薔薇と宝石の約束



今、アタシの頭ん中は

これ以上ないっちゅう位フル回転しとる


あの時の過ちを

また繰り返す訳にはいかないんや





jewel.28.5
〈今日の敵と疑わず明日の友と信ずべし〉
 ---side遠山和葉







「平次ー、()る?」

「お前なぁ…ノックもせんで入るな言うとるやろ。………おっと、早よ行かな工藤が来てまうな。」


休みの朝、暇やからなんとなく平次の家に寄ってみたら迷惑そうな顔。
でもこん位いつもの事やから何とも思わへん。
ていうか、何ブツブツ独り言言うてんのって思ったら、上着を羽織って出掛ける準備を始めとる。
“工藤が来る”とか何とか聞こえた気もするんやけど、まぁええ。


「なんや、出掛けるん?」

「あぁ、大阪城公園に新しく出来た、鈴木近代美術館にな。」

「え?それって新聞に出てた…。」


数日前から新聞で大きく取り上げられて、テレビでも話題になっとったはず。


「せや。怪盗キッドの予告状に書かれとった、“インペリアル・イースターエッグ”が展示される場所や。」

「平次、キッドに興味なんてあったん?」

「興味以前の問題や。大阪で盗み働いたろなんて、俺がさせへんで!」


得意気にそう言った平次は、帽子を後ろポケットに仕舞い込むと、バイクのヘルメットを手に取った。


「…和葉、お前も来るか?」

「え?!アタシも行ってええの?」


どうせまた置いて行かれるんやろて思ってたから驚いてると、平次はニヤリと笑う。


「昨日大滝はんから聞き出したんやけどな…今回警察は、毛利のおっちゃんに捜査協力を依頼しとるらしいんや。あのおっちゃんが来るっちゅう事は、くど…やのうて、あのボウズとねーちゃんも当然一緒に来るやろ?突然行って驚かしたろ思てな。」

「蘭ちゃん達大阪に来るんや!せやったら、どっかご飯食べ行ったりする時間あるとええなぁ!」

「まだ予告の時間もハッキリ解らんようやし、何とも言えへんけど…まぁその時間によっては、どっか行けるんとちゃうか?」


その言葉に期待を膨らませながら、バイクに乗り込んだ。











「あったり前よ!相手はあの怪盗キッド様!何たって彼は…」

「神出鬼没で変幻自在の怪盗紳士…。」

「「「?!」」」


到着したら丁度蘭ちゃん達も着いたみたいで、立ち話してんのが見えた。
側にバイクを止めると、聞こえた会話に平次が口を挟んで、皆驚いた様にこっちを見てくる。


「固い警備もごっつい金庫も、その奇術まがいの早業でぶち破り、オマケに顔どころか声から性格まで完璧に模写してしまう変装の名人ときとる……。ホンマに、めんどくさい奴を敵に回してしもたのう…工藤!」

「……え、私?」

「へ?」


また“工藤”言うてる…って思っとったら、それに反応したのは知らん女の子。
しかも、その子も平次もお互いの事知っとる感じ。


なんや、どういう事?

やっぱ工藤って女やったん?

でも、それやと蘭ちゃんが嘘吐いとる事になってまう…


そこまで考えてアタシはふと気付いた。
このままやと、あん時の二の舞や!

蘭ちゃんの事を、東京で平次の事たぶらかしとる“工藤”っちゅう女やと勘違いして、最悪の出会いを果たしてしもたのは、そう遠くない過去の話。

あかん、此処は我慢して様子を見んと…!
そんな事を必死に考えとる間に、また平次がコナン君の事を“工藤”って呼んだみたいで、蘭ちゃんに突っ込まれとる。
それに出来るだけいつも通りになるよう、アタシも平次にテキトーな事を言うておく。


「そういえば、服部君と柚希って知り合いだったの?」

「そうや!私初めて会うけど、平次知っとるん?」


ふと尋ねた蘭ちゃんに、心ん中でナイスや!と叫んでアタシも聞いてみると、中学の時に剣道の試合で知り()うた、かなり強い子らしい。
今、何段か知らん辺り、連絡取ってる訳やないんかなと思いながらその子を見とったら、ニッコリと可愛え笑顔を向けられた。


「はじめまして、工藤柚希です。」

「アタシ遠山和葉。仲良うしたってな。」


差し出してくれた右手を握り返しながら、結構ええ娘やない?と思っとったら、横から平次が心底驚いた様に声を上げてアタシもビックリする。


「…おい柚希、お前工藤言うんか!」

「え、今更?!…私、新一の妹だよ?」


アンタが工藤て呼んだ時に思い切り反応してたやん……。
他にもこの柚希ちゃんの名字が“工藤”やと分かる下りはあったのに気付かんなんて、本当に探偵なん?とか言いたなるのを何とか抑えとると、隣でさらに大声を出しよった。


「………はぁ?!工藤の妹って…せやかてお前、同い年やんか。まさか双子か?!」

「双子じゃないよ。新一が5月生まれ、私が翌年3月生まれで、正真正銘の妹だけど学年一緒。」

「へぇ、そないな事あるんやねぇ!」


アタシの言葉に柚希ちゃんは“珍しいでしょ”って言うて微笑んでくれた。
その後、美術館内の会長室まで歩きながら園子ちゃんの事も紹介してもろて、蘭ちゃんと並んだ時、小さな声で名前を呼ばれた。


「和葉ちゃん。柚希は心配いらないよ。」

「えっ?!」


思わず目を見開いて蘭ちゃんを見たら、優しく微笑んどる顔が目の前に広がった。
蘭ちゃんの話やと、柚希ちゃんには昔っから好きな人が居るらしい。


「蘭ちゃん、ありがとぉな…。」

「ううん!和葉ちゃん、前の事気にしてるかなって思ったから。柚希も、もちろん園子も、絶対仲良くなれるよ。」


満面の笑みでそう言ってくれた蘭ちゃんに、もっかいお礼を言ってから、前を見つめる。
平次とコナン君と並んで話しとる柚希ちゃんを見ても、もう不安な気持ちは無くなって何やスッキリした気分。


(ちゃんと話出来るように、ご飯行く時間位は作ってもらわんと…!)


一番の問題であるキッドの予告時間がまだ先である事を、アタシはとにかく祈った。

あとがき→
MAIN  小説TOP  HOME