雲雀が、私の素敵な素敵な赤い糸をブチブチと切っていくことを知って早2日。
あの日は相当ブチ切れてやったよ。私の青春は雲雀によって消されていたのだ。怒らないわけなくない?むしろ許せないと思うよ。
というわけで委員会無断欠席2日目、とうとう私の安泰な生活が終わりを告げるかもしれなくなってしまった。


「さあ、言い訳を聞こうか」


首筋に当てられた冷たい銀色のトンファーはもう見慣れている。それでシバかれた人間については何人も見てきた。とうとうその餌食に私が捧げられそうになっていることを、少なからず悲しく思う。いや、まあ自分が悪いんだけど、それでも私の赤い糸を解かれていたことについて謝ってもらわねば気が済まないのだ。草壁に話した時には、草壁からも同情されたくらい悲しい出来事なのである。


「...これから昔みたいに恭ちゃんって呼んでやる」

「ふーん...言い残すことはそれだけかい?」

「恭ちゃんのばーかばーか!赤い糸の破壊神!」


ゴンッ!と頭から衝撃の音がしたと同時に私はその場に崩れ落ちた。あまりの痛みに「ううううう」と唸るばかりだ。唸る以外出来ないほどに痛い。涙目を浮かべながら キッ、と雲雀を睨むと満足そうな顔をして私の頭へと手を伸ばしてきた。
痛みで悶えてる中、抵抗することなく頭を撫でられる。少し体温の低い手がゆっくりと左右に動かされ、痛かった部分を優しく撫でられた。


「...痛かった」

「名前が無断欠席するのが悪い」

「恭ちゃんなんて嫌い」

「僕は名前のこと好きだよ」

「恭ちゃん私で遊ぼうとしてるな?」

「はいはい」


撫で続ける手が少し暖かく感じる。しかしだ、私の野望は消えぬのだ。


「謝って!」

「フン」


どうして私の恋路を邪魔するの!どうして私の運命の赤い糸を解くの!いや、むしろ切るの!と声を荒らげたくなる。しかし出来ずで居るのは雲雀の手のせいだ。昔から雲雀はことある事に私の頭を撫でてくれる。これが不思議と物凄く落ち着いてしまうからタチが悪い。いつもこうやって慰めてくれていたっけな。
かく言う私も片手で数えられるほどだが、この形のいい頭を撫でたのを思い出す。雲雀が骸くんと喧嘩して何日も帰ってこなかった時、怖い人たちと戦う為に夜行った日、未来に飛ばされてしまった時......ああ、あとは略させて。思い出すだけで涙脆い私は泣きそうになってしまうの。とにかく雲雀がいつも帰ってくると「ただいま」と言ってくるもんだから、私は撫でたのだ。それ以来危険なことなどは減ったから撫でる機会なんて失われていたけど、雲雀もこうやって暖かい気持ちになれていたのだろうか。


「恭ちゃんは、私に撫でられると落ち着く?」

「...どうだろうね」

「私は恭ちゃんに撫でられるとすごく落ち着くよ」

「君それわざとなの?」


ゆっくりと退いていく手に少し名残惜しく感じながら「何が?」と口を開いた。それに返答はなくじっと見つめられるだけ。今日というか、ここ数日の雲雀はなんだか様子が変な気がする。少しは反省しているからなのだろうか、と考えたがそれも一瞬。彼に限ってそれはないと思う。これでも15年の付き合いなのだから、分かってる。だけれど、その様子に少し違和感を覚えてしまう。


「本当にどうしたの?」

「......僕がどうして君の相手を咬み殺すと思う?」

「...相手に何かの欠点があるから?」

「よく分かったね。それだけじゃないけど」


その返答は困るだろうが。
喉元まで出かけた言葉を飲みこんで、うーん、と考えてみる。
雲雀がシバく理由って、大体が 気に入らない・欠点があるから しかない。それしか私は知らないのだ。一体他に何があるというのか、私の小さな脳みそでは思いつかない。それに限定されてくるのは私の恋人候補ばかりだ。
──────つまり、



「私のことが好きだと!?」

「君に言われると腹立つね」

「は?」

「僕の手元から君が居なくなるのは嫌だからだよ」

「えええ傲慢じゃん......」


出たよ、俺の物は俺のもの心理が。
手元からなんて、甘くもない言葉だし、珍しく雲雀が素直な気がする。でも、これって雲雀が今まで私の恋路を邪魔していたのは、私のことを離したくなかったからってことだよね?何それ?


「恭ちゃん私に恋してるのか」

「恋だなんて虫唾が走る」

「恭ちゃんの横から離れると?」

「咬み殺す」


立派に恋じゃね?恋成立してるじゃん、と半目になって雲雀を見つめた。少しだけムスッとした顔でそっぽを向く雲雀は、昔から変わらず可愛らしい。
そうかあ、私にベタ惚れか〜、と少しニヤニヤとしてしまうが、忘れてはいけない。


「赤い糸切断について謝罪を!」

「僕はやっただけ。彼等が意気地無しなだけだろ」

「......論破やめて」

「じゃあ、一言だけね」









「僕は君が隣に居ないとつまらないよ」







君が変わっていく瞬間