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いつも一緒だった灰谷蘭の14歳の誕生日をはなればなれで迎える話
幼馴染/両片思い/付き合ってない
(2023.5 極悪2の展示)





黒板の右端に記された日付を見て、今日だと気付いたのは5月26日の朝8時前。
去年までは一緒に祝った誕生日。今年は、蘭も竜胆も近くに居ない蘭の14歳の誕生日だ。
朝から学校に行くなんて珍しい蘭が、朝から私の家まで誕生日プレゼントをたかりにきて、散々な目に遭いながら一緒に登校したっけ。なんて、隣に居ると憎らしい事この上ない幼馴染を思い出して少しだけ感傷に浸ったのは、こんなに長い事傍に居ない2人がやはり恋しいからで。
「元気かなぁ…?」
ぽつりと呟いた声は、誰の耳にも届く事なく登校時間の喧騒に紛れて消えた。

私と違って、毎日学校に来ちゃえばクラスの人気者だった蘭だから、5月26日の朝にウチに上がり込んで私のママ特性のバースデープレート( と言っても、食パンにチョコソースでハッピーバースデー蘭くん♡ってママが書くだけ)を作ってもらうまで、私の部屋でごろごろしながらお誕生日のお祝いの言葉を強請る蘭の相手ををさせらるのが、本当は好きだった。
竜胆を除いて世界で一番最初に蘭のお誕生日を祝わせてもらえるのは毎年絶対私だもん。
そんな重たく濁った感情を腹の底に秘めて、蘭の理不尽な要求に付き合わされるの。口では蘭に文句ばっか言って頬を膨らませて可愛くない態度を取って、蘭の機嫌を逆撫でして受ける八つ当たりにどきどきしてるなんて、絶対蘭にバレたらダメなやつ。

5月26日と右端に記された黒板に、先生が書き連ねる文字をノートに書き写してゆく作業の合間に、私は蘭と竜胆が少年院に入ってすぐに一度だけ2人に宛てて送った手紙と同じ宛先を封筒に記した。
私のペンケースの中にあるのをもし蘭が見かけたら、すぐにでも私から取り上げて隠して揶揄って嗤ってそうな、キラキラのストーンのチャームがペンのてっぺんから垂れて揺れるボールペンで、書き上げたのは宛先と差し出し人の私の名前だけ。そんな真似を今まで何回もしてきたから、宛先の文字の羅列を覚えてしまった自分が気持ち悪い。
思うままに書き連ねても、折り畳んで封入できない手紙は、一度だけ読み返してぐちゃぐちゃに丸めてゴミ箱へと投げ入れるのがいつもだ。

私がゴミ箱に投げ入れる事無く、蘭と竜胆に宛てる事が出来た唯一には、2人の事件を聞いて驚いた事とそれを聞いた私を取り巻く周囲の反応について少し触れ、2人の体調を気遣って応援して結んでる。
それを投函する事が出来た後も、懲りずに何度かペンを走らせて、読み返して、ゴミ箱に投げ入れてる手紙たち。それには、つい最近の出来事と2人に向けた私の気持ち。心配。寂しい。会いたい。恋しい。ううん。これは2人に向けてるんじゃなくて、蘭だけに向いてる私の気持ち。
そんな気持ちを蘭に読まれるなんてまっぴらごめんで、ぐちゃぐちゃに丸めてゴミ箱に投げ入れてきた。
今日の授業中に書き上がったそれも、蘭に読まれるなんて絶対あってはならない私の気持ち。蘭へのどす黒く重たい好意が溢れてる。冒頭から結びまで目を通して、ぐちゃりと丸めた手紙は、やはり今日もゴミ箱行きだ。
だから、英語のノートの真ん中に一文だけ記してノートを千切って折り畳み、封筒へ入れた。
読み返す事無く何も考えずに糊で封をして、放課後郵便局で80円払って投函した。

弟がそっと俺に寄越したおめでとうの言葉で、今日の日付を知った。誕生日位、自由に楽しく過ごしたいけれども、やっぱりそれは叶わないわけで、昨日と同じ今日の14歳初日を過ごした。
毎年竜胆に言われるより先にと訪問したナマエの家で、真っ先に言わせたお祝いの言葉は今年は届かないのか。院に入ってすぐに届いた手紙以来、ナマエからの音沙汰は無い。誕生日くらい何かあるだろって期待してたのは、俺にも自分の子供同様に接してくれるナマエのママが特製朝ごはんを作ってくれるまでの間にナマエにベッドの中で嫌がるナマエに毎年誕生日祝いを要求してたから。
毎年そんな事されてりゃ、嫌でも俺の誕生日忘れられなくなるじゃん?
それなのにあのアマ、俺の事忘れて健やかな一日を過ごすなんて絶対許さねぇ。こっから出たら真っ先にシメてやんだから。
なんて、史上最悪の誕生日を過ごして数日後に手紙を受け取った。差出人にはナマエの名前。
ご丁寧な糊付けをびりびりと割き、はやる気持ちで取り出した紙切れ一枚。英語のノートを破ったそれに、お誕生日おめでとう。という一言だけ記されているのを目の当たりにして唖然とする。
封筒に押された消印は、2001年5月26日。
俺の誕生日に、誕生日おめでとうの一言だけを、投函したナマエ。
「あ…んの、くそアマ…」
苦虫を噛み潰したように呟いた言葉は、その後何故か俺の頬を緩ませた。

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