くちべた

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140字まとめ1



影山茂夫|ツイッターに上げた140字SSです


『大人しく降参して』
少女漫画みたいなシチュエーションに憧れなかったわけじゃない。ただ、彼の性格上そうなることを想像できていなかっただけだ。押し付けられた肩がソファに沈む。いつもと様子の違うモブくんの向こうに天井がある。あまりの羞恥にたくさん話しかけてみたけれど、彼の一声に何も言えなくなってしまった。


『その言葉が、重い』
背中にのしかかるのは、意思を無視した命令に抗えない群集だ。空気を読む。笑う悪意が記憶を引っ掻き、幼馴染みの口の動きが鼓膜を揺する。後悔と惨めが感情の蓋を押し退け背中の重みを吹き飛ばした。僕は、最低だ。伸ばす指先の一方、遠い記憶に君がいた。悲しい背中に馴染む声を、今はただ渇望する。


『そんなところも好き』
言いたくないことは、無理して言わなくていいです。落ち着いた声でそう彼がこぼすから、わたしはその優しさに甘えてしまう。背中に回った腕に彼の成長を伺えて、じんわり熱くなる目を瞑った。中学生だった頃の彼はもういないんだと密かに寂しさを覚えるけれど、この瞼の熱がきみをすきだと言っている。


『目玉焼きの食べ方』
お箸を口に運ぶ視線の途中に、不思議そうな顔をしている彼がいた。何となく理由は分かってる。「案外美味しいんだよ」イタズラな心が働いてお箸の向かう先を彼へ変えた。「あ、本当だ」素直に口を開いたことに驚いたけれど、いつ彼が間接キスに気づくかと嬉しさと羞恥に心が弾んだ。


2016/9/30~10/31




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