「―――で、ここで全体魔法をかけて」
「私の魔法で束ねて気絶させる……うん、それでいきましょう」
「君だからこそ出来る芸当だな。楽しみにしてるよルイル」
「うーん、あんまり魔法は得意じゃないけど、頑張ってみるわ」

ダイヤモンドダストとの次の任務は地下水路に住み着いてる野盗が数人いる、との事で表立って遂行すると城下町にも影響が響くため隠密が得意な風介率いる冷静沈着頭脳派チームが出向く事となった。
これにルイルも参加することとなり、素早く事が収まるようにリーダーといつもの図書館で肩を寄せ合い作戦を練っていた。

「ふー、、、いくら治安が良くたってこうした輩は後が立たないわね」
「影はどこにでも現れる」
「ふん、その度に私達が成敗してあげるわ」

その場でストレート、ジャブ、とコンビネーションを決める少女。細腕からでは考えられない力と、自分では気づいてないだろう絶大な魔力。勇者の肩書きに恥じないその能力は、ジェネシスや騎士団、最近では城下町にまで知れ渡っている。そんな人気者の勇者に、知名度やらなんやら全く興味がない、といった無表情で風介は幼なじみの彼女を見つめていた。

「ルイルは、」
「んー?」
「ルイルは何の為に戦うの?」

気づいたら変な質問をしていた。しまった、と表情は崩さないものの内心では何故こんな事を聞いたのか自分に問いかけては疑問が浮かび上がるだけで。
珍しい風介の問にルイルは「んーー」としばらく考えた後、風介に向き直る。

「この世界のみんなの為!」

さすが皆の勇者様、といったところだ。予想はしていたものの胸の中でその返答になんとなく違和感を感じたのは、気の所為なのか。
完璧な答えにえらいえらいと棒読みで答えながら彼女の頭を撫でる。いつも通りの風介の反応に嬉しく思いルイルは得意げに鼻を高くした。

「そういう風介は?」
「……ん?」


「風介はなんのために戦ってるの?」


***


君に問われた時、直ぐに答えが出せなかった。
なんのため。君のため。どうして戦う。君を守るため。
そんなのは当たり前だ。
だが何故、こんなにも心が奮い立つのか。

「風介っ!」

悲痛な叫び声が水路に反響してあたりに響き渡る。

「ばかばかばか!逃げてよ!私のミスだったのに!!風介が庇うこと、ないのに!!」

敵からの攻撃を真正面からくらい、受け身をとれず仰向けになって倒れたところ、当人に酷く心配された。見たこともないぐらい顔がぐしゃぐしゃであり、「顔ひどいよ」と笑うとさらにばか!と頭を叩かれた。出血はないが腕への衝撃が強く身体を無理やり起こすと痛みに鈍感な風介でも若干顔を歪ませた。

「!ごめん、ごめんね、私がヘマしなければこんな事にならなかったのに」
「……ああ、それでさ。昼間の質問なんだけど」
「今その話?!それよりも怪我手当っ、敵もまだどこにいるか、」
「捕まえたよ」
「え?」
「ほら」

野党は風介の魔法でいつの間にやらに氷漬けにされていた。「………」瑠流は自分の情けなさを感じ、風介の前で項垂れる。

「私はルイルの為に戦っている」
「……へっぽこ勇者だってのに?」
「勇者なんて興味無い。ルイルがいるからこの世界に私はいる。君が戦うなら私も戦う、阻害する者は許さない」
「風介……」
「ルイルの為ならなんだってする」

初めて見た余裕のない顔。感情をぶつけるような言葉。小さくなった彼女を抱きしめる力は力強く。情けないと思っている気持ちさえ感じなくなればいい、と。
勇者なんて、やめてしまえ。
世界のみんなの為に消えていくのならば私はこの世界を滅ぼすであろう。
ルイルがいない世界なんて意味もない。