「フウフになれば、家族になれる」


瑠流が呟いた。テーブルに広がる自由画帳には星二郎やヒロト、晴矢風介リュウジ治、瞳子、お日さま園の皆が描かれている。
隣に座るヒロトも自分のお絵描きにいつの間にか没頭してた時だ。少女の言葉に少年は目をぱちくりさせる。
フウフ。夫婦。…ケッコン?。絵本で読んだママとパパの存在に自身と瑠流を当てはめて考えようとした。上手くイメージ出来ず頭を捻る。


「えっと…。ケッコンしたら、フウフ、になって家族になる、だよね?」
「うん。そしたらずっと一緒にいられるんだって」
「ずっと、一緒に」


目の前にいる大好きな子とずっと。
ずっと、一緒。
ぼんやりと感じた幸せな気持ちに少年は期待で胸が膨らんだ。


「そしたら父さんや晴矢風介達は、どうなるのかな」


反面瑠流の表情は曇っていた。
本当の家族ではない事を園児達は何となく理解している。いつの日か離れ離れになることも。今話している瑠流の家族、というのはホンモノの家族を指しているのだろう。ヒロトの頭の中にはホンモノの言葉がぐるぐる回る。回りながら、口は動く。


「みっ、みんな家族だよ。父さんもぼくも晴矢も風介もみんな、瑠流の家族。誰といても、誰とケッコン、しても、家族…だか、ら」


口から出た言葉は本当に自分?。ただ大好きな君の悲しい顔を見たくなかったから咄嗟に出たものなのか。本心?…わからない。すらすらと出た言葉に、最後は自信を無くし声が消えかかる。
────でも。


「ぼく達の家族の形は、変わらないモノ、だと思うな」
「そっか…。…うん!そうだね!」


瑠流が教えてくれた事だ。
少年が少女から受け取った温もりは、一生心に残るものだと。自分がそう思い続ければきっと消えないものだと。
言葉ではないけれど、いつの日か抱きしめあった時、自分が感じた事だった。

いつもの元気な姿に戻った瑠流は、赤の色鉛筆を手に取り父さん達と手を繋いでる皆をハートで囲った。


「みーんなずっと一緒だね!」



幼い頃に交わした約束は希望であり呪いでもあった。


―――







「それでね、お兄ちゃんがまたシュートを決めたの。逆転したんだよ」
「夕香ちゃんのお兄さんはスーパースターね」
「うん。瑠流お姉ちゃんも、ファンだもんね?」
「ええ。憧れの選手よ」


豪炎寺修也の妹はきまって兄の話をする。
表向きはお見舞い、裏では監視として人質の妹の世話(エイリア学園とは別にある、監視下に置かれてる病院に入院している)をしている瑠流は、飽きずにその話に相槌をうつ。


「…で、まだ続きがあって、…」
「夕香ちゃん。眠いでしょ」
「うー」
「また明日、お話聞かせてね。今日はもう寝なさい」
「はーい。おやすみなさい、お姉ちゃん」


素直に従う、瞳を閉じた無垢な少女に瑠流は微笑み小さな頭を撫でた。


「(人質…。こんな事しなくても、豪炎寺修也を仲間にしなくても、ヒロト達は、強い)」


そしてこの子は、豪炎寺にとって大切な家族でもある。
解放してあげたい。その思いは夕香と過ごす度に日に日に強くなってく一方だった。
だがリスクが大きすぎる。裏切り行為だ。皆にも知られる訳にもいかない。


夕香が眠りについた事を確認し、毛布をかけ直し病室をあとにした。

さて…次はリュウジ達を探しに行こう。
先日、雷門イレブンに敗れ追放されてしまったジェミニストーム。瑠流は夜な夜な抜け出し彼らの居場所を探っていた。
時間がかかっても必ず見つけ出す。
大切な、家族なのだから。


「どこにいくの?」


今まさに転移しようと黒いサッカーボールを持ち上げところだ。
病院の屋上には瑠流以外誰1人居なかったはずだが、彼女の肩に手を置いたのはヒロトだ。いつも突然現れる彼には慣れていた瑠流だったが、こればかりは心臓に悪い。一旦呼吸を整え後ろを振り返る。


「リュウジを探しにいくのよ」
「だと思ったよ。でも今日は止めといた方がいい。研崎の部下達が徘徊している」
「!」
「最近やたらと数が多い。おそらく豪炎寺修也を探してるんだろうね」


だから、ね。
困った顔で笑うヒロトに瑠流は弱かった。彼にはいつも心配をかけて困らせている自覚はある。


「………」
「安全な時に、探しに行こう」
「………」
「瑠流」
「…。わかった」
「…。リュウジが心配なのは、皆もだよ」


ハッとして顔を上げる。ヒロトが1番チームを見ている。皆心の奥底に眠ってる気持ちがあると強く信じているのは彼も一緒だ。


「…。大丈夫、だよね」
「うん」
「…。うん、そうね。ありがとうヒロト」


先程まで不安がっていた面影は消え、力なく笑う瑠流。ヒロトは彼女の手を優しく引いて「帰ろう」と微笑んだ。


掌から伝わる彼女の温もりは、昔と変わらない。そうだ。何一つ君が変わる事は決してないんだ。
自身の居場所に疑問を持ち異端扱いされている女は、男にとってなくてはならい存在だった。
君を消させやしない。
最強の戦士となって、願いを叶える。