「……なんでてめーだけみんなに『さよなら』って言ってもらえんだよ…」

一方承太郎と花京院と駅前広場で待ち合わせの約束を取り付けることに成功した間田は、名前達が必死に追いかけて来ているとも知らず、本物の仗助と勘違いしている女子生徒達に「さよなら」や「またね」と声を掛けられている『サーフィス』に嫉みの感情を抱いていた。

「仗助くん! あ、あの…これ読んでっ…」
「!?」

終いにはラブレターを渡されている自身のスタンドに対して怒りを爆発させた間田は、手紙を細かく破り捨てると「チクしょお〜〜っ!!」とガンつけ始めてしまった。

「てめーと俺はどこが違うってんだよお〜!」
「あぁ? ンなこたあどーでもいいだろーがよぉ〜」
「!!」
「おめー、チンタラやってる場合じゃあないっしょ〜」
「っ、なんだその口の利き方は!」

本体の自分を馬鹿にするような言い方に更に腹を立てた間田は、拳を作ると思い切り仗助そっくりの横顔を殴り飛ばした。
しかし、殴られた『サーフィス』はコンッと軽い音を立てただけでピンピンしており、殴った張本人の間田だけが手の甲に血を滲ませる羽目になったのだった。

「ああいいっでえ――ッ!!」
「擦りむいたのかよ、馬鹿っスね〜。俺『木』なんスよ…?」
「うるせえッ! 少し離れてろッ!」

今度は足でドンッと『サーフィス』を蹴った間田は、落ちた鞄を拾うと自分一人だけでさっさと先を歩いていってしまった。

「(くっそぉ〜! ムカついてきた…)」

自分自身のスタンドだと言うのに本人の性格も反映されてしまうのか、自分の気に食わない態度ばかり取る『サーフィス』に、間田はスタンド能力を得てからと言うもの不満ばかりを抱いていたようで、この世に性格のいい人間はいないのかと歯をギリギリと軋ませる。

「(こんな仗助なんぞ…早いとこ承太郎と花京院を仕留め終わって、粉っ々にブチのめしてやる! クキィーッ、楽しみだぜ!)」

趣味の悪いお楽しみのために一刻も早く承太郎と花京院と待ち合わせをしている場所へ向かおうと、間田は少しだけ歩くスピードを上げる。
しかし――。

「フラフラ歩きやがって! 死にそーなコオロギみてえなやつだぜ!」

間田の足は歩道に停めてあったバイクの持ち主である一人の男が、大きな声で吐き捨てた台詞によって止まることになった。
連れのサングラスを掛けた男と『死にそうなコオロギ』と喩えた間田のことを笑っているバイクの持ち主の男は、何も間田がただ通り掛かったから暴言を吐いたのではない。
ピカピカに磨いたばかりのバイクに間田が赤黒い血と指紋を付けたからこそ、その怒りをぶつけるために口から出た台詞なのだが、間田は自分が悪いとは微塵も思っていないようだ。
寧ろ、自分が馬鹿にされたとしか感じていない間田がもの凄い形相で振り返り、笑っている男達を睨みつけた瞬間――。

 ――バゴンッ!

サングラスを掛けた男の頭に『サーフィス』が強烈な手刀を叩き込んだのだった。

「!?」

思い切り舌を噛んでしまったようで、口から多量の血を流しながらバイクを巻き込んで倒れていく友人に男が目を見張っていると、ゆらりと背後に回った『サーフィス』によって後ろ手に拘束されてしまう。

「えっ!?」
「押さえてろ『サーフィス』……俺が直接ヤキを入れる」
「ひっ!」

制服のポケットから細いカッターを取り出し、カチカチと刃を出しながら近づいてくる間田の異常性に、拘束されて動けない男が「おまえ! なんなんだ!?」と怯えを見せていると、間田は男の鼻っ面を肘で殴りつけた。

「ほげえっ――!」
「『なんだ』なんて考えなくていいんだよ。その口二度とよぉ〜〜、利けなくしてやるだけだからよお〜〜っ!」
「やめろおおおおッ!!」

口の中にカッターを入れられた男の、恐怖が滲み出た大きな叫び声が木霊したその時――。

「…っ!!」

今にもカッターの刃を引こうとしている間田に向かって、どこからともなくきらりと光る何かが勢いよく飛んできた。
その何かに素早く反応した『サーフィス』は男の拘束を解くと、それが間田に当たるよりも先に片手で掴んで止める。

「…ガラス片……?」

本体を守るように動いた『サーフィス』の手の中に収まっているガラス片に、なぜこんな物が突然飛んできたのかと間田が頭に疑問符を浮かべていると、反対側の歩道にここには居ないはずの姿があることに気づく。

「ひっ、東方仗助ッ! なぜ!? それにあの名前とチビまで!」
「間田ァ〜っ!」
「やっと追いついたぜてめえ!」
「キミのことは絶対に承太郎と典明の所には行かせないから!」

暫くは起き上がれないであろう程の怪我を負わせたはずなのに、怪我など最初から負っていないとでも言うような仗助と名前、康一の三人の元気な姿に、間田はどういうことだと驚きに包まれる。
しかし『サーフィス』は未だ仗助をコピーしたままのため、本人が現れたとしても操ってしまえば何の脅威もないだろうと判断した間田は、向かい側にいる仗助を指差すと「操れ!『サーフィス』!」と自身のスタンドに命令を下す。
そしてその命令に従い『サーフィス』がガラス片を掴んだままの右腕を上げた瞬間、間田と『サーフィス』の周りであることが起きた。

「!?」
「こ…このガラスの破片は!?」

右腕を上げた『サーフィス』の周りに突然、複数のガラス片がふよふよと宙を浮いて集まってきたのだ。
やがてどこかで見たことのある形を成していくガラス片に間田が目を剥いていると、向かい側に立つ仗助の口元が弧を描き始めた。

「その破片はよお、おめーにブチ当てるために投げたんじゃあねーぜ。元の形に直すために投げたんだぜ!」

ニッと笑った仗助の背後に『クレイジー・ダイヤモンド』が現れたかと思えば、その途端にただのガラス片は『サーフィス』の右手を巻き込んで元の瓶の形へと戻ったのだった。

「お、俺の右手がっ! 木に戻っちまったァ! やべえーっスよ間田さんっ!」
「お、落ち着けッ! ポケットに手入れてるフリをしろ! バレやしねーっ! 問題はよぉ〜…もうそろそろ承太郎と花京院が駅前に到着する時間ってこった…!」

目的を果たすには何としてでも本物より先に承太郎と花京院に会わなければならない間田は、今ここで仗助を相手するよりも先を急ぐことを決意したようで、建物の陰に身を潜めた仗助達を無視して駅前広場へ行くためその場を駆け出していく。
その直後建物の陰から姿を現した仗助は、どんどん小さくなっていく間田達の背中をじっと見つめながら、間田がぽろりと零した『駅前』という単語に「なるほど…」と呟いた。

「待ち合わせは駅前ね」
「じょ…仗助くん! 呑気してる場合じゃないよッ! やつらが行ったこの道が駅までの一番の近道なんだよ!?」
「っ、それじゃあ早く追いかけないと…!」
「そんなに心配しなくても大丈夫っスよ、名前さん。俺達には康一っつー男がついてくれてんスから……な、康一」
「…え…?」
「……?」

依然間田達より不利な立場に置かれているにもかかわらず、先を行けると言う確固たる自信を持っている仗助に、名前と康一は目を丸くしながら互いに顔を見合せたのだった。


* * *


杜王駅の東口ロータリーに停車した一台のタクシーから降りてきた承太郎と花京院は、待ち合わせ場所として指定された駅前広場を見渡し、自分達を呼び出した仗助を探す。

「…仗助のやつ、まだ来てねえようだな」
「みたいだね」

しかし、どこを見てもあの一発で誰だか分かる特徴的な髪型をした男の姿がないため、承太郎がちらりと自身の腕時計に視線を落としてみれば、時計の針は承太郎と花京院の正確さを表しているかのように待ち合わせの時間ぴったりを差し示していた。
ただ、彼らは待ち合わせの時間に相手が遅れたからと言って不機嫌になる人間でもないため、仗助が来るまで分かりやすい場所で待っていようと、承太郎と花京院は駅前広場に置いてあるベンチへと腰を下ろした。

「……しかし、こんなに早く杜王町にまだいる他のスタンド使いが見つかるとはね。しかも仗助くんの通う学校に…」
「…ああ」
「この間承太郎の所に電話を掛けてきた『弓と矢』を持っていると言う男……彼も学生なんだろう?」
「確証はねえが、そこを突いた時激しく動揺していたからな……まああの口振りからするに間違いなく社会人ではないだろうぜ」
「となると…仗助くんが見つけたというスタンド使いが『弓と矢』を持っているその男の可能性も……」
「無きにしも非ず…ってやつだな。取り敢えずは仗助から詳しい話を聞いてみねえと」

腰を落ち着けたベンチの周りに群がった平和の象徴であるハトを見ながら、あまり平和とは言えないスタンド使いの話を花京院と交わしていた承太郎は、もう一度腕時計に目を向ける。
時計の長針は先程示していた待ち合わせの時間から既に三分程進んでいたのだが、依然として仗助の姿は見えてこない。
ただ遅れているだけなら構わないのだが、もし仮に見つけたというスタンド使いに襲われでもしていたらと、承太郎の脳裏に一抹の不安というものが過ぎったその時――。

「承太郎! 典明!」
「「!!」」

睨みつけるように腕時計に目を落としていた承太郎と、本日発行された新聞に真剣な目を向けていた花京院の耳に、自身の名を呼ぶ、絶対に聞き間違えることのない声が届いてきた。

「…名前…?」
「いま名前さんの声が…、」

その声に敏感に反応した承太郎と花京院はパッと同時に顔を上げると、名前の姿を探すように声のした方へ視線を動かす。
すると、そこには「やったあ〜〜ッ!!」と嬉しそうにしている康一と、手を上げながら「俺っス! 仗助です!」となぜか己を主張する仗助、そして心底安堵したような笑みを浮かべて走る名前の姿があった。
待ち合わせの約束をしていた仗助を含め、どこか様子の可笑しい三人の姿に承太郎と花京院が疑問符を浮かべながらもベンチから腰を上げてみれば、承太郎の逞しい胸に大事な日傘を放り投げた名前が飛び込んで来たのだ。

「承太郎っ!」
「…っ、…」

どすっと凄い音がしそうな程の勢いに思わず承太郎は息を詰まらせるが、抱き着いてきた名前が縋るように背中に回した手でコートをぎゅっと握っていることに気づき、自身の胸元に顔を埋めている名前を呼んだ。

「…名前…どうした?」
「承太郎が無事でよかったよ〜!」
「…無事…?」
「典明もっ、本当によかった…!」
「僕も、ですか…?」

柔軟剤の柔らかな香りがするセーターから顔を上げた名前は、承太郎の隣に立つ花京院の姿をその瞳に映すと、ふにゃりと笑いながら花京院の手をきゅっと握った。
やはり普段とは少し様子が違う名前に承太郎と花京院は、すぐ側で「間田にいっぱい食わせたねッ!」と息を整えながら喜ぶ康一と、得意気に「だから言っただろ〜? お前がいるって」と笑う仗助に目を向ける。

「何かあったのか?」
「どうもこうもないっスよ〜!」
「承太郎さんと花京院さんを電話で呼び出したのは…仗助くんじゃあなくて、仗助くんの偽物なんですッ!」
「偽物…?」
「そうっス。実はですね……」

ふうっと息を吐いた仗助は今まさに自分達が体験してきた事の顛末を、承太郎と花京院に詳しく話し始める。

「コピーだと?」
「…指紋まで仗助くんをコピーしているスタンド、か…」
「そお〜っスよ! そいつが俺より先に着いてたらやばかったっスよー」
「見た目も声も話し方も仗助と全く同じなの! そのコピーが承太郎と典明を騙して襲おうとしてたんだから…二人とも危なかったんだよ!」
「でもこれで間田のことを承太郎さんと花京院さんに教えられたから安心ですね!」
「そうだね!」
「…そうか、そんなことがあったのか」

仗助から『弓と矢』を持っているスタンド使いとはまた別ではあったが、厄介な能力を持った間田と『サーフィス』の話を聞いた承太郎は、安心しきった表情で康一と笑い合う名前の頭を「心配してくれてありがとな」の意を込めて髪型が崩れないように優しく撫でる。
元々昔から口数が多い男ではない承太郎のその行動は、ずっと一緒にいた名前にはしっかりと意味が届いているようで、名前は承太郎を見上げてニッと口角を上げた。
そして咄嗟に放り投げてしまった日傘を拾いに名前が承太郎から離れると、彼女と入れ替わるように仗助が承太郎の前へと体を移動させる。

「それで、コピーとの見分け方なんスけど……俺がやつの右手をぶっ壊しておいたんで、そこで見分けてください」
「ああ、分かった」
「右手だね」

僅差で間田より先に駅に辿り着けたという康一から、そろそろ間田が追いついてくるだろうと聞いた承太郎と花京院は、偽物の仗助の姿が見えないかと辺りに視線を巡らせる。
そんな二人に伴い名前も康一も別々の方向を向き、色々と好き放題やらかしてくれた偽仗助を探そうと目を凝らすのだが、その後ろでただ一人コピーされた仗助本人だけが自身の行動に疑問を抱いていた。

「(…俺、なんで承太郎さんのコートのポケットからボールペンなんて取り出したんだ?)」

すっと本当に自然な流れで承太郎のコートの内ポケットに収まっていたシックなボールペンを取り出したことに、仗助は「なんでだ?」とたくさんの疑問符を頭に浮かべる。
明らかに今の状況では自分自身に必要のない物であるし、仮に必要だったとしても人の物を借りるのであれば一言くらい声を掛けるものだ。
そんな中でなぜ自分が承太郎のボールペンを勝手に抜き取っているのかと、仗助が思考を巡らせたその時――。

「(う…動か、ねえ…!)」

ボールペンを持った仗助の右腕が、まるで自分のものではないかのように、ピクリとも動かなくなってしまったのだ。
つい先程体感したばかりのものと全く同じ感覚に、ハッと何かに気がついた仗助が右側にある店舗の窓ガラスに視線を向けると、そこには自分の姿に重なるようにして佇んでいた『サーフィス』の姿があったのだった。

「!!」

ガラス越しに驚愕している仗助の姿を見ている『サーフィス』が、にやりと不敵な笑みを口元に浮かべれば、再び操られてしまった仗助は嫌でも口元に笑みを貼り付ける。
次いで声を発せられないように唇を真一文字に引き結ばされてしまった仗助は、カチリとボールペンの芯を押し出すと、それを持った右腕を大きく振り上げてしまう。

「(こ、こいつは〜〜ッ!)」

そしてその右腕を振り上げた体勢のまま、背を向けている承太郎に体の向きを変えさせられた仗助は、間田の考えているとんでもないことに冷や汗を流した。

「(承太郎さん――ッ!!)」

無防備な承太郎の首裏目掛けて振り下ろされる凶器と化したボールペンに、仗助が胸中で承太郎の名を叫んだ瞬間――。

 ――バッ!

「っ、お…!」

突然仗助の振り下ろされた右腕が何かに弾かれるように高く上がったかと思えば、その手に持っていたボールペンはクルクルと回りながら店の屋根の上へと飛んでいったのだった。

「……!」
「…仗助…?」

仗助の驚いたような声を耳にした名前達は一斉に振り返ると、右手を握ったり開いたりする仗助を不思議そうな目で見遣る。
そして、直前まで自分が襲われそうになっていたとは露ほども知らない承太郎に「どうかしたのか?」と尋ねられた仗助は、ちらりと窓ガラスに目を向けながら「いや…」と、首の後ろに手を置いた。

「どうやらあいつら……やっと間田を見つけてくれたようだなと思って」

ほっとしたような、疲れたような溜息を吐いた仗助の目には、ただの木の人形になってしまった『サーフィス』と、道すがら怪我を治してやった二人組の男に取り押さえられている間田の姿が鮮明に映ったのだった。


* * *


間田は病院に運ばれるほどの報復を受けたし、散々操ってくれた『サーフィス』は二度と使えないようボロボロになるまで殴りつけてやった仗助は、それはそれは爽やかな笑みを浮かべながら目の前で美味しそうに新作のジェラートを頬張る名前を見つめていた。

「んんっ! 美味し〜〜っ!」
「よかったっスね、まだ新作残ってて」
「うんっ!」
「…はあ、……グレートに可愛い…」

本来の目的であった新作のさくらんぼジェラートに無事にありつけたことで今日一番の笑みを見せる名前に、仗助の脳内には『グレート』と『可愛い』の二つの単語だけが駆け巡る。
そしてほうっと熱の篭った吐息を吐き出した仗助が、どんな甘い物よりも疲れた体を癒してくれる名前の幸せそうな姿を見つめていると、不意に目の前に薄紅色のジェラートが乗ったプラスチックスプーンが差し出された。

「…ん?」
「仗助にもあげる!」
「…え、…」
「だって仗助も食べたかったんでしょ?」

スプーンを差し出したままこてりと首を傾げた名前は、どうやら自分に向けられている仗助の熱っぽい視線をジェラートを欲しているものだと勘違いしたようだ。

「はい仗助、あーん」
「!!!」

人一倍食い意地の張っている神威と神楽とは違って、大食いではあるが美味しいものは分け合いたい精神の名前からしたら、今の行動は何気ないものであった。
しかし、見た目に反して結構純粋な少年である仗助にとっては、名前の行動は体中に大きな衝撃が走るほどのものだったのだ。

「(ぐ、グレートッ!! 名前さんが、お…俺に『あーん』って…!! 嬉しいけど、これっ…名前さんと関節キス……)」
「仗助? 食べないの?」
「く、食います!! 食わせて頂きます!!」
「おおっ…」

スプーンを凝視したまま微動だにしない仗助を不思議に思った名前が声を掛ければ、仗助に食い気味に否定されたため、名前は思わず驚いたような声を漏らしながら少し仰け反る。
しかしそんなに食べたかったのかとまたもや仗助の思考を勘違いしたまま読み取った名前は、既に一口分のジェラートが乗っているスプーンでもう一度掬うと、先程より多めに乗ったジェラートを「はい!」と仗助に差し出した。

「(…今日一日頑張ったし、これくらいのご褒美貰っても仗助くん悪くねえよな!)」

純粋に美味しいものを仗助に分けてあげようとしている名前と違って、煩悩に塗れている年頃の仗助は、ドキドキと煩く高鳴る胸をそのままに「…あー、」とゆっくり口を開ける。
招き入れるように開いた仗助の口に名前がスプーンを入れようとしたその時、彼女の細い手首を仗助ではない別の誰かの手が掴んだのだ。
そして悲しきかな、仗助が名前から食べさせてもらおうとしていた甘いジェラートは、名前の手首を掴んで寄せた花京院の口へと消えてしまった。

「……は、…?」
「うん…名前さんの言っていた通り、このジェラート美味しいですね」
「あっ! ちょっと典明…!」
「名前さん、僕がチェリーに目がないの知っているでしょう?」
「そうだけど〜っ!」

横取りするように間に割って入ってきた花京院に名前は頬を膨らませながら怒り、仗助は何が起きたのか分からないと言った表情で、ただ呆然と自分の代わりに美味しいシチュエーションを味わった花京院を見つめる。
そんな仗助の姿をちらりと見た承太郎は一つの溜息を零すと、にこにこと笑う花京院に「お前やっぱりいい性格してるぜ」と呆れた色を映した目を向けた。

「好物ってこともあるけど、少し仗助くんが羨ましくってね……そしたら思わず体が動いてしまったよ」
「大人気ねえやつ」
「…君には言われたくないな。承太郎だって『星の白金』まで出して何を止めようとしていたんだい?」
「……勝手に出てきただけだ」
「〜〜っ! まじでどっちもグレートに大人気ねえんスよぉ――ッ!!」
「(…頑張って、仗助くん…!)」

名前との癒しの時間とドキドキで甘い一時を一回りも違う大人気ない大人二人に邪魔された仗助の、悲しみと怒りが篭った叫び声を耳にした康一は胸中で仗助にエールを送ると、名前に奢ってもらった定番のストロベリージェラートを頬張ったのだった。

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