薔薇と宝石の約束



快斗と工藤さんが付き合い始めた。

それはうちのクラス全員が祝福する出来事で。

良く思わない人の存在なんて、多分誰も考えていなかった。







jewel.64.5
〈誰にも入る余地など有りはせぬ〉
 ---side Classmate




「何か、廊下が騒がしい気がすんだけど。」

「あぁ、他のクラスの奴らだろ?」


休み時間になる度いつも以上に人の多さを感じる廊下に疑問を抱くと、すぐに横からその返事が返って来た。
しかし、このクラスに人が集まる理由が思い浮かばず、しかめた顔は戻らない。


「どうせ工藤さん目当ての男子達だろ?」

「あぁ…そういう事かよ。」


転入してきた日から可愛い、綺麗だ等と、全校に噂が広がる程の話題となった彼女は、あっという間に数々のファンを持つ事になった。

最も、当の本人は初めから快斗しか見ていなくて、自分に向けられる視線すら気付いていない様子だったが。


「快斗に取られたって信じたくないんだろ。」

「俺らからしたら、最初からお互いしか見えてない感じだったけどな。」


ホントホント…と同意しながら再び廊下へと視線をやった時、ふと違和感を感じる。


「なぁ…女子も、多くね?」

「は?」


当然の様に男子ばかりが集まっている前提で話していたが、どうやらそうでもない様子に解消した筈の疑問は再び舞い戻った。


「…何で?」

「あんた達知らないの?黒羽君、意外と人気あるのよ?」


何時から話を聞いていたのか、近くで話していた女子が振り返って発した言葉に、一瞬沈黙が走る。


「…はぁ?!だって、あの快斗だぜ?」

「そりゃあ黒羽君と言ったら、いつもふざけててスケベなイメージだけど、マジックしてる時が格好良いとか、結構優しい所があるとかって、彼の事好きな子って結構居るのよ。」


隠れファンって感じだけどねー、と言ってまたこちらに背を向けた女子からの情報に、信じられないと言った様子で俺達は思わず目を見合わせた。










「なぁ、柚希見なかったか?」


昼休み、周りを見渡しながら歩いてきた快斗の声に、どれから食べようかと弁当に向いていた視線をゆっくりと上げた。


「さっきから姿が見えねーんだよ。」

「他のクラスの女子達とどっか行ったのは見たぜ。昼メシじゃねぇの?」

「他のクラス…?」


俺の言葉に訝しげな顔をした快斗は、さんきゅと一言告げて教室を出た。

何となくその様子が気になった俺が立ち上がると、一緒に弁当を広げていた2人も同じ気持ちだったらしく、目配せしてから揃って教室を後にした。


快斗が走って行った方向に向かうものの、階段の所でどっちに行ったか分からず足が止まる。
その直後、階段を降りてくる美園先生の姿に気付いた。


「先生!快斗、いや工藤さんでも良いけど見なかった?」

「工藤さんなら女子何人かと屋上の方に向かうのを見たわよ。あの子、他のクラスにはまだ友達居なかったと思うんだけどね?あぁ黒羽君はさっき私からそれを聞いて走って行ったわ。」

「ありがとっ!」


一言お礼を言うと急いで階段を駆け上がる。
“青春ねー”なんて呑気な先生の声は、俺達には届かなかった。


「まさかとは思ったけど、呼び出しってやつかよっ?!」

「つーか屋上って、ベタ過ぎだろっ!」

「工藤さん無事だと良いけどっ!」

「俺は快斗が暴走しねぇか心配っ!」

「とにかく急ぐぞっ!」


幸い運動部で鍛えてる俺達は、少し息を切らす程度で階段を一気に上りきる。
目の前に現れた屋上への扉は自らゆっくりと閉じようとしている所で、たった今快斗が通り抜けたのだと悟った。


「柚希っ!」


僅かに聞こえた快斗の必死な声に、俺達は一瞬目を合わせてから扉の先へと飛び込む。


「オメーら、柚希に何の用?」

「快斗っ?!」
「「「黒羽君っ?!」」」


工藤さんと、囲むように並んだ女子4人の間に入り込んで睨み付ける快斗の姿に、全員の驚いた声が響いた。

取り敢えず無事な様子の工藤さんにホッと息を吐いて、1歩踏み出そうとしたその時…聞こえてきた言葉に動きが止まる。


「快斗…どうしたの?」

「…は?」


あまりにも落ち着いた声色で、きょとんとした顔をして尋ねる工藤さんに、快斗も俺達も目を丸くした。


「どうしたって…柚希お前、コイツらに呼び出されたんじゃ…。」

「えっ?いえ、私達は…。」

「あ、私が話すよ。」


快斗の視線に慌てて何か言おうとした4人に、工藤さんはにこりと笑ってそう言った。


「他のクラスの男子数人がね、私が快斗に騙されてるに違いないとか勝手に決め付けて、私の“目を覚まさせるんだ”なんて話をしてたらしいの。」

「はぁ?!何だよそれ!」


より一層不機嫌な顔をした快斗に苦笑してから、工藤さんは話を続ける。


「それで、私が1人になるのを狙ってるらしくて…。それを聞いた彼女達が、私に注意した方が良いって教えてくれてたんだよ。」

「そうだったのかよ…。悪ぃ、いきなり怒っちまって。」


快斗の謝罪に口々に“大丈夫”、“気にしないで”等と言う彼女達を見た工藤さんは、快斗の顔を覗き込むようにしてニッコリと微笑んだ。


「でも良かった!快斗の事を好きになる子達は、優しい人に決まってるもんね!」

「工藤さんっ?!」


工藤さんの発言に途端に慌てる彼女達を見て、やっとその意味が分かった。


「何だよ快斗、お前にファンが居るってだけでも信じらんねぇのに、さらに皆良い子ばっかりとかずる過ぎんだろー。」

「ホントだよなー!しかも、男友達の俺らも良いヤツなら最強じゃね?」

「オメーら、いつから居たんだよっ?!」


快斗に声を掛ければ、今まで俺達の存在に気付いていなかったらしくあからさまに驚いている。


「お前が飛び込んでった所からずっと居た。それより、話の奴等探し出すなら手伝うぜ?」


ニッと笑った俺にさんきゅ、と言ってから快斗は女子4人に向き直る。


「ホント、疑って悪かった。柚希の事気にしてくれてありがとな。今度お礼に、とっておきのマジック披露すっから!」


その言葉に嬉しそうにする4人を見て、あぁコイツのこういう所が好かれるんだろうな…と柄にもなく感心してしまった。
そして、そんな彼女達をみて微笑み合う快斗と工藤さんの姿は、まるで何年も一緒に居たかの様に自然で、誰も入る隙など無い位にお似合いだった。





結局その後、悪巧みをしていた奴等は、何故か俺達より早く美園先生の手により制裁を受けていたなんて話は、俺達一部の人間しか知らない。

あとがき→
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