「恐るべき威力」
一枚上手だったアヴドゥルが勝利を収め、再び庭園には独特の雰囲気と静寂さが戻ってきた。もう被弾しないだろうと一部始終を見守っていたジョセフは岩陰から顔を出すと、気を失っているポルナレフと炎に包まれた『銀の戦車』を見て終わりだなと言い放つ。
「まともにくらった奴のスタンドは溶解する」
「ひでーヤケドだ。こいつは死んだな」
未だポルナレフの体から立ち上る煙は何よりもアヴドゥルの炎の威力を物語っている。これはただの火傷では済まされない。運が良くて重症だと一度口に出した承太郎だったが、彼は運が悪ければと発言を訂正した。確かにこの場合、炎に焼かれたポルナレフにとって生き残った方が地獄であろう。
「どっちみち、三ヶ月は立ち上がれんだろう。スタンドもズタボロで戦闘は不可能」
仮に命が助かったとしてもポルナレフにはもう戦える余地は無い。誰がどう見てもハッキリと分かる状態に、花京院の言葉に頷くようにしてジョセフたちも警戒を解いてポルナレフに背を向ける。
「神凪さん?」
決着がついたところでさあエジプトまでの旅を急ごうと、承太郎一行は庭園の出口を目指して歩を進めていく。ただ、その中で皆とは真逆の方を向いたままでいる者が一人。浮かない顔で遠くのポルナレフを見つめている神凪に気付いた花京院は足を止め、彼女に声を掛けた。
「どうかしましたか?」
「……あの人、」
「ポルナレフ? 彼が何か?」
「あのままここに置いてっていいの?」
「――ッ!」
神妙そうにしているから何を言うかと思えば、まさかの敵であるポルナレフを心配するような言葉を零した神凪。それだけでも驚くには十分なのだが、せめて病院に運んだ方がいいのではとまで言い出す神凪に、花京院は目を丸くさせるしかなかった。一体この
女性はどこまでお人好しなのだろうか。人を思いやる気持ちに長けているのはここ数日共に過ごして分かっていたことであるが、まさかここまでとは。
「……神凪さん」
命を脅かす敵にまでも気を掛けて、思いやる。簡単そうに見えて実はとても難しいことを平然とやってのける神凪の器の大きさと優しさに、花京院は感服した。しかし、だからと言って彼女のポルナレフを病院に連れて行こうと言う申し出には、首を縦に振る訳にはいかなかった。
「あなたには酷な事を言うかもしれませんが、敵に情けは要りません。我々の命を取るために送られてくる刺客には我々もそれ相応の対応を取らなければならないんです。ここで同情し、情けをかければこちらがやられる……まさに宋襄の仁になりかねない」
川を渡り歩いていることで陣営を整えられていない楚軍に情けをかけ、一切攻撃命令を出さず楚軍の陣が万全の体制を取るまで待ち続けた宋の君主、襄公。正々堂々と闘う姿勢は好ましいものだが、闘いの結果は襄公率いる宋軍の手痛い敗北となってしまった。故事成語に記され現代まで語り継がれているこの"宋襄の仁"は、以来無闇やたらと敵に情けをかけてはいけない例として上げられている。
今から遥か昔、紀元前368年という時代から正直者は馬鹿を見ていた。情をかけようが仁義立てしようが敵は敵に変わりはないのだ。
「それにあなたも怪我させられたんだ。余計に同情は要りませんよ」
ほらと指し示すように花京院の手にそっと取られた神凪の腕には、中華料理屋で『銀の戦車』の攻撃からジョセフを庇った際に負った怪我があった。幸い軽傷だったため既に血は止まっているものの、透き通る程真っ白い神凪の腕には赤みを帯びた傷痕は痛々しく見えてしまう。
「……そうだね」
自身の腕に残った傷を見て、神凪はようやく花京院の説得を聞き入れその場を立ち去ることに頷いた。その際神凪は「ごめんね」と花京院を始め、足を止めて静かにこちらの様子を窺っていた承太郎とジョセフ、アヴドゥルに告げた。もう大丈夫だよ、という意味を込めて。
「さあ行きましょう」
「うん。花京院くんありがとうね」
「いえいえ」
アヴドゥルを煽りに煽っていたが他の人を襲うような、卑怯な真似をポルナレフはしなかったために妙な気持ちに苛まれたが、彼も飛行機内で襲ってきた『灰の塔』と同じDIOの刺客。
どんな相手であっても敵である以上、真っ向から立ち向かわなければならないのだ。
「みんなお待たせ」
「やれやれ。お人好しも大概だな」
「……だからごめんってば」
気持ちを切り替えてよし目的地へ急ごうと先に少し進んでいたジョセフたちと合流する神凪。やっといつものように隣に立った神凪を見下ろした承太郎は、ちょっとした憎まれ口を叩きながら柔らかな髪をぐしゃりと搔き撫でる。
途端にムスッと膨らむ頬。しかし、神凪からは憎まれ口に対するいつものような反論は返って来なかった。返って来たのは不服そうではありながらも『ごめん』という謝罪の言葉だけ。どうやら今回のことは彼女の中で相当反省しているらしい。いつになくしおらしい姿に思わず承太郎がふっと小さく笑えば、何も言い返せない代わりに神凪の頬が更に膨らんだ。
(……リスみてぇ)
まるで餌を蓄える小動物みたいに膨らむ頬が何だか無性に愉快に見えた承太郎は、神凪に対しほんの少しだけ悪いと思いながらも膨らんだ彼女の頬にそっと手を伸ばした。空気でいっぱいになったその頬を突っついたらどんな反応をするのだろうか。ある程度の予想はつくがやはり直で神凪の反応を見たい衝動に駆られている承太郎の指先が、あともう少しのところで神凪に触れそうな距離まで移動した。そんな時――。
――ボンッ!
「な、なんだ……!?」
不意に承太郎一行の背後で爆発音によく似た、何かが破裂したような音が木霊した。張り詰めていた気を緩めたところで響いてきた怪音に、全員が何事だと一斉に振り返る。するとそんな彼らの目に驚くべき光景が映り込んだ。
「し、信じられん……!」
承太郎一行の目に映り込んだ驚くべき光景。
それは地に倒れていたポルナレフがそのままの姿勢で宙に浮くという、常識ではまず説明がつかない目を疑うようなものだった。
「Bravo! おお……Bravo!」
まるで重力など無いに等しいかのように浮かぶポルナレフに唖然とする承太郎一行が居る中、注目を浴びる当の本人は閉じていた目をカッと見開き「素晴らしい!」と、両手を叩きながら賞賛の言葉を幾度も発していた。
「こ、こいつはッ!」
「ピンピンしている……!」
「しかし奴の体がなぜ宙に浮くんだ!?」
あれだけの炎を全身に浴びたのにもかかわらず火傷一つ、傷一つすら負っていないのは一体どういうことだ。いや、それよりもどうやったら人の体が何の支えもなく浮かぶのか。同時に起こった魔術師ですら驚く摩訶不思議な現象に、承太郎一行に少なからず混乱が生まれる。
「……違う。あれは浮いてるんじゃない」
「! ……ほお」
しかし、どうやら神凪だけは人が宙に浮くそのトリックに心当たりがあるようだった。
一人鋭さを孕んだ眼光で見上げてくる神凪に、ポルナレフは瞠目する。だがそれも一瞬のことだった。彼は一際大きく手を叩き今度は神凪に向けて素晴らしいと叫ぶと、満足そうに口元へ弧を描いた。
「さすがあの方が見込んだマドモアゼルだ!」
「神凪さんには一体何が見えて……」
「フフフ。感覚の目でよーく見てみな!」
そうすれば自ずと見えてくるはずだ。そう言わんばかりのポルナレフの言い分に承太郎一行はスタンドを操る時のように感覚を研ぎ澄ませ、今一度宙に浮いたままのポルナレフを見遣る。
「……あれは!」
すると、ようやく承太郎一行に神凪の目に見えていたものと同じ"ビジョン"が映し出された。
「そう! 甲冑を外した『銀の戦車』だ!」
主のポルナレフを軽々と支える、洗練されし美しい騎士の姿が――。
* * *
「なるほど。先程は甲冑の重さゆえ私の攻撃を喰らったというわけか」
敵対関係にあっても正々堂々とした勝負を重んじるポルナレフは、自身のスタンドに隠されていた能力をアヴドゥルへと明け透けに語った。
『銀の戦車』には防御甲冑が付いており、この甲冑のおかげであれだけの炎を浴びても軽傷で済んだのだと。そして役割を果たした甲冑を脱ぎ捨てた今、誰の目にも留まらぬ速さで動くことが可能になったのだと、ポルナレフはそれはもう雄弁に能力について語ってくれた。
「しかし逆に今はもう裸。プロテクターがないということは、今度再び喰らったら命はないということ」
元から俊敏な動きを誇っていた『銀の戦車』の更なる機動性の向上は、機動性よりかは火力を誇る『魔術師の赤』には大きな痛手となるに違いない。それは己のスタンドを知り尽くすアヴドゥルが一番よく分かっていることだった。
しかし、アヴドゥルは不利であろうこの状況を逆に好機と捉えたようだ。自分の身を護る鎧を脱ぎ捨てた騎士は言わば諸刃の剣。攻撃さえ当ててしまえば、騎士は為す術もなく炎に焼き尽くされることだろう、と。
「Oui!」
アヴドゥルの言い分はポルナレフが大きく頷くほどにもっともなものだった。機動性を重視して守備力が皆無となった今、先程と同様の攻撃を一度でも喰らってしまえば一巻の終わりだ。今度こそ"死"という最大の敗北を味わうことになるだろう。
「だが無理だね」
しかし、自分自身の弱点を笑って認めるほどの度胸があるポルナレフには、己がアヴドゥルに敗北する未来など一切見えていなかった。今の彼に見えているのは絶対的な勝利への道のみ。ただそれだけだった。
「無理と?」
ポルナレフの確固たる自信を目の当たりにしたアヴドゥルは、これ以上の戦いは無意味だとでも言うように門前払いをするポルナレフに眉を顰める。だがここはやはり熱い男アヴドゥル。
「試してみたいな」
これからゾッとするものを見せるとポルナレフに宣戦布告されたことで益々闘志に火が着いたアヴドゥルは、この闘いから退く気はさらさらないことを示してみせる。相も変わらず全く動じない様子のアヴドゥルを見たポルナレフは、至極楽しそうにゆっくりと口元に弧を描いた。そして次の瞬間――。
「な、なんじゃ……!? 奴のスタンドが六……いや……七体にも増えたぞッ!」
「ば、馬鹿なッ! スタンドはひとり一体のはず!」
驚くべきことにポルナレフの背後に佇んでいた『銀の戦車』の姿が7体に増えたのだ。ずらりと並ぶ騎士の姿は壮観と言えよう。しかし、己の精神力であるスタンドを複数体持つポルナレフに衝撃を受けた承太郎一行からすれば、壮観だと悠長な感想を抱く余裕など全くなかった。今の彼らの胸中にあるのは疑問と、ポルナレフが宣言したある一つの感情だ。
「ゾッとしたようだな」
アヴドゥルの顔色の変化を見逃さなかったポルナレフは満足気に口角を上げると、スタンドが増えた驚くべき事象についての種明かしをし始めた。これは単純に個体が増えたのではなく、本物を除く全ては残像にしかすぎないのだと。
「視覚ではなく君の感覚へ訴えるスタンドの残像群だ」
並大抵の感覚では『銀の戦車』の動きにはついて来られないと豪語するポルナレフは、焦りの表情を浮かべるアヴドゥルに問うた。
「今度の剣さばきはどうだァ――ッ!」
ポルナレフが吠えたと同時に、6体の残像と共に『銀の戦車』がアヴドゥルへと襲い掛かる。幾重にも折り重なり息をつく間もなく繰り出される騎士の攻撃。一瞬でも気を抜けばたちまち切り刻まれてしまうだろう。しかし、アヴドゥルはこのまま『銀の戦車』の攻撃をただ避けているだけでは終わらなかった。ほんの一瞬『銀の戦車』の攻撃の隙を見出したアヴドゥルは、反撃と言わんばかりに『魔術師の赤』の強力な炎技をお見舞いしてみせる。
「ノンノンノン! それも残像だ!」
だが悲しいかな。威力は遥かに高いが少々大振りになってしまう『魔術師の赤』の技は、防御甲冑を脱いだことで機動力に特化した『銀の戦車』には全く通用しなかったのだ。地面に開いた大きな穴を鼻で笑い飛ばしたポルナレフは、こちらもまたお返しだと言うようにアヴドゥルへ怒涛の攻撃をお見舞いする。
「アヴドゥルッ!」
あまりにも素早い突き攻撃を避けるのは容易ではなかった。故にアヴドゥルの顔には『銀の戦車』によって"アンク"の形をした傷がくっきりと刻まれてしまう。少し離れた場所で承太郎が心配そうに声を張り上げる。その声を聞きながら流れ出る血を拭ったアヴドゥルは、素早さもさることながら寸分の狂いもない正確な剣捌きを披露した『銀の戦車』に瞠目していた。最初から只者ではないと思っていたが――。
「相当訓練されたスタンド能力!」
「理由あって10年近く修行をしていた。さあいざ参られい。次なる攻撃で君に
止めをさす」
「騎士道精神とやらで手の内を明かしてからの攻撃。礼を失せぬ奴……故に私も秘密を明かしてから次の攻撃に移ろう」
「……ほう?」
刺客としては不相応な騎士道精神。だがそんなポルナレフの揺るがぬ精神に好感を持ったアヴドゥルは、自分自身もまた『魔術師の赤』の技に隠された能力を明け透けに語った。先程放った"クロスファイヤーハリケーン"という技にはバリエーションがあるのだと。
「アンクの形の炎だが一体だけではない。分裂して数体飛ばすことが可能!」
ごうっとアヴドゥルの周りを今までとは比にならないくらいの大きな炎が包み込む。そして、秘密を語った通りアンクの形を模った炎は『銀の戦車』の分身に負けず劣らず分裂していく。その光景はまさに"スペシャル"と名付けるに相応しいものだった。
「躱せるかッ!」
分裂したからと言って全く威力の衰えていない『魔術師の赤』の大技が、次々とポルナレフに向かって勢いよく襲い掛かる。
「くだらん! アヴドゥルッ!」
しかし、次の攻撃で必ず倒してやるという熱量では、ポルナレフの方も負けてはいなかった。
向かってくる数体のアンクの炎に微塵も恐怖を抱いていないポルナレフは、咆哮にも似た雄叫びを上げる。すると、それに呼応するかのように分身した『銀の戦車』が主を護るべくポルナレフの周りを囲んでみせた。
「円陣を組んだッ!」
「死角がないッ!」
「っ、アヴドゥルさん……!」
ポルナレフを360度囲む『銀の戦車』の姿はまさしく鉄壁だった。その様を目にしたジョセフたちに一抹の不安が過る。いくら『魔術師の赤』の攻撃が分裂できるからとは言え、これではまた跳ね返されてしまうのではないかと。
甘い甘いと何度も言葉を繰り返す余裕有り気なポルナレフに、二人の行く末を静かに見守っていた神凪は思わず祈るように両手を握る。
「前と同様このパワーをそのまま貴様にッ!」
切断して弾き返してやる。ポルナレフの強い意思を乗せた『銀の戦車』の剣が、迫り来るアンクの炎を断ち切ろうと振りかぶる。それはもちろん幻影たちも同じだ。アヴドゥルの渾身の一撃は本当にこのまま無力化されてしまうのだろうかと、ただ見守ることしか出来ない承太郎一行は固唾を呑んだ。しかしこの時、どこにも死角がないと思われていたポルナレフの足元で異変が起きていた。
「なにィ!?」
剣が炎に触れる寸でのところで、驚くべきことにポルナレフの足元の地面が地響きを轟かせて突然穴が開いたのだ。それだけでも目から鱗ではあるのだが、そこから顔を覗かせたのは──アンクの形をした炎だった。これにはポルナレフも驚きに目を見開かせるだけで、何の対処も出来なかった。否、出来るはずもない。まさか地面から炎が噴き出してくるとは誰が思うのだろうか。
「言ったろう。私の炎は分裂、何体にも分かれて飛ばせると!」
そう。何を隠そう地面に穴を開けただけに終わった『魔術師の赤』の一撃目。ポルナレフはそれを笑い飛ばしたが、あれこそが既に勝敗を分けていたのだった。炎が地面を掘って来るはずがないと相手の盲点をついた、アヴドゥルの見事な一手。
完璧に見えた陣営をいとも容易く崩された今のポルナレフには、もはやアヴドゥルに対して何かを言う気力は残っていなかった。
「炎に焼かれて死ぬのは苦しかろう。その短剣で自害するといい」
炎に包み込まれ地に伏せるポルナレフにはもう闘う術すら残っていない。そう判断したアヴドゥルは懐から短剣を取り出すと、ポルナレフの目の前の地面にその短剣を突き刺した。炎に焼かれて死ぬ苦しみは、炎を扱うアヴドゥルだからこそ十二分に理解している。だからこそ一人目の刺客とは違い、敵ながらも正々堂々を貫いたポルナレフにアヴドゥルは情けをかけた。
「……自惚れていた。炎なんかに私の剣さばきが負けるはずがないと」
無防備にも背を向けるアヴドゥル。投げ出された短剣を手にしたポルナレフは、その背中に向かって短剣を投げようと一度は腕を振りかぶるも、結局それは未遂に終わった。何故なら敵意のない相手を背後から襲うような真似は、ポルナレフの誇り高き騎士道精神に反するからだ。
「やはりこのまま潔く焼け死ぬとしよう。それが君との闘いに敗れた私の……君の能力への礼儀……自害するのは、無礼だな」
自害をすれば今自分を蝕んでいる苦しみから逃れられる。しかし、ポルナレフは闘いに敗れた者の礼儀としてその道を選ぶことはなかった。強者の炎に焼かれるならそれもまた本望……とでも言うように情けで渡された短剣をポルナレフは手放す。そして、いよいよポルナレフが意識までもを手放した次の瞬間――。
――パチンッ!
軽快な音と共に、ポルナレフを包んでいた炎が突然見る影もなく消え去った。どうやらポルナレフの様子を窺っていたアヴドゥルが能力を解いたようだ。真っ直ぐとポルナレフのことを見据えるアヴドゥルに、一部始終を静観していた承太郎の口角が微かに上がる。
「あくまでも騎士道とやらの礼を失せぬ奴!」
いくらでもチャンスはあった。寧ろまたとない機会だったのにもかかわらず、ポルナレフは頑として背後から襲うことはなかった。並大抵の精神ではないと思っていたが、まさかDIOの命令にさえも抗うとは。
「なにか訳があるな、こいつ……」
ただの刺客ではない。正面からぶつかり合ったからこそ違和感に気付いたアヴドゥルは、気を失いぐったりとしているポルナレフの上半身を抱え起こすと、徐にポルナレフの額の生え際を指で搔き分けた。すると、見覚えのある物体がそこから顔を出したではないか。
「JOJO!」
ポルナレフの額から顔を出したのは花京院に埋め込まれていた物と同じ、DIOの細胞からなる肉の芽だった。それを見つけた瞬間、アヴドゥルの中で全て合点がいった。ちぐはぐに感じたポルナレフの精神と行動の裏にはこんな秘密があったとは。しかし見つけてしまえばこっちのものだと、アヴドゥルは肉の芽を一度摘出した経験がある承太郎に声を掛ける。承太郎も承太郎でアヴドゥルの言わんとしていることをいち早く理解したようで、彼の隣には既に『星の白金』が鎮座していた。
「うええ〜〜! この触手が気持ち悪いんじゃよなァ〜〜!」
「ちょっとジョセフおじいちゃん! 私を盾にするのやめてヨ!」
「だって気持ち悪いんじゃもんッ!」
「可愛く言ってもだめッ! ちょっ、花京院くん助けて……って、あり?」
「あんなグロテスクなものが僕にも……」
「花京院くんッ!?」
失敗するとは微塵も思っていない。しかし、少しでも手元が狂ってしまえば脳を傷付けてしまう恐れがあるため、肉の芽を取り出すにはそれなりの集中力が必要となるだろう。だからこそ蠢く触手にわあわあと騒ぎ立てるジョセフや神凪に対し、それはもう深く眉間に皺を寄せた承太郎から数秒後に「やかましいッ!」と怒号が飛ばされるのは必然だったのかもしれない。
「これで肉の芽が取れてにくめない奴になったわけじゃな!」
そして、無事に肉の芽が摘出され心なしか柔らかい表情に変わったポルナレフを横目に、駄洒落を披露する陽気なジョセフに対し承太郎が静かに腹を立てるのもまた必然――。
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