決めた。
一度決めたら、誰に何を言われても聞かないし曲げない。
私の長所兼、短所。
「お母さん、お願いがあるんだけど…。」
jewel.0.5
〈母娘の絆は断固として強し〉
---side 工藤柚希
今日から5日間、お父さんは仕事関係のパーティーに呼ばれて遠くに出掛けているから、絶対に帰って来ない。
普段、小説家という職業柄、家を空ける事が多くないお父さんが5日もいないなんて、こんなチャンスは2度とないはず。
意を決してお母さんの居るリビングへ降りる。
「あら柚希おはよう。今日は早いのね。」
「おはよう、お母さん。」
キッチンでコーヒーを淹れているお母さんは、私に気付くとカップをもう1つ出して、私の分も用意してくれる。
「ミルクと砂糖、持っていくね。」
「ありがと。」
そう言って先にソファに座り、オーディオをつける。
いつもはテレビの方が多いけど、今日は話の邪魔になる。
優雅なメロディーが鳴り始めると、お母さんが2人分のコーヒーを持って来て、私の隣に座った。
「今日はテレビじゃないのね。」
「うん、そんな気分?」
淹れてくれたコーヒーに角砂糖を1つ入れてスプーンで混ぜる。
いつもはミルクも入れるけど、今日は気合いを入れる為、と意味もなくほろ苦いコーヒーを飲む。
「ねぇ、柚希。あなた何か話があるんでしょ。」
普段より強い苦味に僅か顔をしかめた時、お母さんは“お見通し!”とでも言うようなお茶目な顔でそう言った。
「あーもう……何で分かるの?」
「あら、自分の娘の事くらい分かるわよ。柚希は、私から見れば分かり易い子だしね。」
ウインクまでキメたお母さんに少し悔しさを感じつつ、話のきっかけが出来て安堵する。
「お母さん、お願いがあるんだけど。」
「なぁに?」
「私、日本に帰りたいの。」
心臓の音がやけに大きく感じる。
駄目だと言われるだろうか。
もう自分の中で決めてしまった以上、諦めるつもりは無いけど、お母さんにだけは納得してもらってから行きたい。
「日本に?向こうは春休みだし、蘭ちゃん達と遊ぶ約束でもしたの?」
想像と違う反応に一瞬理解が遅れる。
「あ…あのね、一時的な帰国じゃなくて、向こうで暮らしたいの。」
「……。」
キョトンとした顔のお母さんと視線が重なったまま数秒の間が空く。
…くそぅ、我が母ながらやっぱ可愛い。
そんな事を考えた瞬間、ビクッとするほどの大きな声を出された。
「えぇー!柚希がいなくなったら、私も優ちゃんも寂しくて耐えられないじゃなーい!」
「何言ってんの、私が居なくたって仲良くやってるくせに。」
「あらバレちゃった?」
さすがに呆れてそう言うと、お母さんはあっさりと認めて真面目な顔になる。
「でも、寂しいのは本当よ。どうして日本に戻りたいの?」
「お母さん達、冬に一度日本に帰ったでしょ?その時、新一の事知ったのに隠してたんじゃない?」
蘭から“新一と連絡がつかない”と知らされ、学校も休学中になっているのを聞いた私は、何かの事件に巻き込まれているんだと思い、電話で阿笠博士に問い詰めた。
最初ははぐらかしていた博士を、なんとか説得して教えてもらった事実は、衝撃的なものだった。
「お母さん達が、私を巻き込まないようにって考えてくれてるのは分かってるの。でも、心配なの。新一はたった1人のお兄ちゃんだもん…。」
「柚希。」
お母さんは私の頭を優しく撫でてくれる。
この歳になってもこの暖かい手は大好き。
「それにね、理由はもう一つあるんだよ。最も、こっちは夢みたいな話だから、ついでにもならないかも。」
「バラの男の子ね。」
私の言いたい事をすぐに察したお母さんは、少し申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんね、あれから会わせてあげられなくて。」
「それはもう良いって言ったでしょ?仕方ないもん、お母さんのせいじゃない。ていうか、これで再会出来たら正しく“運命”だよ!最高でしょ?」
昔お母さんに連れられて行った喫茶店で、待ち合わせ相手の連れてきた息子さんに、私は一目惚れした。
その場でとある約束を交わした私達だけど、お母さんも相手の人も多忙で会う機会のないまま、その人は事故で亡くなったらしい。
「そうね。きっと私達みたいなラブラブ夫婦になれるわ!」
「話が早すぎるけど。」
そう言って2人で笑う。
「じゃあ早速準備しなきゃ。」
「優ちゃんがいない内に全てやらないとね!」
「そういえば、かいとくんの事、未だにお父さんに内緒にしてくれてるの?」
「もちろん!ネックレスの事も何も言ってないわよ。女同士の秘密でしょ?」
やっぱりお母さんはいつでも私の一番の味方だ。
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