「3年C組のお化け屋敷は如何ですかー?」

「13時から体育館にて演劇部のロミオとジュリエット上演しまーす!!」


沢山の人でごった返す学校の廊下。
絶えない話し声に負けじと声を張る宣伝係の看板の前を通り過ぎ、俺…黒羽快斗は目的の教室へと辿り着いた。

帝丹高校2年B組。
今日はお洒落なカフェへと変貌しているこの教室に来た目的は、工藤新一の身近な人物に成り済ます時の為の偵察。

…の、はずだった。



「へぇー似合ってるじゃない名前。」

「あ、ありがとう園子ちゃん…。」

「でも珍しいね、名前が裏方じゃないなんて。」

「風邪で休んだ日に決まっちゃってたの…。」


変装した姿で端の席に座る俺の視線の先には、工藤新一のクラスメイトである毛利蘭と鈴木園子の姿。
そしてその2人に挟まれているのは、名前と呼ばれアリスの格好をした大人しそうな女の子。

初めて見るその姿に釘付けになっている自分に気付いた途端、身体が芯から熱くなるのを感じた。
それと同時に無性に恥ずかしくなってきて、無理に視線を外す。


あの2人と親しげだって事は、工藤新一とも関わりがあるはずだよな…。
だったら、あの子の事を知る必要があるじゃねぇか。

こじつけだなんて分かってるけど、理由なんてどうでも良い。
もう一度視界に入れようと首を動かせば、既にその姿は消えていた。


「…まじか。」


彼女を探す手掛かりは名前とアリスの格好のみ。
手当たり次第に探すには、人が多すぎる。
さてどうするかと視線を落とし、ふと目に入った冊子を手に取った。

文化祭のイベント案内等が書かれたそれには、クラスごとの出し物の説明も載っている。

これでアリスの格好するような所を探せば、と2年のクラスを1つずつ確認するが、それらしきものは一切無い。


「いや、だってタメ口だったよな…?」


思わず声に出たが、幸い周りはそれぞれの話に夢中で気付いていない。
念のため、と目を滑らせた先に見つけたのは“1-A コスプレ案内人サービス”の文字。
その内容は、様々なコスプレをした案内人が、校内の目的地まで最短距離で連れて行ってくれるという奇抜なもの。

他を見ても、アリスの格好と結び付くのはこのクラスだけだ。
僅かに残っていたジュースを飲み干してから、そのクラスへ向かうべく出口へと向かうと、足元に黄色いものが落ちてるのが見えた。










「あ、お兄さん!コスプレ案内サービスなんて如何ですか?お一人様には特にオススメっすよ!」

「あー…客じゃなくて悪ぃんだけど、名前ってこのクラスで間違いないか?今日はアリスの格好してるはずなんだけど。」

「あ、はい。うちのクラスですけど…。」

「あいつ恥ずかしがってクラス教えてくれねぇからさ、コッソリ見に来たんだ。」


いかにも知り合いを装ってそう言えば、何となく怪しんでいた客引きの男子は、取り敢えず納得してくれた様子でなるほど、と言った。


「でもついさっき案内に出ちゃったんすよ。ちょっと怪しいお客でしたけど。」

「怪しい?」

「うち、案内料200円で、案内人はランダムでやってるんですけど、アリスの子にしろって煩くて。断るつもりで指名料は5000円だって言ったら平気な顔して払うから、仕方なく受けたんすよ。」


それは怪しいどころの話じゃねぇだろ。
俺の表情を見て焦った様に大丈夫です!と言われるが、何でそんな確信を持てるのかが分からない。


「女子は全員、大音量の防犯ブザーを持たせてますから!」

「…防犯ブザー?」

「はい、何かあればそれを鳴らす事になってるので……え?」


自信満々に言うその目の前にさっき拾った黄色い防犯ブザーを出すと、途端に顔が青ざめていく。


「さっき、拾ったんだ。」

「裏、見せて下さい!…5番のブザー……まじかよっ。」


ブザーの裏に書かれた番号を、ポケットから取り出した紙と照らし合わせると、“アリス(工藤 名前)”の文字を指差しながら俺に見せてきた。


「すいません、お兄さん知り合いなんすよね?!追いかけてもらえませんか?!俺、クラスの皆に伝えてから向かうんで!」

「分かったから早く場所教えろ!」










案内サービスの目的地は写真部の展示がしてある空き教室。
目的地こそ問題ないものの、その教室の方向は人が山ほど来ている今日、一番静かな場所かもしれないらしい。

どうして話した事も無い子の為に、こんなにも必死に走っているのか。
そんな事、今はどうでも良かった。


「確か、この辺のはずっ…。」


一度立ち止まって当たりを見渡すと、少し先に写真部展示の看板が見えた。
取り敢えずそっちを覗いて見ようと足を踏み出そうとした瞬間、真横の空き教室からガタンと音がする。


「おい!誰かいんのか?!」


言いながらドアを開けようとしても鍵が掛かっていて少し揺れるのみ。
反対のドアも同じで、蹴り飛ばそうかと思った所で、一応窓にも手を伸ばす。


「なっ!?」

「なんだ開いてんじゃん。その手、離そうかオニーサン?」


教室の中には両腕を後で拘束され、手で口を塞がれたあの子の姿。
窓枠を乗り越えながら言うと、男はイラついた様子で睨んでくる。


「何だお前!」

「いいからさっさと離せって言ってんだよ。」

「んだと?!」


殴り掛かってきたそいつを、わざとギリギリの所で避ける。
バランスを崩して壁に激突したそいつは、一向に起き上がる様子がない。


「まじかよ、伸びてんじゃねえか…。えっと、大丈夫か?」


振り返って声を掛けると、緊張がとけたのか涙をポロポロと溢す。


「あ、ありがとうございますっ。」

「おー、もう大丈夫だからな。」

「あの…どうして…。」


ポケットに入っていたハンカチで目元を拭いてやると、戸惑った様に質問された。
2年のクラスで偶然見掛けた事など、経緯を簡単に説明すると納得したように笑顔でもう一度お礼を言ってくれる。


「一瞬、お兄ちゃんかと思いました。そっくりなので。」

「え?」


今の俺は変装をしていない。
この子に自分を見てほしかったから。
って事は…。


「君…名前は?」

「えっと…工藤名前です。」

「工藤……お兄ちゃんってさ…」

「あ、もしかして…知ってますか?工藤新一です、高校生探偵の。」


予想通りの答えに頭を抱える。
よりにもよって一目惚れした子がアイツの妹って…。

でも、それで諦める気にはならねぇ。
いや、むしろ大事な妹を俺が盗んでやる。


「俺は黒羽快斗。良かったら、クラスのサービスでも良いから、文化祭案内してくれねぇ?」

「あ…はい!助けてもらった話をすれば抜けさせてくれると思うので…ご希望の所、みんな案内させてもらいますね…!」


か細い声で一生懸命話す様子に再び熱を感じた。


「ってかそもそも、何で俺が名前ちゃんを探してたか分かる?」

「え…?」







その瞳に俺を映して

「一目惚れしちゃったんだよね」
「えっ?えぇ…?!」
「つー訳で、まずは友達からよろしくな!」
(アイツとそっくりなんて、もう言わせねぇ)

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