「うまい!」
「はい」
「うまい!」
「はい、おかわりどうぞ」
「ありがとう!…うまい!」


私の夫かつ元同期の杏寿郎くんは私が作る料理をいつも美味しく食べてくれる。私が作るものなんて特別美味しくもなくごく普通なものだと思っているのにこの人は本当に、美味しくいただいてくださる。


「このだし巻き玉子。以前よりも美味しいな!」
「あっ気づいた?煮干しの出汁を入れたり火加減も前とは違う方法でやってみたら、香り良く出来上がったの。お気に召されまし?」
「ああ、通りでうまいわけだ!さらに旨味を感じられる!」
「ふふふー。杏寿郎くんが帰るって聞いたから他にもたくさん作ったの。たらふく食べてね!」


どーんと複数の大皿にのったお惣菜を持ってくると全て頂こう!とさも当たり前かのように旦那様は自身のお皿にこんもりとよそる。
うまいうまいとまたたくさん食べる。このやり取りが続いて数刻が経つがまっったく終わる気配がない。好きな人がうまいと言ってるだけなのに、不思議なもので飽きが全く来ない。
あーほんと、杏寿郎くんのところに嫁げて幸せだなぁ…。
なんてぼんやり思っていたのが顔に出ていたのか「春、何か嬉しいことでもあったのか?」大好きな杏寿郎くんの綺麗な瞳とこんにちはする。
口角は上がったまま、口の端にご飯粒をつけまっすぐ見つめる杏寿郎さんに何とも言えない気持ちが混み上がる。
「杏寿郎くんのお嫁さんになれて幸せです」素直に口に出た言葉を紡ぐと「そうか!」といつも通り勢いある返事の杏寿「そうか」郎くんかと思いきやどうやらそうでもないらしい。
顔を一瞬伏せながら同じ言葉を何度か呟くと、持っていたお茶碗とお箸(全て綺麗に平らげていた)を置いて、先程の口角を上げた表情のまま、私を真っ直ぐと見つめる。


「明日、急な任務がない限りは1日邸にて過ごそうと思っている!」
「えっ、任務ないの?!」
「ない!」
「え、あ、え…は、柱でもある杏寿郎くんの元に任務の伝達がないなんて、な、何かの間違いじゃ」
「誤報ではない!俺も人の子、愛する妻とその腹の中にいる子と過ごしたいと思うのはごく自然のこと!すぐさま承諾し春と過ごそうと決めたぞ」
「………う。うう…!」
「…春。君はほんとに涙脆いな!畳の上がびしょ濡れだぞ!」
「うぇ…うーーっ、…ごめ、嬉しすぎて嘘なんじゃないかなって思った…。杏寿郎くんと一緒に、のんびり過ごせるのが、なんだか、夢見たいでぇーーーっ」
「よしよし」


鼻水も涙もダダ漏れで顔がぐしゃぐしゃなのに気にもしないで杏寿郎くんはにこにこと笑いながら私の頭を撫でる。


「夫婦となったはいいが、ゆっくりできる時が殆どなかったからな。春が懐妊したと知らせが来た時ですら文を送るだけ。…寂しい思いをさせてすまなかった」


自分の耳を疑うということは相手の言葉を信用してないともとれる。そんな失礼な嫁に杏寿郎くんは呆れるどころか謝罪し始めるじゃないか。「そ、そんなことないがら゙ぁ゙ぁぁ」嬉しさ半分申し訳なさ半分で叫ぶ私に、彼は目尻を下げ優しく微笑むと私の腕を自身に引き寄せ抱きしめた。
布越しに伝わる彼の心音がまた心地よくて涙がとまらない。いい加減とまってほしい。
「春!今日はこのまま一緒の布団で寝よう!」
いやいやまてまて。私妊婦。いや、そういう意味じゃなくてただ単に本当に一緒に寝るだけだろうけど意識するから。旦那様の衝撃発言に涙も引っ込みみるみる顔に熱が上がってくるのが分かると、恥ずかしさで杏寿郎さんの胸板をぽこすか叩いた。

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