたそれ、球体。それが正体だ。
後に球体は白いオオカミになる。い、生き返った。違和感の正体は不死の存在だったのか。鼓動が早くなるのを遠巻きに感じ私は震える手で箒を握り直し銀髪の少年になった不死の存在にゆっくりと近ずいた。


それから数日が経った頃だ。


「やぁ、フシ。こんにちわ」
「ヒナ!どこに いってた?」
「うーん。ちょっとお散歩かな」
「そらのさんぽ?」
「そ。もしフシも鳥か、空が飛べるようになったら一緒に飛ぼうね」
「おれ とりには なれない」
「まだなれないだけじゃないかな。いつの日にか、ね」
「うん 分かった」
「うんうん。フシと仲良くなれて嬉しいな」
「なかよく」
「同業者として、これからもよろしくね」


違和感の存在はフシ、と安直な名前をした端正な顔立ちの少年だった。この世界の理を観察するととともに彼の存在にも興味が沸き彼の拠点である酒爺の店に何度か訪れていた。のだが。フシの近くにいる黒いローブを身にまとった特殊な存在がそれを良しとしなかった。他の人に見えない、フシを作った人物などなど特殊極まりない彼がまとう雰囲気はフシと同じ違和感を感じられた。私は彼等の違和感に興味しかないのだ、ここは友好的にいこう。黙って黒い彼に従うことにすると彼が出した条件は、私が死なないこと。イレギュラーな存在であることを私自信がよく分かっている事を男も理解しているのであろう。興味はあるものの深く関われない私を知ってか、その条件のみ切り出す男の素性は全くもって謎である。ジト目で男を見つめ瞬きしたうちに消えていった。


「あ おれごはん つくらなきゃ」
「グーグーに教わってるんだよね。私もお手伝いするよ」
「ありがとう ヒナ」


酒爺の恋人かつ同居人の老婆ピオラン曰く、言葉と文字はここ数ヶ月で覚えたらしい。たどたどしい言い方や表現など姿に似合わず幼子と話しているようでほっこりした気持ちになる。思わず頭を撫でてしまい、きょとんとする少年の黄色い目が合うと目尻を下げふにゃりと笑った。美少年の微笑みは万年就活生の私によく効く。様々な別世界で整い過ぎた顔に出くわしている筈なのに、慣れないものだな。きゅん、としてしまい私も締りのない顔をしているであろうだらしない表情のまま少年が動かないことをいいことにほわほわした雰囲気に暫く浸っていた。
こちらもフシの表情を見るのがなんとも楽しいのである。


「わぁヒナさんだわ!グーグー!フシさんがヒナさんを連れてきたわー!」
「ヒナさん!もうー!何処いってたんだよ〜心配してたんだぞ!」
「ごめんごめん。あれ?リーンはお屋敷に戻ったんじゃないの?」
「今日はお勉強やお作法とかとにかくいろいろ頑張ったから半日自由な時間をもらったのよ!」
「頑張ったじゃない。それなら親御さんも文句言えないわね」
「ふふーん。ってことで今日は私も店番をするわ。ヒナさん、旅のお話聞かせて!」
「ヒナ今から おれと ごはんつくる」
「えー!じゃあ私もご飯のお手伝いするわ。グーグー、店番よろしくね!」
「いやいや待ってよ!俺がフシに料理を教えようとしてた筈なんだけど!」
「あっはは。両手に花だね。じゃあグーグー、店番お願いします」
「ヒナさんこそ何言ってんだよー!」


酒爺の店で住み働きしているフシの兄弟(仮)グーグーと街のお嬢様(お転婆娘)も一緒になって賑やかな空間だ。もうしばらくフシと黒ローブを観察したら違う世界に行くか。



ここを拠点とし世界を見ていくうちに4年が過ぎた頃、リーンの誕生日パーティーが催されたその日は酷く空気が乾燥されており咳がやたらでたりそれが原因で口の中が乾きむせ込んでは嗚咽を繰り返し心配されるのも嫌で1人で夕焼け空を仰いでいた。なんて。目の前で起こった事から背けた結果膝を抱え込み独り丸くなっていただけだのだが。
フシがグーグーに変身し酒爺の店を背に歩いていく姿を思い出しこれまでの私の行いを振り返ってはさらに頭を抱え小さくなる。
よく、フシに同業者って言えたな。
私、どうしてこんなことしてるんだろう。

箒に跨りこの場から逃げるように誰にも告げずに静かに空へ。あがれあがれ。どんどん上へ。今は1人でいたいのだ。
紫色の花弁が風に乗って横を通り過ぎたのを尻目に私はこの世界から旅立った。




END?