第1部での出来事。
とある村へと向かう途中、何者かが魔物に襲われてる姿を発見。少年は足蹴りを繰り出し応戦ているものの押せれ気味で苦戦を強いられている様子であった。すかさず少年を庇うように間に入る勇者一行。

「君!がんばったね、後は私たちに任せて!」
「えっ、」
「んじゃ1番多く倒した奴が飯倍に食えるってことで」
「その金はどこから出てくる」
「昨日たくさん依頼こなしたから、ルピーには困ってないよ」
「って訳だ!おいチビ!数数えてろ!」
「えっ、あ、はい!」

晴矢の声に驚きながらも大きな声で返した少年は、言われた通りヒロト達の後ろでそれぞれの討伐数を律儀にカウント始める。
でも何で逃げないで応戦してたのかしら。ルイルは疑問を感じふと後ろを振り返る。少年の後ろには大きな1本の木、とその枝にとまり不安そうに見守る小さなドラゴンが。ふむ。そういう事か。

「君、名前は?」
「と、虎丸です!」

カウントをやめないで応答する少年はてんてこ舞いな様子だったがルイルはお構い無しに話を続ける。「守ってたんだね。あの子のこと」と小さなドラゴンに目を向けると虎丸は驚いた様子でルイルに向き直る。

「!はい、でも、俺だけじゃどうすることもできなくて。そしたらあなた方がきてくれて、俺、」
「よしよし、偉いよ!虎丸!」

虎丸の言葉を遮るようにルイルは少年を力いっぱい抱きしめた。小さな身体で誰かを守ろうとするその姿に感動して、衝動的に体が動いていた。「ルイルー!手伝ってー!」器用に戦闘をしながら一部始終を見ていたヒロトはもう黙ってもいられず、未だに少年を離さずにいるルイルに声を大にして呼びかけた。
見ててね!と、ウィンクをして離れていった少女に、虎丸はとうにカウントの事なんて忘れ、華麗に剣を振るうルイルの姿に釘付けであった。

(memo:ドラゴン君は虎丸くんの相棒になってくれるとめちゃ個人的に嬉しい)


***


「おいっしー!これ、虎丸がつくったの?!」
「はい!ルイルさんに食べてほしくて頑張りました!」
「おいおい、ルイルさん“達”が抜けてんだろ。調子乗ってんじゃねーぞチビ」
「あっ、失礼しました、ルイルさんしか考えられなくて」
「こいつ分かってて言ってんだろ」
「まあまあ。虎丸くんのおかげでご飯代浮いたんだし、そんな怒らないで晴矢」
「単細胞」
「んだとぉ!」

そう言って宥めるヒロトや無表情な風介も、ルイルの隣でデレデレとしてる虎丸の事は気がかりなようで。こいつルイルの事好きだろ。3人の考えは一致していた。

「というか誰が1番倒してたんだよ」
「ダントツでルイルさんですね!」
「平気で嘘ついてるよー虎丸くんー」
「頭の中がルイル一色になってるな」

はぁ、とヒロトは虎丸が彼女に惚れてしまったであろう原因の寸劇を思い出してはため息を吐いた。誰にでもああいう事はしないが、時折大胆な行動に走ってしまうのが彼女だ。その度に何度頭を抱えた事か。
ヒロトは、向かいに座る美味しそうに頬張るルイルを見ては苦笑しながら自然と息を吐いた。まぁ、それがルイルだもんね。

「はーー食べたー!ご馳走様でした!」
「ルイル、口の端にまだついてるよ」
「え!ど、どこに、」
「ここ」

爽やかな笑顔と余裕そうな表情で、ルイルの口の端に親指を添えて、汚れを取り除く。
これには当の本人も固まり、顔をみるみると赤くしていく。そんな彼女の反応に優越感を覚えているヒロトは、虎丸に薄く笑いかけながら外に出るね、とその場を去っていった。

「ひ、ひ、ヒロトのばかー!!」
「そうだぞこの変態が」

いち早く動いた風介がわなわなと耳まで真っ赤にし震えるルイルを介抱するように彼女の口元をごしごしと拭く。「あーあーやってらんねー」と頭の後ろで手を組みながら椅子の上で仰向けになる晴矢はどこか投げやりで。
一連の流れを見ていた虎丸は、ルイルの反応を見て小さくボヤいた。

「……そっか。ルイルさんはヒロトさんのこと、」
「そーいうこった。諦めろ」

感の良い虎丸に少しだけ同情した晴矢は、その言葉を拾い欠伸をしながら気だるそうに伝える。

「諦めろと言われて俺の気持ちが納得する訳ないじゃないですか」

返ってきた言葉は予想もしなかった言葉。あっけらかんとしている虎丸に拍子抜けした晴矢は、その言葉に自身も思うことがあり、はっとする。

「好きになったこの気持ちを素直に相手にぶつけるだけです!」

なんとも耳が痛い言葉だ、と晴矢はキラキラと目を輝かせる少年に呆れを感じるとともに自分の胸の中でつっかえてる気持ちに気付かぬ振りをした。



(んじゃ言えんのかよ、あいつに、言葉で)
(えっ!?い、いまは、ちょっと…! )
(ほらみろ、そういうもんだろ)
(はい……。って、晴矢さん…?)