Prolog


地平線の向こうから女神が微笑むように優しく差し込む柔らかい朝日。行っては返すさざ波は水面を滑るように踊り、キラキラと夜空に浮かぶ星のように輝く。手ですくうとサラサラとこぼれてしまう白い砂浜は落ちて砕けた星たちが流れ着いた、世界の果てのよう。

​──あぁ、この時間がもっと違う形で過ごせたら良かったのに。

幻想的な風景には似つかわしくない、彼が片手に構えるそれは私の人生の幕を閉じるのに最適だと思った。ベビーフェイスの彼は今まで見たことも無いような鋭い視線で私を捕らえていた。向けられた銃口に恐怖は感じなかった。こんな状況じゃなかったら「今まで1度も見せた事なかったのに、そんなに怖い顔してどうしたんですか?」なんて笑い飛ばせただろうに、と目を細めた。

頼むつもりもなかったのに彼が考案したからと押し切られて口にしたハムサンドも、彼の愛車の助手席から見ることができた彼の横顔も、好きだと言って私を貫く熱の篭った視線も、過去の幻想に消えてしまった。
だがそう仕向けたのは私、こうなる事はずっと前から分かっていた。きっとあのロミオとジュリエットにも勝る悲劇にしかならないのだ、私たちは。
愛してると言ってくれたアクアブルーの瞳に映る私は実に間抜けで滑稽な有り様だった。

「本当に愛してるなら、それで証明してくれますか?」

彼は顔を顰め、ぐっとグリップを握り直した。汐風に靡く絹のような金糸はとても綺麗だ。目をそっと瞑り、私の冷たい手を優しく包んでくれた褐色の大きな掌を思い出した。ぐちゃぐちゃになった感情を胸にした彼はそれでも迷いなく、長くしなやかな指でゆっくりと拳銃の引き金を引く。

貴方が思っていたよりも、私貴方のこと好きだった。