何故だろう
あの子と会った瞬間から
気を許して良いと思ってしまった
自分でも信じられない程に
jewel.4.5
〈運命の糸は赤だけに非ず〉
---side 灰原哀
「あの、灰原さん。」
博士と工藤君が別室に移動すると、向かいに座っている彼女が話しかけてくる。
「…哀でいいわ。敬語もいらない。」
「あ、でも…。」
私の方が年上な事に遠慮して戸惑う彼女に、本当に工藤君と兄妹なのかと疑問に思ってしまう。
「良いのよ。工藤君なんか、敬語使った事なんて一度もないわよ?それに、今の私は小学生にしか見えないんだから、慣れておいた方が良いでしょ?」
「えっと…じゃあ、遠慮なく。」
そう言って笑った顔は、不思議と安心する気がした。
「あ、私の事も…。」
「えぇ、柚希って呼ぶわ。」
私の言葉に柚希はさらに笑みを深くする。
本当に良く笑う子。
「で?さっき何を言おうとしてたの?」
「そうだ、あの2人が戻って来るまで、住むところ探すのにあのPC貸してもらえないかな?」
「ええ、良いわよ。学校は江古田って言ったわよね?」
学校を確認してから、柚希が指差したパソコンを起動すると、不動産関連のサイトを検索する。
「学校と駅の丁度間位の場所とかが良いかしら。」
「そうだね、多分こっちに来る機会も多いだろうから。」
「家賃とか条件は?」
「取りあえずセキュリティーは第一優先で、細かい条件は特に…家賃は15万位までかな。」
「……。」
ケロッとした顔で想定以上の額を言う柚希に、思わず呆れた視線を向けた。
「いや、お父さんのカード払いだし、私には甘いから…セキュリティーの為なら多分もっとでも大丈夫な位なんだけど……。」
「そういう意味じゃないけど…まぁ良いわ。それならちゃんとしたセキュリティー設備の所に入れそうね。」
条件の良さそうな物件を幾つかピックアップして表示したものの、間取り図だけでは周りの様子や実際の使い勝手など分からない事が多すぎる。
「柚希、あなたこれから時間ある?」
「うん、すっごく暇。」
「だったら、直接行って決めましょ。」
不動産屋に電話して希望の物件を案内してもらえる事になった所で、博士と工藤くんがこっちを見て固まってるのが見えた。
「 あ、新一!私これから哀と出掛けてくるね。」
「え?!あ、あぁ、何処行くんだ?」
「柚希の部屋を探してたんだけど、間取り以外は実際見ないと分からないし、いくつか回ってくるわ。」
私達が、というより私が打ち解けてる事に驚いている工藤君の顔を見ながら笑った私の顔は、ひどく得意気だったに違いない。
「こちらの物件の特徴は、大きな南側の窓の開放感でして…」
「キッチンが狭いし、収納が少なすぎるわ。次。」
「…かしこまりました。」
不動産屋の案内で訪れる家は、やはり間取りだけでは分からない落とし穴が多々あって、説明を聞くまでも無く3つめの物件を却下した。
「もう、哀に全部まかせて決めるのが一番な気がする。」
そう言った柚希の顔がすごく楽しそうで、私も久しぶりに楽しいという感覚を覚える。
「次の物件は、日中の日当たりが悪いのですが、その分お値段の方が…」
「日当たりが悪い?じゃあそこもダメね。見る必要もないわ。」
「いや、でも日中とは言っても、お客様が学校に行っている時間位ですので特に問題はないかと……」
「居る居ないの問題じゃないわ。日が当たらなければ、どんなに気を使ったとしても湿気やカビは防ぎきれないのよ?良いから次。」
「…はい。」
「哀のおかげであっという間に決まったねー。契約もさっさと済んで明日丸一日引っ越しに使えて良かった。ありがとう!」
「まどろっこしいのが嫌いなだけよ。それにしても、どうしてわざわざ江古田なの?」
「あー……一応、新一の為の情報源は多いに越した事ないっていうのが最初の理由ではあるんだけど……。」
柚希が話してくれた昔出会った男の子の話は、私には到底縁の無い、普段だったらまともに聞いていられない様な内容だった。
だけどこの子の、頬を染めてとても嬉しそうに話す様子を見ると、不思議と素直に受け取っている自分がいた。
「なる程、運命の赤い糸っていうのを信じてるって訳ね。あなたらしくて良いんじゃない?」
私の言葉に嬉しそうに笑った後、悪戯っぽい笑顔で聞いてくる。
「ねえ、哀は運命の糸って赤だけだと思う?」
「え?」
「赤い糸って、異性と繋がっている物でしょ?でも、それ以外の家族や友人と繋がる糸があっても良いと思うの!だから、きっと私と哀も繋がってるよ!」
まさかそんな事を言われるなんて思っても見なかった。
驚いて思わず立ち止まった私を、柚希が振り返る。
「哀との糸はきっと黄色だね!」
「黄色?」
「ミモザの色!ミモザアカシアの花言葉は“友情”なんだよ!」
言いながら、これ以上ない位の笑顔を見せる柚希は、明るく輝く太陽の様で、心が暖かくなる気がした。
そんな事を考えていると、指を写真のフレームの様にした柚希がこちらを覗き込んでくる。
「哀ちゃんの笑顔いただきっ!」
「…そんな事言ってると、引っ越しの準備手伝ってあげないわよ。」
「手伝ってくれるの?!ありがとう!」
もし叶うのならこの暖かい空気に、いつまでも包まれていたいだなんて、この子はそう思わせてくれる。
あとがき→