雨のち晴れ晴れ

「最悪だ」

雨雲レーダーは一体何をしているんだとため息をつく。せっかくの午後休診の日、帰りにショッピングでもしていこうかとウキウキして病院を出た。しかしながら、今日は洗濯日和の良い天気になるでしょうと言っていたお天気アナウンサーも吃驚の大雨になってしまった。気分は冒頭の通り最悪である。
折りたたみ傘を所持している訳もなく、私はコンビニ近くのサンシェードのある建物で雨宿りを余儀なくされていた。

「真尋」

幼馴染に連絡…いや2人とも手を離せないだろうし…もういっそコンビニに走り込んでビニール傘でも買おうかと意気込んでいたところを呼び止められる。聞き覚えのある声の方へ振り向くと、シンプルな白いTシャツ、黒のロングパンツにサンダルなんてラフな格好をした陣平さんだった。普段のスーツ姿ばかり見ていたからなのか、つい不思議に思って爪先から頭の先まで視線を行ったり来たりしてしまった。そんな様子に陣平さんは可笑しそうにふっと吹き出した。

「え、陣平さん…どうして…?」
「たまたまコンビニ寄ったら、濡れ鼠になってるお前が突っ立てるのが見えたからな」
「濡れ鼠って…」

雨の日ほど鬱陶しくて最悪なことは無い。恐らくセットした髪はぺちゃんこ、化粧もボロボロで見られた姿じゃないのに、寄りにもよって1番見られたくない陣平さんに見つかってしまったのだから。

「傘、入ってけよ」

「流石に傘2本は持ってねぇからよォ」なんてくしゃっと笑う顔は、美和子ちゃんが言っていたドーベルマンを感じさせないほど穏やかで。
そんな陣平さんの優しさに胸の内は暖かくなり、頭の中をぐるぐると回っていた不安も天気に対する嫌悪感も全部霧散してしまうのだ。

「…うん」

私の顔からも微笑みが浮かんだ。
次はもっと私が可愛い時に見つけてね。