「ケーキって2段じゃねぇのか?」

轟焦凍が時々世間離れした物言いをすることはある。クラスメイトも分かってはいるが意外な発言に思わず轟末っ子坊ちゃんを振り返る者が多かった。
テーブルに出されたのは大人数用のクリスマスホールケーキ。ある事件からアカデミアで保護されてる笑原十希(えみはらとき)と、そんな彼女と最近菓子作り仲間となった佐藤が作った力作だ。
美味しそう…だが、上の段がない。

「轟くんのお家は二段ケーキが定番だったの?」
「? いや、ケーキもそんなに食うときはなかったし、豪勢に祝うことも…。」

出久の質問に、焦凍は逆に自分が疑問を抱いてしまった。
ああまただ。俺の中にある夢の記憶だ。記憶に触れようとすると泡沫のように消えてしまう。大切なのに、思い出さないといけないのに、忘れてしまう。
掌を見つめ、混濁する記憶に集中し始めてしまった焦凍に気を悪くするでもなく出久は隣で見守る。すると後ろから黄色い声が聞こえてきた。

「えーっ!!すご!二段ケーキ?!笑原さん何者?!」

女子の歓声で一層パーティーらしさが増した。聞こえてきたワードに焦凍が反応する。

「スポンジケーキを上に乗せるだけだから、案外簡単だよ!パーティーと言えばコレでしょー」

十希と女子達の会話をぼんやりと聞いていたら、目の前に高さのある豪華なケーキが置かれていた。上を見上げるとニコニコ嬉しそうに笑う彼女と目が合う。

「轟くんも、たくさん食べてね!」







遡ること数十年前。

「メリークリスマスー!!」
「メリクリ…」
「はいこれ!焦凍くんにプレゼント」
「…あ、ありがとう十希」
「そして2段クリスマスケーキだよ!!」

夢の中で出会った彼らは今回で二度目のクリスマスだった。十希は二十歳。焦凍は四歳。
少年との夢での邂逅は何度か繰り返すうちにルールが見えてきた。夢の中では好きなものを自由に創りだせること。建物ぐらいの大きさは作れないが、テーブル、テレビ、食べ物、欲しいと思ったものはポンポン出せる。焦凍にはそれらが出来ないこと。そして夢から覚めるとこの空間での出来事を全て忘れるということ。また夢の中に潜ると、ここでの出来事は思い出せる。現実世界には持ち出せない。
それなら思う存分美少年との時間を楽しもうじゃないか。彼女は、複雑な家庭環境で疲弊している轟焦凍に何か出来ないことはないかと夢に潜る度、楽しく遊べる環境を創りだしていた。
「じゃーん!新作絵本!」
「今日はボードゲームもってきたよ!」
「難解パズルに挑戦する?」
「アニメは見てる?一緒におすすめを見ようよ」
「テレビゲームね!負けないよ〜」
その時間は、目が覚めてしまえば記憶から綺麗になくなってしまう。
少年は幼いながらもあの空間になんとなく見当はついていた。おそらく、お姉さんの個性。
ヒーローの話をすると彼女は真剣に聞いてはくれるけどいまいち飲み込みが悪かった。十希の世界にはヒーローはいないらしい。それなら個性そのものがないのか、あの空間も個性ではないのか。齢4つの幼児には答えが出せなかったが、遊べるから何でもいいかと彼女との邂逅を心から喜び楽しんでいた。

「へくし!」
「十希、寒いの?」
「うーん。ちょっと冷えたかな。焦凍くんは大丈夫?」

十人前はあるであろうケーキを二人で半分ほど食べた所で彼女が立ち上がる。胸焼けは全く感じないが気温の変化は感じるらしく鼻をすする彼女に、自分も何かしてあげられる事はないだろうかと少年は辺りを見回す。ここは十希が作り出した夢空間。自身で寒さ対策の為に暖房器具を作るだろうし、その方が早いはずなのに。
けど、自分も、何かしてあげたい。焦凍の左手が熱くなる。

「………。十希、手を出して」

自分の力で暖めたい。
可愛い少年のお願いに十希は体を屈ませ両手を出す。思いに応えるように左手は暖かく彼女の両手を包み込み、困っていた顔が明るくなった。

「あったか!焦凍くんのお手手ってこんなに暖かかったんだね!」

なんて素敵な心を持ってるんだ。こんな小さな手で大人の手を温めてくれる小さな男の子に酷く感動し気づいたら片方の手を握ったまま抱きしめていた。体の芯から温まったこの気持ちを忘れたくない。

「ありがとう焦凍くん!」








「…くん」
「轟くん!!」

十希と出久の声に我に返った焦凍がまず目に入ったのは眉を下げた十希の顔だった。違う、そんな顔をさせたくて手を暖めたんじゃない、俺は…。

「…………笑原さん?」
「うん、大丈夫?突然私の手を掴んで上の空だったよ。調子悪い?どこか痛いの?」

心配そうに焦凍を見つめる彼女の瞳の奥に、何か大事なものを置いてきたような。繋がれている手はそのままに「大丈夫 」とだけ応え、解を探るべく再び桃色の瞳を見つめた。
「えーーっと…。あのーー…」「デクくん、こっち避難して!」「クリスマスだからってイケメンは何やっても許されると思ってんじゃねぇよ」
焦凍の体調が何事もないと分かるとすぐに隣に座っていた出久やクラスメイトが何かを察し2人から一定の距離をとる。沸き立つ皆に十希は苦笑しつつ、こちらをじと見つめて離れない普段とは違った様子を見せる高一男子を心配していた。
やはり調子が悪いんじゃ…。顔色は至って普通、身体も大丈夫そうだけど。改めて焦凍の瞳を見つめる。
…?あれ、焦凍くんのおててってこんなに大きかったっけ?






ドリームカムトゥルー1
(つづく?)