お日さま園にてルイル達の誕生日会を終えて、恵那と吉良、3人で自宅に戻っている途中、吉良だけが先に家に戻ってると言い出し、歩いて数分だという距離を全力で駆け出していった。
一番星が見え始めて来た夕方時。自宅の前で恵那は足を止める。

「ルイル、ちょっとまっててね」
「う、うん」

コンコンとノックをし「ヒロトさん、入りますね」と小さな声で聞くと相反するように「どうぞー!」なんて大きな声が返ってくる。恵那はそんなハリキリ勇者に自身も笑いが抑えられず小さく笑った。

「??ヒロトお兄ちゃんが、どうしたの?」
「ふふ、あなたの為に“とっておき”を用意したんだって!」

恵那が優しく微笑んでドアを開ける。薄暗い自宅からはひょっこりと顔をだしているヒロトお兄ちゃん。おいで、とルイルの手を優しく引いた。

「俺のとっておきの魔法!見せてあげるよ!」

指をパチンと鳴らすと、ちかちかと光る無数の星があたりを漂う。ふわりと浮かんでいる小さな光はルイル達の回りを浮遊しては消えていく。

「う、わぁ…!」

見たこともない光景にルイルは口が半開きになっている事も忘れ見入っていた。その姿に恵那と吉良は顔を見合わせて大成功!とダブルピース。ルイルの様子に満足気な吉良はルイルの後ろから声をかける。

「回りで浮いてるお星様、とってみてごらん?」
「え?」

ほら、と吉良の手に降りてきた小さな光の瞬きはルイルの瞳にくっきりと写り込む。吉良の真似をして、彼女もおそるおそる光に触れる。
ほわっと広がる温かさ、優しい光。まるで、お兄ちゃん腕の中にいるような感覚だった。

「……きれい、だね」
「!でしょー!ルイルの為に用意したとっておきの魔法だもん!俺の全精力を注ぎ込んだ最高傑作をプレゼント!」

目を輝かせているルイルに気を良くした吉良はふふんと鼻を鳴らし流暢に話し始める。恵那は苦笑し「明日の訓練指導で倒れないでくださいね」と肩をすくめた。よゆーよゆー!とブイサインで答えながら、器用に小さな光を指先で動かしルイルの髪をサイドアップに束ねたり三つ編みにしたりとヘアアレンジを楽しんでいた。
くるくる変わる自身の髪型にそわそわしながら、せわしなく浮遊する小さな光がヒロトお兄ちゃんと重なりなんだか面白く感じルイルは笑う。


「ヒロトお兄ちゃん」
「んー?」
「ありがとう」


腰に手を回して力いっぱい抱きしめる小さな存在。見上げた顔と目が合うととびっきりの笑顔を見せた。

あぁ、この1年で、大きく変わったなぁ。
表情の変化も言葉も多くなり彼女からの信頼も少しずつ感じられるようになり、吉良はその度に何事にも変え難い充実、幸福感を感じていた。自身の妹の瞳子同様、ルイルも家族のように接してきたつもりだ。けど、この小さな女の子は、情けないと自負する勇者にとって特別であった。


「俺、ルイルと出会えて本当によかったよ」
「ヒロトお兄ちゃん?」
「生まれてきてくれて、ありがとう」


ちっぽけな勇者でも、何かを変えることが出来る。
君は、俺の大切なお姫様。

自然と出た言葉は小さな愛しい彼女を抱きしめて温かな光に包まれた。