幼少期エナたんとヒロト

13歳ぐらい?
姫様がいなくなった。と治が頭を抱えながらため息をついてボヤいた。その言葉だけを捉えると大事なのだが、続けて言った言葉に、なるほどとヒロトも苦笑した。

「(ルイルもいない、となればきっとあそこに違いない)」

城のとある場所。足早にヒロトは目的の場所へと向かう。
たどり着いた場所には、芝生の上で座っている姫の姿が。後ろ姿しか見えないが、そこには1人の少女として木陰の下で気持よさそうに寛いでいる様子がみてとれた。

「エナちゃん」

場内では立場上名前では呼ばないが、今は周囲も気にならないしエナの雰囲気から察してヒロトは砕けて話しかけた。

「しーっ…」

ヒロトが来ていた事を気配で感じ取っており驚きはしなかったものの、後ろを振り向き、口もとに人差し指をたてニコリと笑う。

近づいていくと、ああなるほど、と本日2度目の苦笑と納得をした。エナの膝の上ですやすやとあどけない顔で眠っている少女を見て、ヒロトは優しく微笑む。

「ごめんね、皆バタバタしてるのは分かってるんだけど」
「ルイルがエナちゃんのこと連れてったんでしょ?」

もうそういう我儘は通用しないことをわかってほしいけどね、と膝枕をしてもらい気持ちよさそうにしているルイルの、少し乱れた髪を梳かし苦笑しながら見つめる。

「!さすがヒロトくん…なんでも分かっちゃうのね。…でも、ルイルのせいにはしないでね」
「?」
「ここ最近、忙しくて。世界が分かって、見えて、感じた分背負うものがたくさんあるんだなって感じて…ちょっと疲れてたの。そんな時にルイルが来てくれてね」

ーーー今日はお偉いさんの会議も何もないでしょ!遊びいくわよ!

手をとって引っ張ってくれた親友の頬を撫でながら見つめる姫の顔はとても優しい。

「今日は姫じゃなくてただのエナ。ルイルにそう言われちゃったの」
「……にしても突然すぎるけどね」
「いつもの事でしょ?」

それはそうかと2人で笑った。
笑い声に反応したのかルイルが小さく唸り声をあげる。それからボソリと「ヒロト…」と。

「あら、私と遊んでるのに他の男の名前を呼ぶなんてね」

冗談っぽくヒロトの様子を伺いながら笑う。ルイルに少し驚いていたヒロトはすぐに表情を戻すも目を細め頬を緩ませていた。ルイルの髪の先をすくい上げ指先でくるくると巻いては解いて。愛おしい彼女の口から自身の名前を呼ばれれば自然と身体が口が、動いてしまう。

「ルイルはモテモテだからね。エナちゃんに1本とられる前に、俺がさらって行きたいぐらいだよ」

ーーーあれ?とエナがその言葉に既視感を抱く前に、ヒロトは立ち上がり「ゆっくりしてね」と去っていった。ヒロトの背を見つめてだんだんとあの人と重なっていく影に、エナの瞳は一瞬揺らいだ。

「…おにぃ、ちゃ…」

ルイルの呟いた声が耳に入る。その言葉にハッとしてルイルに振り返ると、幸せそうに笑っていた。双方のひっかかりに内心はモヤモヤとしていたが、そんなだらしない顔を見てしまっては、不安な気持ちは和らいでいく。

「……あなが私を守ってくれるように、私もあなを守るから」

胸に残る不安の種は消えない。けども、ルイルとなら。
一緒ならば、ぜったい、大丈夫。


memo:昔書いてた恵那たんとヒロトの話を元に書きました!場内だと「姫様」呼びで敬語だと思う!