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七夕の夜
金曜日の閉店間際のショッピングモールへ買い出しに出る私に、「荷物持つよ」と着いてきた息子。
明日のお昼ご飯ゲット!と、息子と二人ではしゃいで選んだ半額シールが貼られたパック。それを詰めた小さなエコバッグをその手にぶら下げて歩く息子は、その小さなエコバッグひとつすら私には持たせてくれない。
嵩張る重たいものを詰め込んだリュックを背負った彼は、ショッピングモールの吹き抜け広場に飾られた七夕飾りを見つけて立ち止まった。息子の隣を歩いていた私も、つられて自然と足を止める事となる。
今年ももうこんなに季節が進んでいた事に驚く私の腕を掴んだ息子が、私の身を引き寄せた。
「七夕撮ろうよ」
カメラアプリを起動したスマホを持つ彼の腕が私の後ろから伸びてきて、私のこめかみあたりに彼の頬が寄る。すぐにぱしゃりと撮影された自撮り。
「やだ、らんちゃん急に撮らないで」
「撮ろうって言ったじゃん」
スムーズな手つきで親指を滑らす彼の手元を覗き込んでみると、撮影されたばかりの画像が見えた。しっかりとカメラ目線でキメ顔している息子の脇に、ぼんやりとした間抜け面を晒している私。
「もー、私、変な顔してるじゃん」
「してねーよ。可愛いじゃん」
「そんなこと全然ないし。載せないでね?」
「インスタ用は別に撮るよ」
カメラアプリに切り替えてまた数枚七夕飾りを見上げて撮った彼は、スマホを弄りながら歩いてゆく。
「らんちゃん、歩きスマホはだめ」
私のお下がりではない、自分のスマホを春休みに父親に買ってもらってからスマホばかり弄ってる息子へと注意すると、彼は素直にポケットにスマホをしまう。
「ナマエ、まだ短冊あるよ。書こうよ」
短冊を書いて飾れるコーナーを見つけた彼に誘われて、ご自由にお書きくださいと準備された残り少ない細長い紙に、その場に備えられていたペンを走らせてゆく。
「ナマエなんて書いたの?」
「私はこれ。らんちゃんは?」
親子並んで短冊に書いた願い事を、それぞれ見比べて笑うのは少し久しぶりかもしれない。彼が小学校にあがった頃が最後だったかな?
黄色い短冊に記された「ばぁちゃんとじーちゃんとナマエが長生きしますように」という右上がりの癖字は息子のもの。ピンクの短冊に記された「らんちゃんが高校生になれますように」と控えめな大きさで真ん中に寄せられた文字は私のもの。
「私、もう長生きの心配されるような歳になったって事?」
「そりゃあ、ナマエにも長生きしてもらわないと…」
私の両親に並べて寿命の心配をされるのは不服ではあるものの、息子からその並びに私を括られるのは初めての事。親離れって、こういう事なのかもしれないと湧き上がる寂しさ。それを打ち消すかの様に突然なり出した私のスマホ。画面を見れば、息子の父親の名前がそこにある。去年再会して、先日、私と息子をお金で処理したあの男。
出る義理なんて無いんだけど、鳴り止まない着信音に息子からのキツイ視線を感じて電話に出た。
「どうしたの?」
警戒しながらそう尋ねる私に届いたのは、なんとも穏やかな緊張感のない蘭の間伸びした声。
「別にぃ?俺によく似た若い男といちゃついてるイイ女の画像送られてきたから声聞きたいなーって……なにしてた?」
「今、顔も良くて優しい若い男とデート中だから邪魔しないでくれる?」
「邪魔したいから電話してんだけど」
「……蘭は?」
「俺はまだ仕事中。忙しくてイイ女と星空見上げる余裕もねーの」
「さっさと仕事終わらせて会いに行けばいいじゃない」
「新幹線は終電早いんだワ」
「こんなとこまで来なくったって……蘭なら、よりどりみどりでしょ」
「んな事ぁねーよ」
「どうだか?」
「若い頃と違って、そうでもねーよ?それに、どうでも良い女に割いてる時間も体力ももうねーんだワ」
「それはご愁傷様……」
どこまでが本気でどこまでが冗談なのかわからない蘭の話しを聞き流しながら、2枚の短冊を並べて笹に括って私の先を歩く最愛の息子の背を追った。



アイコンと母子の自撮りはハマーちゃん提供。いつもありがとう♡