くちべた

COCO MEMO TEXT

追い回す純情から



朝、ざわつく教室でこっそりとため息を吐く。名前はここのところ学校で感じる強い視線と悪寒に悩まされていた。一週間ほど前から始まったそれは、学校についたとたん放課後校内を出るまで名前を追い回し、下駄箱や廊下、食堂や購買、校庭、体育館にいたるまで常に気味の悪い感覚としてつきまとった。最近では学校に向かうことをこわいと感じはじめてしまっていたし、なにより恐ろしいのは名前自身それが同じ学校の生徒…というよりも人間がしていることではないのではと察してしまっていることだった。はじめストーカーのようなものだと認識していたそれは学校を出ると感じられなくなることや、いくら周囲を探ってみても犯人の姿を見つけられないこと、いつも一緒に入る友人たちはなんともないことなどから、だんだん生きている人ができることではないと泣きそうになりながら思い至ってしまっていた。
ストーカー、それが人間の行いであれば家族や友人に相談することができたかもしれない。しかし幽霊となってしまえば話は別だ。名前の内側をじりじりと侵食していた不安や恐怖は、逃げ道を失ったことでストレスとなり少しづつ彼女の心を蝕ばんでいった。しかしどちらかといえば内気で穏やかな性格であった名前は、もとよりストレスの発散が得意ではなかったせいでこのことに気づいていない。

また一日が始まる。机の上の鞄をみつめながら重くなる気持ちをゆっくりと消化した。友人達と話すことも今では沈んでいく気持ちに嘘をつかなくてはいけなくて、名前はわざと登校の時間を朝礼ぎりぎりに変更していた。最近寝坊が多くて困っちゃうよね、と笑いながら眉を下げる名前に彼女の友人達は不思議そうにしながらも気をつけなよと笑い返してくれる。心配をかければ原因を話さなくてはならなくなるし、話せば信じてもらえる保証はなく、いたずらに彼女達を不安にさせ困らせてしまうと思ったからだった。

きっと、耐えればいいだけだ。根拠もなくそう思った。辛抱と我慢は昔からとくいだった。時が経てばいつかよくなる。そんな次の日の天気を放り投げた靴の状態から推測するような確証にすがらなければ、名前はもう友人達に笑って話をする自信がなかった。





しばらくそんな生活を続けているうちに、いつも感じていたはずの視線や悪寒が完全に消える瞬間があることに気がついた。偶然と思っていたその感覚が何度も繰り返され確信へと変わっていく。はじめは教室にいる間、次に保健室、そして放課後の校内のある一室。必死になっていままで日常だったはずのその違和感を探し回ると、驚いたことに行き着いた先は同じクラスの周囲からモブと呼ばれている影山茂夫くんだった。驚きが度を超えて抱いたはずの確信を疑ってしまう。思えばこの気味の悪い感覚が日常と化してしまってからずっと、教室で授業を受けている間は全くその感覚を受けることはなくて無意識に安心しきっていた気がする。不安と恐怖に晒され続けていたせいなのか、普通ならすぐにでも気づけそうなはずだけれど、そんなことにすら気が回らないほど追い詰められていた自身にいまになって気づかされた。
これは名前にとって希望と言えた。少なくとも彼の近くにいれば、この恐怖から逃げられるのかもしれない。ふだん視界に入る影山くんはとても頼りなさ気に感じていたはずなのに、突然現実味を帯びた安心できるという事実に視界がぼやけてしまうほど、とても頼もしい存在に思えてしかたがなかった。

もしかしたら彼には強い守護霊のようなものがいるのかもしれない。テレビや小説でみたフィクションの世界の存在を当たり前のように受け入れそうになっている名前に、つっこむ者はいなかった。実は最近ストーカー被害(幽霊)にあっていて、困っているのでしばらく近くにいてもいいですか?なんていうことを普段あまり会話をしないクラスメイトに相談する勇気など名前にはなく、話したわけではないけれど自分の友達と一緒で気味悪がられてしまうだけだと肩を下げる。

それでも永遠に続くかと思われていた恐怖に唯一安心できる拠り所を見つけて、名前はちいさく息をついた。放課後になったばかりの教室にはまだ部活動に行く生徒もまばらに残っている。影山くんのいるこの教室からでてしまえばきっとまた幽霊と思われる感覚に襲われる。できれば彼と一緒に教室を出たいと思った。たしか彼は肉体改造部という運動部に所属していたはずだ。幸い自分は帰宅部だから、下駄箱まで一緒にできればあとは外に出るだけだ。そう思って影山くんの席を見るとちょうど鞄を持って立ち上げるところで、あわてて自分も立ち上がろうと鞄に手をかけた、そのとき。バッと勢い良く振り返った影山くんと目があって、もしかしたら自分の考えたことが伝わってしまったんじゃないかというありえない想像に思わず身体が固まった。しかしそれを自身で否定するよりも早く、なにかが身体を駆け上がる。何かなんて、もうそんな曖昧な感覚じゃない。これは確実にあの幽霊だ。けれど今までこんな直接的に接触されたことなんてない。混乱する頭よりも先に何か違和感を覚えた名前は身体を動かそうとし、しかし何故か微動だにしない自身の身体に顔がこわばった。

こちらに向き直った影山くんが肩に掛けるはずだった鞄を机に置いて、まっすぐ名前に向かってくるのが視界の端に見えた。どうして彼がこちらに向かってきているのか分からず、声に出せないまま何故か急激に冷えていく身体に冷や汗が浮き出るや否や、ぐんと引っ張られる感覚がして自分の身体が教室の外へ飛び出す。驚いた表情で教室の後ろ扉から飛び出した影山くんが一瞬みえたけれど、固まった身体は鞄を持ったまま、名前の意思を無視してかなりの勢いで廊下を進んでいく。いつのまにか人気が少なくなった放課後の校内を暗い影と夕日の赤が不気味に思わせ、止まらない自身の歩みと、先ほどから聞こえるボソボソと、しかし薄暗くぞっとする声が鼓膜を揺する。その声をききたくないのに、塞ぎたくても塞げない身体の支配に涙がぐっとこみ上げてくる感覚がして、なのに身体は言うことを聞かないから、がむしゃらに走ることであがる息が震えただけだった。先ほどから身体が冷たくて仕方がない。呼吸が乱れてすごく苦しい。どうしてこんなことになってしまったんだろう。ずっと耐えていればいつかきっと、と楽観的になっていた自分にいまさら後悔をした。目元の熱さにどうしようもなく恐怖を煽られる。そして慌ただしく駆けていた名前の身体は突然その勢いをなくした。ハッとして辺りを見回すとどうやら体育館倉庫の裏側まできていたことがわかる。酸素をめいいっぱい肺にとりこんで肩を上下させたことで、霊の拘束が弱くなったことに気がついた。

はやく、今のうちに学校からでないと…!危機感に突き動かされるように身体を動かそうとすると、突然お腹が浮く感覚がして目を見張る。そのまま壁に押し付けられて、その勢いで後頭部をぶつけて視界が白黒した。一体何が起きたのかと揺れる頭でまぶたを開いて、思わず息を飲んだ。目前に形容しがたい濁った薄黒いモヤと、その中心から覗く歪な目がこちらを覗いていて、名前は顔の色が失われていくのをまるで他人事のように感じとった。


「ア、あ、きみ、ずっとみてたんだ、あ、やっと」


ふたりきりに、なれたね。モヤの奥にみえる細く真っ黒な隙間が、その声と同時に動いて最後はにっこりと歪んだ。人間、本当の恐怖を目の前にすると声が出せないというのは本当らしい。名前は壁に押し付けられたまま近づいてくる大きな悪意の塊に何も考えられなくて、ぎゅっと瞼をとじた。これ以上みていたくない。動かない身体が恐怖で震える錯覚を覚えて、あふれて堪えきれなかった涙が目尻からこぼれた。霊のモヤが肥大化して、その全体が彼女を丸々覆いそうになった瞬間、その光を捉えたのは霊自身だった。


「やめなよ。その子を離して」


あれ、と思った。授業中先生に質問された時や教科書を読み上げるとき、注意深く聞こうとしてやっと聞こえるような彼の声が、今ははっきり聞こえる。凛とした言葉の中に芯を感じられる確かさがあって、ぼやけていた意識が一瞬で払われた気がした。覆われていた恐怖や不安が、文字通り目の前の黒いモヤとともに吹き飛ばされる。ひどい圧迫感から一気に解放されてそのまま地面に打ち付けられると思ったけれど、接触ぎりぎりでなぜかふわりと落ち着いた。未だに混乱から抜け出せないまま声の方向を見ると、こちらに手を伸ばしたまま安心したように息を吐く影山くんがいる。彼が、何かしたのだろうか。立ち上がろうとして動いたわたしをみて影山くんが急いだように腕を引く動作をした。とたんに引っ張られるように身体が中に浮かんで、教室でのデジャブを感じたそのまま風を切る。かるく目が回ったけれどそれ以上に目の前に影山くんの背中があるのをみてぎょっとした。いつの間にわたしは彼の後ろにきたのだろう。ドゴン!という音と共に先ほどまで自分がいた地面が土埃を上げているのを見て顔が青くなる。影山くんがちらりとこちらを伺うようにみて、すっと前を見据えた。何も言えずぽかんとするわたしに影山くんが落ち着いた様子で口をひらく。


「えっと…名字さん。できるだけ僕から離れないで」


全く状況についていけてないけれど、彼の言葉に素直に従わなくてはいけないと、なんとなく思った。震えながら頷いて少しだけ影山くんの背中に近寄ると、彼の重たそうな髪の毛がふわりと浮かび上がる。なぜだか、その光景がとても神秘的なもののような気がして目に焼き付けようと必死になった。一瞬キラキラしたものが横切った気がして、その感覚に意識をよせていると影山くんの手が形を変えて何かを振り払う動作をする。直後耳を劈くような激しい声が聞こえて、わたしは思わず身を縮めてしまった。恐る恐る目を開くと、黒いモヤだと思っていた霊が苦しそうに、悔しそうに学生服を着た男の子となって現れていて仰天する。影山くんはここに来た時となんらかわらず淡々とその場に佇んでいて、まるで彼の周りだけいつも通りの日常があるような、そんな雰囲気に妙な安心感を覚えた。影山くんは黒いモヤだった学生服の男の子に目線を向けたまま、わたしに「あの人、名字さんと話がしたいみたい」と教室に教科書を借りに来た友人から伝達を頼まれたかのようなのりで教えてくれた。


「えっは、話って、なんの…」
「それは…聞いてみないとわからないけど」


そもそも幽霊と会話をしたことなんて一度もない。壁に押し付けられていたときは朦朧とした意識のなかで声を聞いた気がするけど、彼は…その幽霊は会話をしてくれるのだろうか。話と聞いて直に触れてしまった霊の悪意を思い出す。不安ですこし泣きそうになっているわたしに、影山くんがぎょっとして汗をかき始める。ちょっと、とかエクボ、とか、滲む視界の向こうで影山くんが何かを言うけれどあまり耳に届かなかった。涙をこぼさないように溜めながら不思議そうにしていると、影山くんはゆっくりと落ち着かせるように声をかける。


「悪霊は僕が…ええと、その…捕まえてるから、悪さはさせないよ。だから安心して話をしてみて」


とちゅう少し言いにくそうに、だけどこちらを気遣うような声でそういわれて、わたしは影山くんの目を見ながらこくりと頷いた。あからさまにほっとした表情をする彼に思わず笑みがこぼれる。影山くんってすごく不思議だ。霊を寄せつけないこと、わたしを中に浮かせて引っ張ったり、暴れる幽霊を抑えて意思疎通までしたしたのに、本人はいつも教室でみるような影山くんのまま。わたしは影山くんの背中から恐る恐る足をふみだして、前方で地面に膝をつく男の子に近づいた。彼は先ほどまでの恐ろしい勢いをすっかりなくして、悲しげにこちらをみている。緊張から制服の裾を意味もなくいじって口を開く。


「ど、どうしてずっと、わたしをみてたの?」
「………ごめん、俺…」


ぐっと眉を寄せた彼があまりにも悲痛な面持ちで絞り出すから、わたしは必死にその声を拾おうと耳を傾けた。見えない力にしばられた彼はゆっくりと話をしてくれた。生前の彼は受験のために毎日毎日勉強漬けだったこと。けれどいつまでたっても結果がでず、勉学に厳しい家庭で居場所を徐々に失っていったこと。ストレスで大切な友達に八つ当たりをして、後悔した時にはもう遅かったこと。もともと病気がちだった彼の大切な友達は、しばらく顔を合わせないうちに亡くなってしまったこと。ショックと疲弊した精神で過ごす日々はあまりにもつらくて、自殺してしまったこと。そして自分の中にくすぶっていた友達への後悔が、学校に彼を呪縛霊として残したこと。自身に起きたことをはっきりと覚えている霊は珍しいのだとどこかで少し聞いたことがある。死んでこの世に残ったということは、それほどの後悔や悲しみが彼の中にあるからだ。覚悟していたとはいえ、生前の思い出を聞いてわたしは思わず息をのむ。胸の奥が痛んだ気がした。「あなたは死んだ理由がわかっているのに、どうして成仏しようとしないんですか」いつのまにかわたしの隣に移動していた影山くんが霊を正面から見据えて訪ねた。視線を地面に落として瞼を閉じた霊の彼は、とても言いにくそうにそれをこぼす。


「きみが、俺の大切な友達に、そっくりだったんだ」


上目でこちらをみやった彼の言葉に思わず「えっ」と声が漏れる。さらに、すかさず口を開いた影山くんにわたしは目をむくことになった。


「それで名字さんを連れて行こうとしたのか」
「さ、最初は違ったんだ…!見ているだけでよかった…!」
「だけどあんたは最終的にそうしようとしただろ。悪霊になって…」
「か、影山くん!」


突然の不穏な雰囲気に目が回りそうになる。なにより驚いたのは影山くんだ。今までとまとう空気が違ければ口調も違う。あわてて彼の名前を叫んで制服の裾をつかんだ。一瞬驚いた様子の彼が、霊から視線を外してわたしをみる。目の前の戸惑った表情に少し悩むように眉を寄せて、ゆっくりと呼吸をした影山くんが口を開く。


「この人はきみをあっちの世界に連れ出そうとしてる。今だって抑えきれない想いが溢れて飛び出しそうなんだ。このままじゃ完璧な悪霊になってきみを襲うし、僕はそれを許さない」


怒っているのだろうか。思わずそう考えてしまうほどなぜか今の彼は怒気をはらんでいるように思えた。いつもと雰囲気の違う影山くんにどぎまぎしつつ、もしかしたら彼は本来、こういう面があるのかもしれないとも思った。教室で見る彼はとても地味で、冴えない自分と彼は同類の人間だと、勝手に決めつけていたことを思い出す。ここまできてしまえば彼が普通の人が持たない力があることなんてもうわかりきっていて、でもそれが何であるかはどうでもよかった。その力を抑えるために、彼は周りが思う以上の何かを抑えて生活しているのかもしれない。そんな漫画や小説のような推測をして、わたしは覚悟を決める。


「影山くん、ありがとう。影山くんがいなかったらわたし、きっともうここにはいなかったんだよね。だけど…だけど、この人の話をきいて、えっと…できることなら、なんとかしなくちゃいけないって…お、おもって…」
「………」


ゆっくり、はっきり伝えたかったのに、言いたいことよりも気持ちが先行して結局影山くんに伝わったのか微妙になってしまった。冷や汗をかきながら思わず掴んでいた彼の制服の裾をぎゅっと強く引っ張ってしまう。しばらくわたしの後頭部をみていた影山くんが視線を霊に戻して「あなたはどうしたら…、…何がしたいんですか」と聞いた。雰囲気が柔らかくなったのを肌で感じて思わず頬が熱くなる。


「……謝らせてほしい。彼女に、俺のしたこと…本当に、ごめん」


目の前で今にも泣きそうな彼の謝罪は、わたしをつけまわしたことや向こう側に連れて行こうとしたことではないのだろうなと、ぼんやりと思った。生きていたころの後悔なんて山ほどあったけれど、自分をここに縛り付けていた苦しみは、ずっと言えなかった大切な友達を傷つけた事実だったのだと彼は言う。それからしばらく彼は懺悔を続けて、最後にこちらをみてごめんともう一度あやまった。そのとき彼の体がぼうっと光って、生まれて一度もみたことなんてなかったけれど、これが成仏というものなのかなと頭の隅で考えた。頬に伝う涙をそのまま、申し訳なさそうに、だけど落ち着いた表情で微笑んだ彼が消えていくその光景を、わたしは影山くんに声をかけられるまでずっと眺めていた。





夕日が沈みそうな帰り道、影山くんと二人並んで歩く。あの後教室へ戻ると伝えた影山くんにわたしは何かお礼がしたくて、とりあえず一緒に教室へついていくことにした。教室に着いてから置き去りにされていた鞄を手にした彼とそのまま校舎を出て今に至る。土手の下にある川の水面が夕日でとても綺麗に反射していた。ずっと考えていた。幽霊の彼がこの世に残ってしまった理由、後悔について。大切な友達に伝えられなかった想いを残してしまったことを、彼はとても悔やんでいた。となりに歩く影山くんをちらりと伺うと彼もこちらを見ていて思わずどきりとしてしまう。目が合ったことで驚いたわたしに、影山くんは少しだけ気まずそうにしながら話しかけた。


「あの、頭…ぶつけてたよね。大丈夫?」
「えっ!あっぜんぜん、もうへいきだよ」


どうして影山くんがぶつけたところを気にするのかわたしには分からなかったけれど、まるで自分のせいだとでもいうように顔を曇らす彼を見ていたら、実際強く打っていたことなんて遠くに放り投げて、あまり強く打たなかったし、と付け加えていた。それでも心配そうにこちらをみる影山くんに、わたしは自分の内側が暖まるのを感じる。ずっと、ずっと苦しんでいた。誰にも相談できず不安を抱えて押しつぶされそうになっていたわたしを助けてくれたのは、間違いなく目の前の影山くんだ。

わたしに恐怖を与えた霊が教えてくれたこと。大切なことはあとから後悔しても遅くて、生きているうちにそれに気づくのは、実は奇跡みたいにすごいことなんだ。

不思議な力をもっていてもそれをひけらかそうとせず、これといって親しくないただのクラスメイトを助けて、怪我を自分のことのように案じてくれる影山くんを、もう以前のような認識で見ることなんてできなかった。ゆるむ頬をそのまま、わたしは歩みを止める。きょとんとした顔でこちらを振り返った影山くんに、ゆっくり、宝物を手にするような丁寧さで、ありがとう、と言葉にした。

驚いたように肩を揺らして、だけどゆっくりと頬を染めた影山くんにくすぐったい気持ちを覚える。生きているうちに気づけたこと。それを大切にしていこうと思えたこと。もっと彼と距離を縮めたいと思うこの気持ちは、何にも変え難い、宝物なのだと思った。


夕日に負けない黒髪が風に揺れて、この景色を一生忘れたくないと、わたしは彼に手をかざした。




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