140字まとめ２
影山茂夫｜ツイッターに上げた140字SSです
『吊り橋効果』
視界を黒が占領し、それが同じクラスの彼の制服だと気つくのに数秒時間を要した。地鳴りの激しい揺れと瓦礫の音が耳を劈き、一歩も動けず死を覚悟した所だった。全てが収まった頃、"さえない男子"なんて印象を吹き飛ばす真剣な眼差しを見てしまえば、もう彼から目が離せない。
『いえない一言』
伏せられた彼女の頭に触れようとして慌ててその手を引っ込める。ゆっくり上下する背中とかすかな寝息に、自然と動作が慎重になった。「何してんだ？モブ」自分の心臓が大袈裟に跳ね、彼女が身を起こす。「ワリ、起こしたか」寝ぼけまなこの少女を目の前に、躊躇を知らない師の言動を恨めしく思った。
『見えないサイン』
あいつは気づかない。彼女が名前を呼ぶ前に、毎回一呼吸おいていること。後ろに回された手をしきりに合わせて緊張を紛らわせていること。あいつがよそ見をしている間だけ、幸せそうにその顔を眺めていること。「いい加減気付いてやれよ」不思議そうな弟子をみて、師はかけるべき言葉を考えあぐねた。
『言えない』
放課後、寒さを覚えるこの時期は陽が落ちるのも早くなって、二人で帰る時間帯も既に夕暮れが暗みはじめている。寒そうに両手を合わせる彼女を横目に、土手下の川の水面が反射に橙と煌めいて、その暖かな色と頬を掠める冷たい空気は自然と僕の歩みを遅くさせた。日常を特別へ変える君と、ずっといたい。
2016/9/30~10/31