最終決戦。星二郎から告げられた言葉にジェネシス全員が驚愕した。


「今まで必死に、グラン達に追いつこうとしていたのでしょう?最後のチャンスとしてチームに入れてあげましょう」


モニターに映る父の表情は変わらず穏やかで。慈悲な計らい。本人もそれを強く望んでいたが、戦士となった彼女と対面したグランは複雑な面持ちでいた。


「ルイル…」
「隠しててごめんね。でも私、本当に強くなったのよ」


手を繋ぎ、他愛ない会話をしていたあの日以降から、瑠流がマネージャーとしてグラウンドに来ることは無かった。毎日顔は合わせるがそれこそ挨拶のみ。何かあったに違いないと捜索するも避けられてしまい何も手掛かりが掴めないまま、今日を迎えてしまった。


「この前は出来なかったけど、2人の協力シュート、見せつけましょ」


いろいろと聞きたいことは山ほどある。

「…。本気だから、ここにいる。グランと皆といる為には、最強の戦士じゃなきゃいけないって」


彼女は必死で自分の居場所を作ろうとしていたのだ。
瑠流のこれまでの努力を踏みにじる様な真似だけは絶対にしない。かといって傷つく君は見たくない。
グランは瑠流を真っ直ぐに見つめた。


「一緒に、戦おう」


何度も悩んだ末の結果。彼女も同じ。ヒロトも覚悟を決めた。





―――
雷門サイド・試合前

恵「瑠流…」
綱「アイツが恵那の友達か」
恵「はい。…1度、陽花戸中で試合をしたことがあるんです。その時は何も出来なくて…。自分が情けなく、て…」
でも、今なら…!
恵「もう、後悔したくないです。今度こそ…止めてみせます…!」
綱「おう!ダチなら正しい道に戻してやろうぜ!」

―――





瑠流にボールが回る。身体が軽い、これならいくらでも駆け回れる。

あの日、父から下された監禁命令により一切の外出が禁止された。他者との接触も禁止。与えられたのは1人で使うには広すぎるグラウンドのみ。それだけ。指示も何もなかった。これまでのマネージャーで獲てきた知識を使い、毎日倒れるまで強化訓練を行った。
石ありきだが、ジェネシスに引けを取らない身体になった。相手がどんなに強くたっても負ける気がしない。


「瑠流…」


相手が、友だちだったとしても。


「恵那、出来ることならあなたと戦いたくなかった」
「っならどうして…!」
「私は…家族とずっと一緒に、いたいから…!」


恵那を強引に突破。瑠流は空高く飛んだ。


「月の涙!」


空に浮かび上がった月から強烈なシュート技が放たれた。DF総出で点を阻止するも弾かれる。既の所で綱海が身体を貼ってゴールを阻止。


「っ綱海さん!!大丈夫ですか?!」
「ってぇ〜〜!おう、心配すんな!ただ…恵那のダチにしちゃあ、ちと暴力的だな〜」
「…すみません、止められなくて…」
「気にすんなよ。諦めないで何回もぶつかりゃぜッてぇ分かってくれる」
「…はいっ(瑠流…)」


綱海の介抱をする恵那を見て、何か言いたげな瑠流。恵那はそんな瑠流をじっと見つめた。







「ちがう、ちがうちがう!アイツらは弱くない!俺が証明してやる…!」


ジェネシスの相手に相応しいキャプテンが、怒りに身を任せた強引なプレーをしている。グランと激しくぶつかり合う様子にルイルは、何を思うでもなくチームの勝利の為だけに走っていた。「円堂くん…」恵那は今まで見た事が無い円堂のプレーを見て、自身も拳を握りしめる。
グランからルイルにボールが渡り、ゴール前へと上がってくる。目の前にはかつての友人。またしても相手にしたくない壁が立ち塞がり、ルイルは顔を歪ませ声を荒らげる。


「どいて!」


怖い。恵那の恐怖心はまだ消えない。
けど、
『ダチなら全力で止めねぇとな!』
綱海の言葉が蘇る。


「友だち、だから!もうこんな、悲しいサッカーはしてほしくない…!」


恵那がボールを奪取しようとしたその時、白く柔らかい何かに包み込まれるような感覚がした。瑠流は一瞬戸惑うも、それは直ぐに解けた。強引に突破され恵那は反動でバランスを崩し跪く。


「ブライトクレスト!!」


その間にグランとルイルのシュート技が決まり、得点差がさらに開いてしまった。
恵那は自分の掌を見つめる。…まだ、希望はある。新たな可能性を信じて、駆け寄って背中を叩いてくれた綱海に鼓舞され恵那は再び地面を蹴った。






星二郎の命令によりグランからウルビダの指揮に変わり、リミッター解除が発動された。
ウルビダはルイルの状態を伺う。視線に気づきルイルは、へっちゃらよと声を掛け片手をひらりと上げ走り出した。
…今更か。息をついた。
自分が心配した所で現状は何も変わらない。そういうのはグランがする事だとウルビダは試合だけに集中しルイルと駆け出した。




最終奥義スペースペンギン。グラン、ウルビダ、ルイルのシュート技により雷門のゴールを破り1点追加される。シュート後、全身がピキリと嫌な音がし瑠流は膝から崩れ落ちた。
まだ、動けるはず。お願い。
胸元のエイリア石に強く願う。石は瑠流の願いに反応し一瞬淡く光る。直後身体が軽くなったような気がし瑠流は体を起こし、息を整えた。
その様子を歯を食いしばる思いで見ていた恵那。満身創痍な友達の様子。身体の痛みに耐え、父の為にと身を捨てるジェネシスのチーム。
恵那は苦痛な表情を浮かべる。


「だめ、こんなのダメだよ…。…瑠流…」


拳を握りしめる恵那に、近くにいた綱海は「恵那…」集中するチームメイトを静かに見守った。





先程と同じ局面。ボールを持ったルイルは再び恵那と対峙する。


「どいて恵那!」


これ以上あなたを傷つけたくない。何もせず私たちに勝たせてほしい。
ルイルの願いは届かず、それに反するように恵那は静かに闘志を燃やしていた。


「瑠流。今度は…止めてみせる!!」


幼い頃、チームに所属していた時に行われた体験会。1人の女の子と出会った。長い髪を揺らしてシュートを決め満面の笑顔で恵那に振り返り抱きしめる。2人はすぐに仲良くなった。
そんな昔の友達、瑠流と最近再開した。大人びた彼女はまた、サッカーを教えてほしいと頼む。恵那は二つ返事で返し再び2人でボールを蹴った。短い間だったが、とても、楽しかった。
わたしはまた、あなたと一緒にサッカーがしたい。
こんな悲しいサッカーは、してほしくない!


柔らかい何かが瑠流の頬に触れる。…?掠った感触はほぼない。疑問を感じた瞬間だった。身体がふわりと宙に浮かび、柔らかい風に包まれた。辺りは白いヴェールに包まれて視覚が奪われる。一瞬、強い一陣の風が吹くとともに辺りのヴェールが空へと舞った。視界がクリアになり足が地に着く。


「…!いつの間に、」


ボールが無いことに気づいた時には、既に当の本人は背を向け駆け出していた。ルイルのボール奪取に成功した恵那はさらに加速していく。


「ナイス恵那!見せつけてやろうぜ!仲間のキズナってやつを!」
「綱海さん…!…はい!!」


並行して走る綱海と共に、必殺技の構えをとる。


「「スカイオーシャン!!」」


グラウンドに虹がかかった。
ルイルは、自ゴールにボールが吸い込まれて行く様、恵那が綱海と嬉しそうにハイタッチをする姿や仲間から祝福される様子をぼんやりと、眺めていた。
恵那に久しぶりに会いに行った時、決心したのに。思い出してしまった。
お日さま園で、みんなで、あんなふうに、サッカーしてたな。再開した貴女にサッカーを教えて貰えて、嬉しかったな。

記憶の奥底に閉まっていた大切な思い出が蘇る。









試合終了のホイッスルが鳴った。5対4。ジェネシスの敗戦。雷門イレブンから歓喜の声が上がる。
おわった。
瑠流は自軍が泣き伏せる中、その場で仰向けに倒れ空を見上げていた。不思議と涙は出なかった。負けたのに。なぜだかとても心が穏やかだった。
倒れたルイルに駆けつけ介抱するヒロト。衰退してるが雷門チームを見て微笑む瑠流を見てヒロトも目を細める。


「これが、サッカーなのね」
「…うん」


瑠流が倒れ心配して駆け寄ってきた恵那と円堂。恵那達が心配で1歩引いたところで見守る綱海。「大丈夫か?」キャプテンが瑠流とヒロトに声を掛けた。心配ないわと瑠流が、隣で泣きそうになっている恵那に微笑む。
雷門イレブン。ヒロトの気になる友達、キャプテンの円堂。
ひとつ、聞きたい事がある。…だが、人見知りの瑠流にとって初対面との会話は些か厳しい。膝の上で縮こまる彼女を察し、ヒロトは円堂を見上げ口を開いた。


「円堂くん」
「?」
「家族でも…絆って作れると思う…?」


2人の不安から出た疑問だったのだ。


「何言ってんだ」


芯の通った声が耳に響く。


「陽花戸中で試合した時、感じたんだよ。ルイルの為に動いてたんじゃないかって。おかしいとおもったんだ。宇宙人なのに、そんな優しさがあるなんてな、って。その時は気にしないようにしてたけど…」


二カッと笑い、雷門イレブンのキャプテンは胸を張った。


「今確信した。ヒロトたちのチームって、いいチームだ!それは、家族の絆があるからこそだろ?」

またいつか試合、しようぜ!









「瑠流…」


大好きな父さんの声だ。
麓で待機している救急車へ歩けない瑠流をヒロトが背負い向かっていたその途中だった。警察員により簡易的に拘束されている星二郎が瑠流に声を掛ける。


「父さん…。もう、大丈夫よ。ヒロトも、瞳子姉さんもいるから」


父の方こそ、気力を失い衰えた表情をしている。言葉を失い何を言うでもなく父は悲しそうに目を伏せるだけ。それに瑠流は何度も大丈夫、と呼びかけた。
試合終了後のこと。星二郎から何度も謝罪の言葉があった。怒りはない。むしろ晴れやかな気分で。優しい父に戻ってくれたのだから。
父からの愛情がなければ、私たちは家族の絆を結ぶ事もなかったから。


「父さん。…また、会おうね」


涙ぐみ微笑んだ少女に星二郎の動きが止まる。


「心配しないで父さん。瑠流は任せて」


会いに行くからね。ヒロトが目尻に涙をため優しく笑う。その隣で並ぶ瞳子も頷き、星二郎は眉尻を下げ力なく微笑んだ。








救急車両に乗る既のところ。瑠流が気になる恵那。その様子を見ていた綱海が背中を押し、彼女は駆け出した。
瑠流の近くにいたヒロトが恵那に気づき、一声掛けその場から一旦離れる。


「瑠流…」
「…。恵那、今まで隠しててごめんね」
「ううん…」
「自分勝手で、わがままで(自嘲して)。こんな私を止めてくれてありがとう」
「…だって、友だち、だもんね」
「! まだ、友だちだって言ってくれるの?」
「もちろん」
「…。ありがとう、恵那。私、恵那と出会えて、本当によかった」


恵那の手が瑠流の冷たい手に触れる。先程のヒロトの手とは違う、包み込むような細く柔らかい手。こうして女の子の友だちと会話をするのも久しぶりだ。…元気になったら会いに行こう。瑠流は、友だちだと言ってくれた彼女の為に強く心に決めた。
またね。
恵那は溢れそうになる涙を零さまいと必死に堪え微笑みながら、同じ言葉を返した。






ジェネシス計画もおわり。追放されていた全チームの皆も保護されたと言っていた。これで元通り。全てが終わったのだ。
もう何も心配する事はないと、瑠流の手を握りしめながらヒロトは微笑んだ。
でも「…私一人で大丈夫よ」そろそろ病院へ向かう為救急車が動き出す。頃なのだがヒロトは一向に降りようとしない。いつも通りの瑠流にヒロトは苦笑しながら答えた。


「俺が付き添うよ」
「えっ。ジェネシスの皆や瞳子姉さんは…?」
「姉さんがまとめてくれる」
「で、でも」
「瑠流」


ジェネシスが気になっているのは違いない。姉さんの傍にもいたいのではないか。瑠流が言葉を続ける前にヒロトは名前を呼び瑠流の片手に触れた。
両手で優しく包みこみ、祈るように額に当てる。


「もう…1人で無理しないで…」


消えてしまいそうな声。屈んで丸くなった背中は、小さく、幼い少年の様だった。

そんな少年こそ、私のせいで、どこか遠くへ、手の届かない存在になってしまいそうで。
瑠流は咄嗟に、痛む身体を無理やり動かした。


「ごめん…ごめんね、ヒロト」


手を解きヒロトの頭に手を回し抱きしめる。上半身は辛うじて動くも長くはもたず、そのままヒロトの頭を胸に押し付けた状態で後ろに倒れる。


「ありがとうヒロト。もう、こんな無茶しない」
「………」
「…ホントよ」


ヒロトにこれほどまでに心配をかけてしまったこと。彼に甘えていた事。まだ少し震えているヒロトの様子。自分の不甲斐なさ。
様々な感情が溢れかえり、収まらない気持ちが涙となってとめどなくこぼれた。


「ヒロト…、っ、ずっと、隣に、いてくれて、ありがとう…」
「…。これからもずっと一緒だよ。もう、離さないから」


声をころして泣く瑠流にいてもいられず、ヒロトは弱まった優しい拘束から離れ再度瑠流を強く抱きしめた。少し痛い。瑠流は感じた痛みと同時にさらに胸の奥底が痛くなった。受け止めるように縋る思いで抱き返した。



自身もいつの間にか流していた涙。最悪の結末だったら、瑠流が命を落としていた可能性だってあったと、想像しては震えが止まらない。
離さない。言葉となって出た決意はどんな形だろうと一生君にまとわりつくだろう。嫌だと言われても拒絶されても解けない。無限に大きくなる君への想いと誓おう。