サングラスの奥に潜む

松田 SS 3本


幼馴染の零くんとヒロくんはどうも昔から私に対して過保護な部分があった。姉のことで悩んだ時にそばに居てくれ、大切にしてくれているは分かっているが、私ももう29になる。正直困ったものだ。
そんな私がこれからデートするということはもちろん2人には内緒だった。

「悪ぃな。待ったか」
「松田さん!いえ、私も今来たところです」
「あぁ?違ぇだろ」

苗字を呼ぶと松田さんの眉間に皺が寄る。いやいやいや勘弁してほしい。生まれてこの方、男性との付き合い方なんて幼馴染としか育んでないのだ。これくらいは許して欲しい。

「じ、じんぺい...さん」
「...及第点だな、真尋」

躊躇なく名前で呼んでくれる陣平さんに胸のときめきなど隠しておけなかった。






「真尋、今日の夜予定開けとけ」

突然病室のスライド式ドアが開いた。急患でも入ったのかと慌てそうになるが、入ってきたのは幼馴染の同期である刑事だった。天パにサングラスという人相の悪さに笑ってしまったことがある。

「何してるんですか、陣平さん」
「お前ん家で鍋すんぞ」
「誰と」

陣平さんは自分を指差し、次に私を指差した。

「俺とお前」

何食わぬ顔してどっかりと診察用の椅子に座り、決定事項だというふうに話を進めていく。

「陣平さんっていつも突然ですよね」
「約束してっとアイツらがうるせぇだろ」

悪戯に笑う陣平さんにはどうにも文句も反抗もできなくなってしまうのだ。






部屋中に充満する苦い香りに私は顔を顰めた。

午後の診察も特に問題なく終わることができると思っていたのに、米花町の事件は減ることなく急患で運ばれる患者は間を置かずに増えていく。苛立ちを感じながらも業務を終え、帰宅すると見慣れた刑事が私の家の居間を占領し、我が物顔でのんびりしていた。
「ちょっとこの部屋禁煙ですよ」
「ベランダで吸おうとしたら雨降ってきたからよォ」
少しムッとしてつい喧嘩腰になってしまう。
「煙草、やめたらどうですか?」
「無理だな」
「そんな即答しなくても」
ふと、たまには仕返ししてしまおう、なんて意地悪な考えが頭をよぎる。

「じゃあこういうのはどうですか」

手に持っていた煙草をするりと奪い取り、間髪入れずに陣平さんの唇を食んだ。
「お、まえそれはずりぃだろ」
動きを止めて目を見開く彼に、してやったりと私はほくそ笑んだ。
「煙草やめますか」
「...もういっぺんしてくれんなら考えてやる」