01


 授業が終わり教室を出ようとすると、合同で授業を受けていたグリフィンドール生がエマを引き止めた。
 この男子生徒とは数える程度しか話したことがなく、正直名前も覚えているか怪しい。

「何か用かしら?」
「…こ、これ、この間ノート貸してくれたお礼」

 そういえばそんなこともあったなぁ。と記憶を掘り返す。
 男子生徒がお礼でくれたのは、海外の店舗限定で売っているという有名店のチョコレートだった。

「あら、ありがとう」
「女の子にすごく人気のチョコなんだ。…よかったら、今食べて感想を聞かせてくれないかな」

 教室にいた生徒は全員昼食を取りに大広間へ行ってしまったようだ。
 エマも早くこの場を去りたかったが、この男子生徒は感想を聞かせないと開放してくれない様子だ。
 仕方なく目についた赤色のチョコを一粒食べる。

「どう?」
「ラズベリーの酸味がチョコと合っててすごく美味しい」
「あの、この大きいのも食べてよ」
「え、えぇ…。うん、細かいナッツが入ってるのね。香ばしくて美味しいわ」
「こっちも人気の味なんだ!食べてみてよ」

 男子生徒は緑色で小ぶりのチョコを指差した。
 これにはエマも流石に眉をひそめ、チョコの入った箱を閉じる。

「私、お腹が空いてるの。もう失礼するわね」
「待ってよ!!!」

 突然の大声と共に強く腕を掴まれ、心臓が跳ねる。
 男子生徒の方を振り向くと、顔を赤くしてエマを凝視していた。

「ひっ、離して…!」
「あと一個だけ!ねえ!!」
「―――おい、エマに何してる」

 聞き慣れた声の方を向くと、氷の様に冷たい瞳で男子生徒を睨むドラコがいた。
 それを見た男子生徒は顔を青くし、パッとエマを掴んでいた手を放す。
 ドラコはエマの前に立つと、凍った様に動かない彼の耳元で、今まで聞いたこともないような低い声を発した。

「失せろ」

 その言葉を皮切りに、男子生徒はまるで罠から開放されたネズミのように慌てて教室を出ていく。
 ドラコはくるりと振り向くと、呆れた顔でエマを見た。

「はぁ、まるで危機管理がなってないな君は」
「ん…ごめん、なさい…」
「あのまま僕が来なかったら、どうするつもりだったんだ」
「……」

 大きなため息を吐き、ほら、早く行こう。と優しく手を取るドラコ。
 大広間までの廊下を手を引きながら歩いていると、突然エマが立ち止まり、逆に彼の手を引っ張った。

「お、おい。どうしたんだ」
「きて…」



Bkm


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