瓶底の空


警視庁の裏には木が生い茂り、小さな日陰になっている場所があった。石造りの植木は腰を下ろすのに丁度良い。しかしながらこの炎天下で感じる涼しさなど雀の涙ほどでしかなかった。アブラゼミの鳴き声が響き渡り、余計に暑さを感じさせる。

だが、今日の私はひと味違う。今朝事前に持ち込み、署の冷蔵庫にそっと入れていたラムネを手にしているのだ。ポンッと子気味良い音を立て、シュワっとサイダーが泡を立てる。
勢いよく喉を通っていったサイダーはスッキリとした味わいで、暑さでイライラしていた気分を洗い流してくれた。
ふと、飲み終わった瓶を持ち上げ太陽に翳してみる。ガラスの内側でキラキラと反射するビー玉は、何だか自分を少女時代の夏に連れてってくれるようだった。


「これ欲しいの?」

ラムネ瓶の透き通った青いガラスの向こう側に萩原さんの顔が映った。私が顔を上げると瓶の中でビー玉がカラカラと音を鳴らす。

「あ、はい。あの、綺麗だなって思ったんですけど蓋が上手く外れなくて」
「貸して」

萩原さんに差し出された手はちょっと骨ばっていて、すらっと長くしなやかでいて、男の人を感じさせた。
私が苦戦していたとは感じさせないスピードでラムネ瓶の蓋が開く。私の苦労はなんだったのか、それとも萩原さんだったからいとも簡単に取れてしまったのか。「はい、どうぞ」と手渡されたビー玉はガラス越しで見るよりもずっと綺麗に見えた。