「すみません…せっかくの文化祭なのに」
「気にすんなよ。助っ人、1時間だけなんだろ?」
「はい。時間きっかりに上がります!まだ、条介さんと回りたいところがあるので…!終わったらすぐ連絡します!」
「おうおう。待ってるぜ」

隣りのクラスの出し物がトラブルを起こし人手不足らしく、実行委員と仲の良い恵那に声がかかった。恵那は二つ返事で答えようとしたが、今日は特別な人と一緒だ。綱海を見上げると、恵那の表情を見て「いってこいよ」と彼氏はニカッと笑った。

すぐに終わらせて戻る…!彼女は快く送り出した彼氏に心の中で何度も頭を下げた。


「あれ?恵那は?」
「隣りのクラスの助っ人に駆り出されたぜ」
「え〜〜〜っ!まったく…綱海と回れるのすごい楽しみにしてたっていうのに、優しすぎるのよ恵那は」
「そこが恵那らしいだろ?」
「まぁ、そうだけど…」

ヒロトと共に出店で買ったわたあめを頬張りながら戻ってきた瑠流は、親友の行動にひとつため息を吐いた。1時間で戻る事を伝えると、それじゃあ、とヒロトがポケットから何かを取り出した。

「恵那ちゃんがいないのは残念だけど…逆に驚かしてみない?」
「?ヒロト、何これ、いつの間に貰ったのよ」
「まぁまぁ。読んでみてよ」

どれ、と綱海もヒロトの手元を覗き込む。

「「1日コスプレ体験先着10名さま〜?」」




***




「ねぇねぇ、あの実栢って人。超カッコイよくな〜〜〜い?!」
「わかる〜〜〜!長身だしスタイルもいいし控えめに笑う感じも素敵〜!」

いや、アイツ無理してるからぎこちなく笑ってんだよ。本当はこういうの苦手だろうし。というか恵那はかっこいいより可愛いんだよ。
今すぐにでもその遠慮がちに笑っている顔を自分が壊して思いっきり照れさせてとびきり笑わしてやりたい。恵那と、テーブル席に座っている女子とのやり取りを見ながら、後ろ席から聞こえる注目の的となっている恵那の話に耳をたてながら綱海は内心モヤモヤとしていた。

「……ヒロト。綱海がそわそわしてる」
「彼女の男装やらお客さんとのやり取りにヤキモチ妬いちゃってるんじゃないかな」

ボソリと小声で会話する瑠流とヒロトの話も気にも止めず、綱海は頬杖をつきながら恵那のことをジト目で見つめていた。
恵那は今の目まぐるしい状況と、自分が自分ではないと錯覚することで何とか乗り切れている男装で仕事に集中しており綱海達には全く気づいていなかった。また、綱海達も先程のコスプレ体験の格好のままであり、ウィッグを被ったりと一見誰だか分からない事もあり、より気づきづらかった。
助っ人でまさかこんな仕事をするとは、思わなかった。綱海達はたまたま呼び掛け人に声を掛けられ、恵那との待ち合わせもここでしよう、と入ったら、その本人がここで仕事をしていたのだ。
綱海も恵那の真面目さを知っており、助っ人が終わるまで声は掛けまいと、思っているのだが。あんな姿見たらなぁ…。綱海は心の中でどうしたもんかと頭を悩ました。
そこへ、他の男装店員が綱海達が座る席にメニューを聞きに声を掛ける。何も応答しない綱海を見かねてヒロトがすかさず人数分の飲み物と瑠流の好きなデザートを頼んだ。手馴れたその男装店員は一礼し注文表片手に去っていった。

「もー綱海、いくら俺の恵那が何しても可愛いからって見すぎよ」

そろそろ挙動不審で何か言われそうだと瑠流が綱海に注意をする。名前を呼ばれ、そこでようやく視線を外し向き直る。

「いや、こそばゆいって言うかなんつーか、落ち着かないというか。早くいつもの恵那に戻ってくれーって感じでさ…」
「あれはあれでカッコよくて私は好きだけど、まぁ身内としては落ち着かないわよねぇ」
「瑠流も似合うと思うけど、身長が足りないかな?」(クスクス)
「インソールで誤魔化せばなんとかなるわよ!…でもあれいいわね。大学で男装喫茶、やろうかしら」

ヒロトと瑠流の会話を聞きつつ、そういえば恵那は、と辺りを見回す。「お待たせしました」後ろから聞こえてきた、よく耳にしている声。やや低いその声は綱海にとって違和感でしかなかった。

「コーヒー3つと、」
「よ、恵那」
「チェキつき抹茶の⎯⎯………え??」

こちらの存在にも全く気づかない事が追い討ちとなり、とうとう綱海は自分から声をかけた。
髪をセンターで分けていた恵那は綱海とばっちり目が合い、緑色の大きな目が瞬いた。「条介さん?!」顔を真っ赤にした彼女は、一瞬にして今まで被っていた男装という化けの皮が1枚剥がれいつも通りの恵那という女の子となった。

「な、え、な、なんです、かそ、その格好…っ!?」
「かっこいいだろー?短髪ってのもたまにはいいな!」
「か、かっこいい、ですけ、ど、な、なんでこ、ここに…!!」
「呼び込みに誘われちゃって。恵那、男装すごく似合ってるわよ」
「?!る、瑠流、髪、みじか、い…!」
「チェキつきの抹茶パウンドケーキ。このチェキって定員さんと写真が撮れるってやつかな?」
「ヒロトくん、女の子に、なってる、し…!み、みんな、ど、どうしたのその格好っ?」
「かくかくしかじかでさ。恵那のこと驚かしたかったんだけど、こんな形になるなんてな!」
「〜〜〜っ!び、びっくりしましたし、恥ずかしさでどうにかなりそうです…」

両手で顔を隠す普段の恵那に気を良くした綱海はわははと豪快に笑った。未だ状況が読めない恵那は困惑する頭で、先程のヒロトの質問に答えた。

「店員さんとチェキを撮って、その場でメッセージを書いてお客さんに、配って、います…」
「これまた本格的ね〜。助っ人の恵那までそれやってるの?」
「う、ううん。さすがに私は恥ずかしくて断ってるよ…」
「んじゃあ俺が最初で最後だな」

え?と恵那が綱海に振り返るよりも先に、彼は席を立ち彼女の肩を抱き寄せる。固まってる恵那をよそに「おーい!店員さーん!」そのまま大声で、カメラを持っている男装店員に声をかけ流れるままに写真を撮られた。

「恵那は身長高いし男装も似合うかもしんねぇけど、可愛い方が断っ然いい」
「……じょ、う、すけ、さん…」
「今だって可愛い顔してるしな」

ぼそりと呟きながら離れていく綱海の言葉に、自身の顔が熱くなっていくことを感じて逃げ場のない羞恥に耐えられず瑠流の背に隠れうずくまった。
先程の男装としての凛とした佇まいとは真逆に、背中を丸め小さくなっている彼女はとても可愛く、それが自身の手によって色づいていった事で満足した綱海は、砂糖ましましのシフォンケーキを1口頬張った。







おまけ


「あーー!ちょっと綱海、それ私のだし、それにチェキだって私特権だったのよ!?」
「ん?あー!わりぃわりぃ!つい勢いでよ〜〜」
「もーー!…にしても、綱海ってやっぱり大胆ね。すごい注目されてるわよ」(恵那に向かってボソリと)
「……う、うぅ…」
「恵那ちゃんがほんとに可愛くて仕方ないんだね」(ボソリ)
「……ううぅ…」(さらに顔を赤くする)



おまけ2

助っ人時間が終わり、着替え中にて、クラスの実行委員との会話。
「実栢さん!手伝ってくれて本当にありがとう〜〜!!」
「あっ、ううん!お役に立てた、かな?」
「おかげで大盛況だったよ〜!超かっこよかったし!あ、でも最後は可愛かったかな?」(ニコリ)
「えっ?!あ、あれはその……!わ、忘れてよ〜〜っ」
「ふふ、実栢さん愛されてるなぁ。……あ!あとこれね」
「?」差し出されたのは1枚の写真
「さっきの写真!コメント書くまでが、お仕事ね」
「えっ……え〜〜…」





続く??





memo:
またまた綱恵をお借りしました!いつもありがとうございます!m(_ _)m
あおのいのネタを元に書いてみたよ〜〜(^^)私の書きたかったシーン書けて超楽しかった!
続きは書けたら書きたいなぁ〜〜。