狙った獲物は

居候している私の同居人はとても可愛い。

数年前からの付き合いである諸伏景光は、どうやら込み入った出来事から我が家で匿うことになった。外に出ることは滅多に無いため、家のことは基本的には彼に任せていた。

「おかえり!真尋ちゃん」
「ただいま戻りました。わっ…いい香り…」
「今日はビーフシチューにしたんだ」

本当に嬉しそうに優しく笑うヒロさんを見ると、今日の疲れが全て吹っ飛んでいく心地がした。私の中でヒロさんという存在は家で待っていてくれる可愛いワンちゃんのようだ。
魔が差した、とでも言えばいいのだろうか。ふわりと笑うヒロさんの頭に手を伸ばす。彼は私よりずっと背が高くて、ガタイも良くて、男の人って感じてしまう時もあるが、この時は可愛いマスコットに触れるような気軽な感じだった。

「ヒロさん、なんだか可愛いです」

サラッとした髪の撫で心地はシルクのようで気持ちが良かった。このまま抱きしめてしまおうかと思ったが、ヒロさんは頭を撫でていた私の右手をそのゴツゴツとした皮の厚いしっかりとした手で掴んだ。恐る恐る彼の顔色を伺うと、ほわほわとしたさっきの表情など消え去ってしまっていた。

「真尋ちゃん、大胆だね」

まるで獲物を得た獣のような鋭い視線は私を捉えて離さない。「ビーフシチューは後で温め直せばいいよね」とヒロさんは呟いた。掴まれた手から熱がどんどん広がっていく。思わず後ろに下がってしまうが、考えているよりもずっと力強く手を引かれた。

「今日は逃がさないから」

ヒロさんの腕の中に収まった私にもう逃げ場などなかった。