ため息を吐いた父の秘書を見上げ、抗議する。
「石を使えば関係ない。早く、」
「奏条さん」
瑠流の言葉を遮り、研崎は額に手を当てて再び小さくため息を吐く。人気のない廊下では少し声を張るだけで辺りに響き、瑠流の余裕のない様子に研崎は顔を顰めた。
「焦る気持ちも分かりますが、あなたらしくないですね」
「………」
瑠流にとって研崎はひとつの希望だ。
エイリア石と拒絶反応を起こした瑠流だからこそ、石の力を克服した先に絶大な力を秘めているであろう。研崎が立てた仮説に、一筋の光が見えたのだ。主君よりも正しい石の使い方を証明させる為にと、男は己の野望を垣間見せていたが、少女の頭はお日さま園の家族でいっぱいだ。
皆と、一緒に戦う。
被検体として自分の為にと研崎と手を組んだ。その石もあと少しで完成される。
先日の雷門イレブンとの試合で自身の肉体の限界を悟り、回復しない重い身体を引きずって研崎の前までやってきた。
補助輪としての使い道だったが今はどうだ。石自体を欲している自分と、ダメと葛藤している自分。
最強の戦士は、己の実力のみ。石など使わない。どちらが正しいか余裕がない焦る非力な少女の思考は後者に傾く。
改エイリア石の力があれば、私もーーー。
「あなたの目的を思い出してください」
冷静な研崎の言葉。焦燥に駆られる瑠流の言動にも至って無情な様であり、その表情からは感情が読み取れない。肩に置かれた研崎の手はとても冷たかった。言葉に詰まっていると、
「瑠流!」
後方から声が聞こえ瑠流は振り返る。駆け寄ってきたのはヒロトと晴矢と風介だ。ガンを飛ばし睨みをきかせる晴矢と風介に研崎は、一旦視線を投げるも、目の前の被検体にしか興味が無い様子で軽く無視。
瑠流はヒロトに手を引かれ、研崎と距離を置かれる。突然の事だったが彼らのおかげで落ち着きを取り戻した瑠流は、再度研崎を睨みしばらくの沈黙の後、口を開く。
「わかった」
「…では。ご自愛ください」
研崎は不敵に微笑み、その場から去っていった。
「瑠流、何かされた?」
「ううん。大丈夫よ、ありがとうヒロト、晴矢、風介」
「前から研崎と検診に行くことは知ってっけど…そんなんじゃなかったろ、今の」
拒絶反応後の身体の検診。毎月研崎と行ってる事は全員周知していた。
「ええ。昨日の雷門イレブンとの試合に、私も参加して。無茶しすぎですよ、って怒られたの」
「んな事だろうと思ったよ。試合のことグランに聞いたぜ?」
「…また寝たきりになったらどうするの」
「…。わかってる。今は、休むよ」
これ以上一緒にいたらボロが出そうだ。3人の視線を感じながらも、瑠流は彼らに背を向けて自室へと戻って行った。
残されたジェネシス計画のトップに立つ男3人は顔を見合わせて息を吐く。
◾︎◾︎◾︎
「……お姉ちゃん?」
「あっ、ああ、ごめんね。えっと、」
「元気、ないの?」
大きな瞳がはっとした瑠流の顔を覗き込む。
夕香は時々訪れる瑠流との会話を楽しみにしていた。表上では病院の関係で家族との面会は出来ずにいる。自身の兄と同年代でもある優しい瑠流の存在はとても大きかった。
そんな大好きなお姉ちゃんが、普段と変わった様子を見せ夕香は心配する。
「…そうね。ちょっと、元気、ないかな」
「じゃあ、おまじないかけてあげる!」
先日の雷門との試合。軽蔑されたであろう、サッカーを教えてくれた友達の視線。見つからないリュウジ。目の前にいる兄と離れ離れの夕香。改エイリア石と不気味に笑う研崎。これからの事。
重なる不安と己の無力さに瑠流は消沈していた。ワガママで突き通すと、理解した上で進んだ道だ。…弱音を吐いてはいけないのに。ましてや小さい子の前で。ヒロトたちの前では、大丈夫、だったのに思わず口から出てしまった。
対して夕香は笑って、お姉ちゃん頭さげて、とお願いをする。
? 少女に言われた通り瑠流はその場に座ったまま頭を下げる。
「だいじょーぶ!」
小さな手が瑠流の頭を撫でた。
「よくお兄ちゃんがやってたおまじないだよ!」
暖かい手から伝わる優しい温もり。頭を撫でられじんわりと胸が暖かくなるそれに既視感を覚える。『大丈夫だよ』幼いヒロトだ。よく泣いていた自分に彼は頭を撫でてくれたな。回りには晴矢風介も心配して身体をさすってくれてたな。その後は何でもなかったかのようにリュウジや治も入って、皆と楽しく遊んで。
「―――ありがとう、夕香ちゃん」
小さい身体を優しく抱きしめた。
豪炎寺修也がいなくとも、最強の戦士は出来上がる。
もし、彼が必要ならば、私が代わりになろう。
どんな手を使ってでも。
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円堂サイド
恵「───最近会ったの、瑠流と。でもあの時と今は…姿も違うし、まるで別人、で。瑠流じゃないって、思いたいんだけど」
鬼「…そうか。最悪の場合、攫われた、と見ていいかもな。操られてる可能性は十分高い」
恵「…(色々あったけど吹っ切れたって言ってた。悩んでのって、エイリア学園の事だったのかな…)」
鬼「…。実栢、あまり思い詰めるなよ」
恵「あ…、…。うん、ありがとう、鬼道くん」
奏条瑠流は元は人間であり無理やり強化されてる可能性がある。早く救出せねば。(だが本人の意思でエイリア学園にいるように見える。それはなぜだ?)
警察側が誘拐事件を視野に捜索を強める。
―――
俺は、家族がそこにいればいいと思っていた。
父さん
お日さま園の皆
瑠流
それなら何をしたって何を失ってもいいと。
俺にはそれしかないのだから。
◾︎◾︎◾︎
「豪炎寺修也の妹は△△病院にいるわ」
『なぜ、それを』
「信じても信じなくてもいいわ。…じゃあね、お姉ちゃん」
がちゃり。瞳子の静止の言葉が聞こえるも公衆電話の受話器を下ろし一方的に通話を切った。家族と離れ離れになっている、我々とは無関係な子をこれ以上巻き込むわけにはいかない。
意を決した彼女は今後の処置がどうなろうと構いわしなかった。自身が強くなれば良いだけの事なのだ。
…まぁ、直ぐにバレてしまうのは流石に避けたいけど。
「大丈夫。誰もいないよ」
そんな懸念点を取り除いた張本人の少年は瑠流の隣に自然に並び、微笑む。人目がつかない場所まで誘導してくれたのはヒロトだった。雷門との試合で無理をさせてしまったと責任を感じたヒロトは、普段以上に瑠流と一緒に行動を共にしていた。
「ありがと、付き合ってくれて」
「どういたしまして」
昨夜、1人で決行しようと考えていたけれど、思考する度に常にヒロトの顔が浮かんでは消え、また困った顔が想像出来てしまい。気づいたら彼に声を掛けていた。
根付いた心配の種は成長し今後も肥大化していくといい。蒔いた本人は、常に無理をする彼女の為に切に願った。その彼女からの相談は、大切な父と天秤にかけると思考するより前に2つ返事で引き受けていた。
「…ヒロト」
「ん?」
なに?と爽やかに笑った男は、立場や今後の処置等不安を微塵も感じられない様子だった。自分で選んだ選択に後悔が無いとは言えど、大切な人を巻き込んでしまった。それを本人はどう思っているのか、その場で足を止め瑠流は恐怖心から思わず謝罪の言葉を口走りそうになったが。
『荷物を半分持つよ』いつの日か、ヒロトが言ってくれた言葉がふわりと身体を包み込む。
人一倍優しい私の大好きな人。やっぱり私は、ワガママなぐらいがちょうどいいのかも。
「あのね、いろいろ片付いたら、またデートしない?」
「もちろんだよ。この前はお買い物したけど、次はどこ行く?」
「気になるパフェを食べに行きたいなー」
人一倍優しく愛情深い人。父の為にも悪にもなれる狂人。だが本心から狂いきれず苦しい思いをしてる。
私と一緒にワガママになるぐらいが丁度いい。
だから自分勝手に生きてヒロトについてきてもらおう。心配だからと一緒にいてくれるはずだ。
瑠流は差し伸べられた手を取り、再び歩き始めた。2人は自然と手を繋ぎ街中に溶け込んでいく。
「あ、この前言ってたやつ?」
「ええ。ソルジャー計画後だと行けなさそうだから、今のうち行っておきたくて」
「ウチで雇うのも有りなんじゃないかな?」
「あ、いいわねそれ。ふふ、毎日食べられるなんて最高」
ヒロトは自身の良心が疎ましいと思った事は1度もない。隣で笑顔を見せる最愛の人と同じ時を過ごせるのだから。これ以上望むものがあるとするならば、ずっと、瑠流…父さん…家族といたい。ずっと、ずっと永遠に。
その為ならば、よろこんで殺戮兵器になろう。
***
「ルイル。なぜ、呼ばれたかは分かっていますよね?」
「はい」
「…。あなただけ、宇宙人コードがない理由は、」
「初めから必要がない、ってことですよね」
「…。ええその通りです。ヒロトの頼みでマネージャーをお願いしていましたが…最強の戦士には、そもそも必要ありません」
ひとつため息を吐いた後、星二郎は表情を変えず笑みを浮かべたまま言葉を続ける。
「そんな立場で人質の情報を流すとは。何か勘違いしているのではと」
…。バレるのも時間の問題と思っていたが、こうもすぐとは。瑠流は一瞬視線を下に落とした。
「追放、と言いたいところですが。あなたには最後のチャンスをあたえましょう」
後ろから剣崎が現れる。ハッとして顔を上げるとその手にはよく見たエイリア石が。
「研崎から聞きました。石のチカラを克服し常人を遥かに凌ぐ身体を手に入れたと。…その後、身体がどうなろうと構いません。壊れるまで戦いなさい」
研崎が意図して研究成果を伝えたのか発覚されたのか、顔を伏せており意図が分からない。
彼女にとっては願ってもない好機だった。瑠流は膨らむ期待を抑え父に深く頭を下げた。
***
ルイルの姿が見えなくなり数日。カオスが雷門と試合をする頃には、エイリア学園のマネージャーの姿は消えていた。