次の日、アズミは親切な寮生たちに囲まれて朝食を食べ、初授業へ向かった。そして、今隣を歩いているのは昨日と同じくリドルである。

まだ校内の構造をわかっていないだろうから少しの間一緒に行動しよう、放課後校内を案内しよう、と朝食の後に声をかけられたのだった。勿論それを無下にすることなどできない。

「ありがとうリドル」


嬉しい提案だと言わんばかりに笑顔をまき散らしてそう言う他なかった。アズミが初日から胃が痛くなる思いだった。

それから、リドルのテリトリーに深く入り込まない程度の会話を交わしていたら、すぐに教室に着いた。1時間目は変身術の授業である。

***

教室の席も自然とリドルと隣になった。こうなるだろうとは思っていたが、これからもずっと気を張り詰め続けることを考えると憂鬱である。

ダンブルドアは互いに完璧な笑顔を貼り付けて座る2人を見て、楽しそうに笑った。この狸ジジイめ…と思ったのはここだけの話である

「リドル。おぬしは優等生じゃからわしの細かい指導なしでも授業にはついていけるじゃろう。よければ説明の合間でアズミに1年生レベルから魔法のことを教えてやってくれんかの?」

「わかりました。ちゃんと授業についていけるか不安ですが、頑張ります」

ダンブルドアからの頼みをリドルは二つ返事で了承する。 こうしてリドルのマンツーマン魔法講座はスタートしたのだった。

(あっ一瞬だけすごい嫌そうな顔した)

***

「ごめんね、なんか面倒なことさせちゃって」

「いいんだよ、僕は君の世話係なんだからさ」

リドルはそう言ってアズミに杖を出すように言った。鞄から杖を取り出して机に置く。リドルの白い杖が彼はヴォルデモートになるということを感じさせたが、そんなことよりも目の前の問題に頭を抱えたくなる。

(魔法…ちゃんと使えるかな)

昨晩は魔法を使った自主勉強はしなかったため、ここまで来てもまだ実際に魔法を使えるということを信じきれないでいた。リドルはそんなアズミの考えを知ってか知らずかこう言う。

「とりあえずは魔法を使うって感覚を体験してみるのが1番いいと思うよ」

リドルは小さなマッチ棒を取り出した。ふと、賢者の石のあのシーンを思い出す。

「これを針に変えてみて」

それはまさに原作の変身術の授業で行われたことだった。そんな奇跡にアズミは一瞬だけ嬉しくなるが、すぐに現実のことを思い出して気が欝になる。

「ええっと…」

正直突然針に変えろと言われてもどうしていいかわからない。そうリドルに目で訴えると、リドルは察したように自身の杖を握ってマッチ棒の上で軽く振る。

次の瞬間には先の尖った針が机の上に置かれていた。

「わあ…!」

「変身術に大切なのはイメージと、変えたあとの状態に関する知識だ。マッチ棒が針に変わっている様子を強く意識してどんな針に変えるか思い浮かべて」

リドルはそう言ってまた杖を振り、針をマッチ棒に戻した。次はアズミの番だ、というようにリドルがこちらに視線を送る。アズミはごくりと唾を飲んだ。

(イメージ…イメージ……。針に変わる…。鋭い、裁縫針…)

覚悟を決めて目をぎゅっとつぶり、杖を振った。

結果が怖くて目が開けられないアズミの耳へ最初に届いたのは、隣から聞こえた息を呑む音だった。

「すごいな…。まさか一発で成功させるとは思わなかったよ」

その言葉に驚き、はっと目を開けた。目の前にあったのは、紛れもなく裁縫針だった。

「嘘…本当に変わってる…。もしかして成功した…?」

「うん、おめでとう。…そうだ、試しにもっと色んなものを変えてみないかい?」

「うん!」

その後リドルに言われた通りに アズミは様々なものを変えてみたが、そのすべてを一度で成功させるという快挙を成し遂げた。

そのなかには5年生レベルを超えるような静物を生き物に変えるというものもあったのだが、どれも完璧に変身させてしまったのだ。

金のゴブレットがインコに変わるのを見てリドルが目を細めたが、アズミは自分が本当に魔法を使えるという事実に舞い上がっていてそれに気づくことはなかった。

***

「君が本当に魔法に触れてこなかったとは思えないよ」

1日の授業を全て終えて、校内を案内されている時にリドルはそう言った。正直、そう思われてもしょうがないと思った。

闇の魔術に対する防衛術の授業では全部とは言わないが1,2年生レベルの呪文なら制限なく完璧に打てた。呪文学では、かの有名な浮遊術も呼び寄せ呪文も難なくこなした。魔法薬学ではリドルのサポートこそあったものの5年生レベルの、OWLレベルの魔法薬を完成させたのだ、

もうここまでくるとアズミだって驚くしかない。

「わからない、どうしてだろう。本当に今日まで魔法なんて使ったことなかったのに」

戸惑うアズミにリドルは少し声のトーンを下げて聞く。

「そういえばアズミ、君は純血の生まれでありながらマグルに育てられたって校長先生に聞いたんだけど、どうして?それにマグルの世界で育っても魔法が使えるなら11歳でホグワーツに入るはずなのに、何故今頃から入学したの?しかも編入という形で。…答えにくい質問だったら申しわけないんだけど、気になってさ」

……何だその設定。

突然された、こちらへ一歩踏み込んだような内容の質問と、知らない出生設定に足が止まる。なんだかよくわからないことになっているが、うまく答えなければならない。

アズミはまるで言いにくいことを打ち明けようか迷った顔を作って、止まりそうな頭を動かし理由をでっちあげる時間を稼ぐ。そして、パッと考えついた内容を話始めた。

「実は私…つい最近まで魔法が使えなかったみたいで、それを恥ずかしいと思った両親が私をいなかったことにするためにマグルの孤児院に入れたらしいの」

マグルの孤児院。

その言葉に一瞬だけリドルが眉を潜めたが、それに気づかないふりをして話を続ける。

「だけど1週間前、突然孤児院が火事になって、命の危険からかずっと使えなかった魔法を無意識のうちに使って火を消したみたいなんだよね。それでようやく魔法が使えるようになったからホグワーツに入学してきたんだ」

「…さっきから『らしい』『みたい』って言っているのはどうして?」

「火事のショックで、ダンブルドア先生が私をホグワーツへ連れてくるより前の記憶がなくて。だから今のはダンブルドア先生から聞いた説明だから、はっきりと言うことはできないの。ちなみに5年生から編入したのは、この年齢で1年生は可哀想だからってことみたい」

ここに来る前のことを聞かれても困るので、何も質問できないように。それでいて本当っぽい理由をリドルに説明した。即席で考えたにしては上出来ではないだろうか。リドルはアズミの瞳をじっと見つめた。

その瞬間、体がぐらりと揺らぐような感覚に襲われる。視界が、意識が歪む。だが、パチンと小さな破裂音が響いてそれは収まった。

それにアズミはハッとして、リドルを見た。リドルは、先ほどからまるで表情を変えていない。

「言いにくいことを言わせてごめんね。今日はもう寮に帰ろうか」

リドルは何事もなかったかのようにそう言って寮に向かって歩き始めた。アズミは慌てて、胸を押さえながら先を歩くリドルの後を追いかけた。

(今のは、もしかして開心術…?でも、昔の記憶が雪崩込んできたわけではないし…私閉心術が使えたの?まさか無意識で?)

クエスチョンマークが頭を渦巻くなか、アズミはリドルと帰路に着いた。何を言っていいかわからず、リドルも何一つ言葉を発しようとはしなかった。

結局、寮に着くまでに2人が口を開くことはなかった。

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